永子の窓

趣味の世界

枕草子を読んできて(116)

2019年03月24日 | 枕草子を読んできて
一〇三 くちをしきもの(116) 2019.3.24

 くちをしきもの 節会、仏名に雪の降らで、雨のかきくらし降りたる。節会、さるべきをりの、御物忌にあたりたる。いどみ、いつしか思ひたる事の、さはる事出で来て、にはかにとまりたる。いみじうほしうする人の、子生まで年ごろ具したる。遊びをもし、見すべき事もあるに、かならず来なむと思ひて呼びにやりつる人の、「さはる事ありて」など言ひて来ぬ、くちをし。
◆◆残念なもの 節会、仏名に雪が降らないで、雨が空を暗くして降っているの。節会やしかるべき行事の折が宮中の物忌みに当たっているの。競争して、早くその日が来てほしいと思っているのに、用事ができて、急に中止になってしまうの。ひどく子を欲しがっている人が子を産まないで何年の連れ添っているの。音楽の遊びもし、見せようと思っている時に、必ず来るだろうと思って、使いを出して呼んだ人が、「さしつかえがあって」などと言って来ないのは、残念だ。◆◆

■節会(せちえ)=節日・大礼・公事のある日に天皇が群臣に酒餞を賜う儀。

■仏名(ぶつみょう)=仏名会は「毎年12月19日から3夜の間、清涼殿で、過去・現在・未来の三千の仏名を唱えて、その年の罪業を懺悔し消滅させる法会



 男も女も、宮仕へ所などに、同じやうなる人もろともに、寺に詣で物へも行くに、このもしうこぼれ出でて、用意はけしからず、あまり見苦しとも見つべくぞあるに、さるべき人の馬にても車にても、行きあひ見ずなりぬる、いとくちをし。わびては、好き好きしからむ下衆などにても、人に語りつべからむにてもがなと思ふも、けしからになンめりかし。
◆◆男でも女でも、仕えている所などで、身分・気質など同じような人が、寺に詣でたりどこかへの出かけて行くときに、牛車から衣装が風流にこぼれ出ていて、その趣向はひどく風変わりで、あまりにも見苦しいと人が見るであろうが、しかるべき人が馬に乗ってでも、牛車にでも、行きあって見てくれるということがなくて終わってしまうのは、本当に残念だ。がっかりして情けなく思っては、せめて、風流心のありそうな下層の者などであっても、ちゃんと人に話して聞かせるに違いなさそうな者が欲しいな、と思うのも、はなはだ奇妙なことであるようだ。◆◆

■宮仕へ所=出仕している所。必ずしも宮中とはかぎらない。

■こぼれ出でて=出衣(いだしぎぬ)をいう。

■かしからず=「怪しくあらず」であるが、怪しくあるどころではなく、はなはだ怪しくある、の意を表すという。ひどく異様だ。

■さるべき人=さあるべき人=身分教養高く見せがいのある。

*写真は仏名会


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