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黒い十人の女 '61 日本

2016-09-29 | ミステリー&サスペンス
その男は、女たちに優しかった。
夫に愛人がいることに気づいてはいたが、さすがに9人ともなると、妻にしてみれば怒りを通り越して何も感じなくなってしまうようである。

「誰にでも優しいということは、誰にも優しくないってことよ」
妻は愛人の一人にこう言う。
女たちは男に夢中だが、男は花から花へ、一時として定まらない。
それが女たちには我慢ならない。
「いっそのこと、誰か殺してくれないかしら」
「そうよ、あの男(ひと)がいなくなれば、どんなに清々するか」
そのうち女たちは、男の殺害計画をもちだすように・・・。
この優男は、もうどうしようもないのだった。
女たちがどれほど苦しんでいるかなど、これっぽっちも気づかないでいる。

男女を問わず、「優しい人」がタイプという人は多い。
ただしそれは、男女の意味合いで優しい人がいいという、あくまでも自分に対してねってこと。
ここに出てくる女たち(妻はとおに割り切っているが)は、みんな男の優しさに惹かれている。
でも彼は、誰にでも優しい。
ああ、口惜しい。

後に男は、自分が殺されようとしていることを知り、妻に相談する。
ふたりは一芝居うつことに。

男はもういないのだと知ると、女たちは未練がましくも去っていくのだが、その中に、男への執念を燃やす女が一人いたのだった。

かつてのヌーベルバーグを彷彿させるような、今観ても非常に芸術的な作品である。
名匠市川崑監督の独特のノアールが活きている。

この男の末路はおよそ憐れなものであろうが、「どうして僕がこんな目に遭わなきゃならないんだ」とぼやくその傍らで、冷ややかに、そして手綱を握るかのように勝ち誇った女の横顔は、どこかぞっとするのである。


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