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黒い十人の女 '61 日本

2016-09-29 | ミステリー&サスペンス
その男は、女たちに優しかった。
夫に愛人がいることに気づいてはいたが、さすがに9人ともなると、妻にしてみれば怒りを通り越して何も感じなくなってしまうようである。

「誰にでも優しいということは、誰にも優しくないってことよ」
妻は愛人の一人にこう言う。
女たちは男に夢中だが、男は花から花へ、一時として定まらない。
それが女たちには我慢ならない。
「いっそのこと、誰か殺してくれないかしら」
「そうよ、あの男(ひと)がいなくなれば、どんなに清々するか」
そのうち女たちは、男の殺害計画をもちだすように・・・。
この優男は、もうどうしようもないのだった。
女たちがどれほど苦しんでいるかなど、これっぽっちも気づかないでいる。

男女を問わず、「優しい人」がタイプという人は多い。
ただしそれは、男女の意味合いで優しい人がいいという、あくまでも自分に対してねってこと。
ここに出てくる女たち(妻はとおに割り切っているが)は、みんな男の優しさに惹かれている。
でも彼は、誰にでも優しい。
ああ、口惜しい。

後に男は、自分が殺されようとしていることを知り、妻に相談する。
ふたりは一芝居うつことに。

男はもういないのだと知ると、女たちは未練がましくも去っていくのだが、その中に、男への執念を燃やす女が一人いたのだった。

かつてのヌーベルバーグを彷彿させるような、今観ても非常に芸術的な作品である。
名匠市川崑監督の独特のノアールが活きている。

この男の末路はおよそ憐れなものであろうが、「どうして僕がこんな目に遭わなきゃならないんだ」とぼやくその傍らで、冷ややかに、そして手綱を握るかのように勝ち誇った女の横顔は、どこかぞっとするのである。

YES / NO イエス・ノー 2012年 アメリカ・イタリア

2016-09-15 | ミステリー&サスペンス
人生相談を読んだり聞いたりしていると、夫婦間によるものが多い。
それは今も昔も変わらないことだろうが、人間であるからして、そういった悩み事に時代は関係ないのである。

ある日、新婚のジャックとケイトは目が覚めると、別々の薄暗い部屋に監禁されていた。
粗末なベッドと机があるだけ。
机の引き出しは開かず、上には筆記用具らしきものが。
ドアも窓も無い。
何者かによってここへ運び込まれたようだ。
しかし、その「何者か」は最後までわからない。
何故このふたりがターゲットにされたのか、すべてが謎のままである。

注目すべきところは、部屋の壁にはめこまれた、昔のカーラジオのような機器。
プープープーという音に各々が反応し、そこに流れてくる電光文字を凝視する。
それはパートナーに関する質問であった。
『あなたは彼女の(彼の)愛を信じますか?』
答えは流れる文字の下にある「Y」か「N」、いずれかのボタンを押すのである。
ただ押せばいいってもんではない。
ウソの答えをだすと、頭が割れるような大音響のサイレンが鳴る。
明かりや飲料水、睡眠に足の自由さえ奪われ、しまいには、命までもその答えに懸けなくてはならなくなるから大変なのだ。
嫌なことに、質問の後、隠しカメラで撮られていたビデオを見せられる。
自分の知らない相手の言動をそこで見せられることで、互いの信頼が揺らいでいくのだ。
そう、これは一種のゲームなのである。

❝不条理シチュエーションスリラー❞という本作。
空間に閉じ込められ、恐怖を味わうという設定は'97の『CUBE』で経験済みだが、これはどうも簡単にはくくれない話である。
原題は『TRUE LOVE』。
この新婚カップルの愛は本物なのか、ということを試される内容だ。
こんな形で試されるんだったら、もう絶対にウソも、他の人になびくこともしましぇん!と泣き叫びたくなるだろう。

ビデオを見るうちに、ケイトは夫が信じられなくなっていく。
怒りで爆発寸前である。
ところが、ささやかな夫の一面を知ることで、先程までの怒りは、ぜーんぶチャラになってしまうのだ。
世の旦那衆は必見かも。
家裁や役所へ行く前にレッツ チャレンジ!である。
こういうことで、怒れる妻たちの機嫌をとることができるかもしれないのだから。(本当か?)