アブリコのCinema散策

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めがね 2007年 日本

2012-11-09 | ドラマ
「タエコさんは、どうしてここへ来ようと思ったんですか?」
「・・・ケータイが繋がらなさそうなところに来たかったから・・・」
特別観光するような場所もなく、しかもオフシーズンである春にここへ来るっていうのも、土地の人から見れば不思議に思うのであろう。

「観光するところもなくて、みなさんここに来て何をするんですか?」
「・・・たそがれる?」
そう、ここはたそがれの島。
たそがれるコツはあるんですか?と、タエコはハマダ(宿)の主人ユウジに訊いてみる。
「コツなんてものはないけど、まあ、昔を懐かしんでみたり、ある人のことをじっと想ってみたり、そんなことじゃないですかね」

しばらく俗世から離れ、こうした島を訪れるというのは、ある種、ものすごく贅沢な旅だろう。
これといったストーリーはない。
余計なものが一切ない。
波の音が涼やかに響く。
氷を削る音。
朝の、メルシー体操の音楽。
自転車のかすれたようなペダルの音。
目の前に広がるのは、ただ黙って、ひたすらに眺めていたい、透明な海だけ。

すべてがゆっくりである。
でも飽きることはない。
そこがいい。
キリリと冷えたビールがのどに沁み込んでいくような、乾いた肌にうるおいがチャージされていくような、岩のように凝り固まった肩がやさしくほぐされていくような、ちょっとした幸福感が味わえたような、そんな作品である。

とことん「たそがれたい」なら、そこはやはり海であり、島である。
タエコの場合はそもそも、たそがれ目的ではなかったのだが、いつしか「たそがれの島」にとりつかれてしまう。
そこが海の、島の魅力なのである。
島でのマリンスポーツもいいが、たそがれることもまたよい。

「才能ありますよ、ここにいる才能」
言われたら、うれしい。