わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

素朴な疑問 238 スリップウェアとは5?

2016-05-04 21:44:34 | 素朴な疑問
6) 現代の「スリップウェア」と作家さん達。

 英国の民窯で作り続けられた「スリップウェア」は、20世紀初頭に姿を消します。

 しかし我が国では、古典的な「スリップウェア」を更に発展させて、精力的に作品を作り続けて

 いる作家さんや、「スリップウェア」を現に手掛けている幾つかの窯元もあります。

 ① 布志名(ふじな)焼きの窯元(島根県松江市)で作られています。

  バーナード・リーチと親交のあった、船木道忠(1900~ 1963年 島根県 指定重要無形文化財保持

  者)と、その長男の船木研兒 (1927~2015年)は、民藝運動に参加し、「スリップ ウェア」の

  復元に努力し、作品を作り続けていました。

  ◎ 注: 当ブログでも、現代陶芸78、79(船木道忠、研児1、2)で既に紹介していますので、

   興味のある方はご覧下さい。

  ) 船木道忠氏の作品。

   黄釉を生かした作品で、楕円皿、楕円鉢、角鉢などの平面的な作品の表面には、抽象的な

   文様が描かれ、花入、花瓶、壷、鶏冠壷(けいかんこ)等の立体的な作品には、化粧土の

   流し掛けや藁描などの技法を使い、文様を付けています。

  ) 船木研兒(けんじ) 氏の作品。

   鹿、鶏、兎、獅子、梟(ふくろう)などの動物が、スリップを用いて具象的に描かれた作品が

   多く、その他、スリップ技法による、鳥文や河童図の陶板なども手掛けています。

  ) 布志名焼きの湯町窯。

   江戸中期頃から続く布志名焼きの特徴は、来待石(きまちいし)と呼ばれる石の粉を用いた

   淡黄釉にあります。湯町窯二代目福間貴士氏(1909~1989年)は民藝運動に共感し、リーチ達

   の薦めに応じて洋食器を作り始めます。日曜雑貨の食器には、筒描きによるスリップが施され

   ます。リーチは7回も訪れ滞在し、スリップ技法を指導したそうです。

   現在は三代目が後を継ぎ、スリップウェアーの作品を作り続けています。

 ② スリップを用いた陶芸家達。

  ) 武内晴二郎氏(1921~79年) 岡山市生まれ。

   倉敷市西の高梁川の旧い堤の跡に、1960年登窯の「酒津堤窯」を築きます。戦争で左腕を失う

   も、型物を中心にスリップ、型押、象嵌などの技法を駆使した作品は、重厚で力強い作品を

   作ります。尚、晴二郎亡き後、息子の 真木(マキ)氏が継承します。真木氏は、栃木県益子町

   の浜田窯に入門し、その後「酒津堤窯」を「倉敷堤窯」と改名されました。

  ) 齊藤十郎氏(1969~)静岡県伊東市在住。

   齊藤氏のスリップ模様の付け方は、タタラ作りでこの表面全体を赤色などの色土で化粧掛けし

   その後、素地が乾燥する前に、白などの色違いの化粧土をスポイト掛けします。但し太めの

   縞模様とします。一筆書きの要領で折り返しながら全体に縞模様を付け、縞と直角方向に櫛状

   の用具で撫ぜる様に引っ張ります。(フエザーコームの技法です)化粧土がある程度乾燥し

   たら石膏型又は土型に合わせて形を作ります。焼成温度は高火度焼成します。

  ) 前野直史(まえのなおふみ)氏  (京都府南丹市日吉町生畑) 

     生畑皿山窯(きはたさらやまがま))

   スリップウェアとの出会いは、1989年に兵庫県近代美術館で開催された「セントアイヴィス

   展」だそうです。 彼の作品は、皿の表面に白化粧を施し、茶色のスリップを用い筒描きの

   要領で、螺旋状の「ぐるぐる模様」に特徴があります。近年はしばしば、個展グループ展を

   開催しています。

  ) 伊藤丈浩(いとうたけひろ)氏(1977年千葉県銚子市生) 栃木県益子町在住

   ・ 掛分(かけわけ)指描文: 二色の化粧土を掛け分け、その境界を指でなぞり、ジギザク

    模様を付ける方法です。

   ・ ヘリンボーン模様: 伊藤氏のトレードマーク的な文様と成っています。

    酸化第一鉄を加えた化粧土(茶色系)を、タタラの表面に流し掛けする。次にスポイト状の

    筒にやや薄めた白化粧土を入れ、左右折り返しながら縞模様を付ける。縞の間隔はやや広く

    取り、化粧土が平らに成る様にテーブルを叩く。細いスポイトを用いて上記縞模様と直角

    方向に、先端を模様に付けながら細い線を全面に引く。すると細かい「ジグザク」模様と

    なり、ヘリンボーン模様が完成します。」スリップウェア」制作の若手の一人です。

    伊藤氏も各種の販売方法で作品を販売しています。

 ◎ 以上の作家さん達の作品(写真)や展示会等の情報は、ネット上で見る事ができます。

   興味のある方は、名前を入力し検索して下さい。

 ③ 「スリップウェアー」の作品が展示されている美術館など。

  ) 大阪日本民藝館: 大阪府吹田市千里万博公園

  ) 鳥取民藝館:   鳥取県鳥取市栄町 651

  ) 倉敷民藝館:   岡山県倉敷市中央 1-4-11

以上で「スリップウェアー」の話を終わります。


参考資料: 「スリップウェア」(Slipware)

  副題: 英国から日本に受け継がれた民藝の器 その意匠と現代に伝わる制作技法

  編者、発行所: 誠文堂新光社    
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 素朴な疑問 237 スリップウ... | トップ | 素朴な疑問 239 自前の電動... »

コメントを投稿

素朴な疑問」カテゴリの最新記事