アブリコのCinema散策

のんびり映画でも観ませんか

ミツバチのささやき ’73 スペイン

2012-04-26 | ドラマ
幼いときに、たとえば、夜中の12時になると、部屋に飾ってある人形たちがいっせいに動き出して、なにやら楽しそうなおしゃべりが聞こえてくるんだって、と年の離れたいとこが話していたことや、夜空に向かって呪文を唱えると、星の王子様が夢に現れて、悩みを解決してくれるみたい、なんてフランス人の女の子が真剣に話していたことを思えば、虚構の世界の話でも、少しは本気で信じてみたりしてしまうのが子どもというものである。

6才のアナは姉のイサベルと、村にやってきた移動巡回映写会を観に行く。
タイトルは『フランケンシュタイン』。
その夜、アナはイサベルから、フランケンシュタインは怪物ではなく精霊なのだと聞かされる。
彼女は半信半疑ではあったが、次第にその話に興味をつのらせてゆく。

荒涼とした原野の中に、ひっそりと、古い井戸が見える。
そばには、荒れ果てた家畜小屋。
アナとイサベルは、学校帰りによくこの場所に来ていた。
ここに“精霊”がいるんだよ、きっと。
ある日、アナは一人でここにやってくる。
いつものように、そっと小屋の中をのぞいてみる。
するとそこには、負傷した一人の男が。
アナの頭の中で思い描いていた“精霊”は、確かにこの小屋にいた。
この決定的な出来事で、アナは、空想と現実とが混在してしまう。

恐るべし子役、アナ・トレント。
’75の『カラスの飼育』のときと同様に、大きな目を見据え、口を真一文字に演じるその姿は、将来ものすごい女優になるのでは、と思わされた。
しかしその期待をいい意味で裏切ってくれたようで、現在はフツーの女優さんで出演している。
前回、ここでレビューした『ブーリン家の姉妹』で、なんとキャサリン・オブ・アラゴン(王妃)役で出演していたのには本当に驚きました。
まったくといって幼少の頃の面影がなくて(あのクリクリなお目めは何処へ・・・)気づかなかったのだが、活躍し続けていることは嬉しく思う。

なんとも懐かしい感じのするオレンジ色の光が随所に出てくる。
ハチミツ色。
窓からもれるその光は、まるでミツバチの巣箱の中から外界を見ているような錯覚を思わせる。
一転してほの暗い、あるいは闇の中の映像も多い。
銀の光。
水面に映る銀色の月が、小刻みに揺れている。
イサベルが前に話していた。
いつ、どこでも、目を閉じて精霊に話しかければ、友だちになってくれるって。
アナは窓を開け放し、夜空を見上げささやく。
「わたしはアナよ」

小箱の中に、そっとしまっておきたいような作品である。
間違ってもハリウッドでリメイクするような映画ではない。
本当に、大切に包んでおきたい。

ブーリン家の姉妹 2008年 イギリス・アメリカ

2012-04-02 | ドラマ
16世紀、チューダー朝のイギリス王ヘンリー8世が、最初の妻であるキャサリン妃以降、離婚、再婚をなぜ幾度もくり返したのか、そのきっかけとなったのが、アン・ブーリンという一人の女性であった。

「わたくしが男児を産みます。 必ず産んでみせますわ。 ですから、国王はお妃さまと離別なさって、わたくしを妻の座に。 王妃として認めてくださるのであれば、わたくしは・・・」

アンの、この恐るべき積極性と王の誤算が、これまでのイギリスという国を変えてしまったことは事実である。
国王の離婚は絶対に認められるものではなく、ローマ教皇だってカンカンだったわけだ。
しかしヘンリー王はそんなことにも屈せず、アン・ブーリンと結婚してしまう。
これにより、カトリック教会とは決別し、王は独自にイギリス国教会を設立し、その後、宗教改革を断行したのであった。

本作品は、フィリッパ・グレゴリー著の小説を映画化したもので、妹のメアリーの目を通して描かれたドラマである。
確かに、ドラマチックに練り上げられていると思う。
メアリーという架空の妹を出すだけで、これほどに盛り上がるのだから面白い。

実際のアン・ブーリンは、それほど魅力があったわけではないらしい。
だが、王はとことん彼女に惹かれ、最後はその彼女を処刑したのだからわからないものだ。
その後、男児を産んでもらうべく、次から次へと妻をとっかえひっかえしていくのだが、最後まで男の子には恵まれなかった。
さぞかし心残りだったであろうが、でも、王様、あなたには素晴らしいお世継ぎがいらしたんですよ、と言いたい。
女の子ではありますが、後に、エリザベス一世として、この国を統治なさるのですよ。
その偉大なお世継ぎを残されたのは、あなたが処刑したアン・ブーリンなのです。