アブリコのCinema散策

のんびり映画でも観ませんか

オランダの光 2003年 オランダ

2005-11-26 | ドキュメンタリー
17世紀、オランダの画家たちの描いたその絵は光に包まれている。
それも特別な光に。
絵の具よりも自然光が、画家たちにとっては大事だという。
確かに微妙な光具合で、絵の印象は大きく変わってしまう。

「オランダの光は特別」
フェルメールやレンブラントの作品を観て、誰もが思うこと。
それは光のとり入れ方。
人物に対する光の当て方。
そして目を見張るのが、風景画の、水平線と雲の隙間から射し込む絶妙な光。

彼らが描いた光は、空想のものではないのか?
本当に、オランダの光なのか?
この作品はその謎に迫るため、各地を巡り、芸術家たちや専門家のインタビュー、観測による実験などをまじえた記録映画である。

オランダは低地であることもあり、更に、水がかなりの影響を及ぼしているようだ。
自然がおりなすこの〈オランダの光〉は、この国だけのものと90%確信したと、本作品のクルー達は言っていた。
国境を走り渡るドライバー達も、この光はオランダでしか見られないよ、と証言している。

絵画のような風景。
それを描写した画家たち。
かつて彼らが目にした光と、今ある光が同じなのかどうかは分からない。

同じ場所で見ている風景。
「一年を通して見てみると、一年前のようであって、一年後のようでもある。
いつも同じで、いつも違っている。」
ラストに流れる、この詩的な言葉が心に響く。

久し振りに、癒される作品に出会えて嬉しかった。 


フェイス/オフ ’97 アメリカ

2005-11-22 | アクション
顔の皮膚をそっくり剥がして取り替えっこ。
考えてみると、やけにグロテスクな感じがするが、意外にもそれはない。
ちょっと間違えれば、コントにでもなってしまいそうな危うさがあるが、大真面目なこの話、アクション満載で、見応え十分である。

『パルプフィクション』で返り咲いたジョン・トラボルタと、フランシス・コッポラ監督の甥っ子、ニコラス・ケイジとの対決。
両者とも、これまでに善も悪も演じてきているから、どちらが悪を演っても違和感なさそうだ。
なので、今回は平等に(?)、どちらも悪を演じている・・・といっても、先に述べたように取り替えっこしているからなんであるが。

ニコラス扮する冷酷非情な男、キャスター・トロイ。
コートのすそを翻しながらの登場には、彼ならではの〈なりきり〉が堂に入っていて、ある意味笑えちゃう。
二大スターの共演とあって、二人の競演は見事であった。
前半ですでにお互いの立場を替えての演技も、なかなか自然であった。

ジーナ・ガーション姉御も頑張っていた。
彼女って、こういった役が合ってるよなぁ。
相変わらず、平たいひし形のような口は健在だった(笑)。

なんといってもこの作品の見どころは、派手なアクションだろう。
ジョン・ウー監督が、これでもかーっ!ってぐらいに、ぶんぶんムチをうならせて撮っていたかのように、見せ場を作っていた。
空中を舞いながらの銃撃戦など、いささか香港映画入ってますって感もありはしたが。

2時間以上の本作品を長く感じさせないのは、約70%を彼らの壮絶な戦いで占められているからだろう。 

グラン・ブルー ’88 フランス

2005-11-16 | ドラマ
素潜りの世界新記録に挑む二人の男、ジャックとエンゾ。
永遠に海とイルカを愛するジャック。
片や、女とマンマに弱い、彼の強敵エンゾ。
少年の頃から、お互いを宿敵だと感じていた二人であった。

当時、この作品は結構話題になり、某社のガソリンとウィスキーのCMにも起用されたりしていた。
ふたつとも、エンゾを演じたジャン・レノと、彼の弟に扮した、マルク・デュレのコンビだった。

個人的には、ジャックの行動にいささかイラつき、ジョアンナとの進展にうなだれ気味であったが、エンゾのキャラと、どこまでも青く深く、美しい海に魅せられ、この長い作品を観終えることができたのである。

ロケ地に使われた場所は、今でも観光名所になっているらしい。
特に、イタリアのタオルミナのホテルは、かなりの人気だろう。
そう、あの岬のホテルである。

小道具も洒落ている。
エンゾ兄弟が乗っていた、FIAT500(フィアット・チンクエチェント)。
そう、ルパン三世も乗っていた、あの車である。(笑)
エンゾと同じメガネを、特注で作った人もいたと聞いた覚えがある。
リュック・べッソン監督も、こういった隅から隅まで気の利いた作品はもう出せないんでしょうか。
底を突いちゃったんでしょうか・・・?

この映画は、より男性の方が理解できるストーリーだと思うが、いかがなものだろう。

キッド ’21 アメリカ

2005-11-13 | クラシック
チャップリン初期の作品。
サイレント映画には、しみじみとした深い思いが込められていて、今のそれとはまた違った感動を得られるのがいい。

この映画を観ると、つくづく子への愛情とは、何ものにもかえがたいものであると思わせてくれる。
ここでのチャップリンと少年は、実の親子ではない。
だが、本物の親子以上に、互いの存在を必要としている。

子役のジャッキー・クーガン少年が、驚くほどの名演技を披露していて、しかもものすごくカワイイ!
チャップリンと引き離される場面なんて、実に見事な演じっぷりでありました。

大切に育てられたであろう人は、人にもきっと優しくなれる。
贅沢なんて無意味なのだ。

少年の〈父親〉と暮らした5年間は、大スターとなった実の母の元へ戻っても、決して失われることのない、貧しくも、かけがえのない日々であったに違いない。 

髪結いの亭主 ’90 フランス

2005-11-09 | ドラマ
子供の頃の夢を実現できた人はラッキーであろう。
本作品の主人公である、アントワーヌもそのひとり。
父親から、「将来なりたいものは?」と訊かれ、即座に、「女の床屋さんと結婚する」と答える。
それを聞いた父親は、思わず息子の頬を叩いてしまう・・・

縁あって、美しいマチルダを妻にすることができたアントワーヌ。
もちろん彼女は〈髪結い〉である。
日がな一日、何をするでもなくイスに座り、時折客と話もするが、何より妻をジッと見つめ続けることが、彼の至福の時であった。
マチルダも、そんな夫に優しく笑みを返す。

この映画は非常に官能的である。
官能美といったほうがいいかもしれない。
パトリス・ルコント監督作品では、ヒロインたちをこうした要素を含め、且つファム・ファタール的な性質にさせることが多い。
反対に主役である男たちは、冴えないキャラのうえ、ことごとく相手と引き裂かれる運命にある。

この幸福な生活は、永遠のものと信じていたアントワーヌ。
しかしまさか愛の深みが、悲劇の底に達していようとは・・・

安易なハッピーエンドにしないところも、この監督のお決まりパターンである。

となりのトトロ ’88 日本

2005-11-05 | アニメーション
日本のアニメ技術は世界でもトップにあり、それに異論を唱える者も恐らくいないだろう。
宮崎駿作品の中で、個人的に好きなのが、この『トトロ』なんだが、なんとも心和むお話である。
何度観てもいい。
夢があっていい。
殺伐とした今の時代に、こういったアニメ(お話)があるだけでも気が安らげるものだ。

さつきとメイの、広々とした自然の中で戯れるふたりを見て、うらやましく思う子供たちも多いだろう。
ゲームやコンクリートに囲まれているだけじゃ、つまらないよね、本当は。

トトロにどうしたら会えるんだろう。
いい子にしてたら会えるのかなぁ?
信じていれば、きっと会えるかも。
でも、誰もが会えるわけじゃないんだよ。
会えたら、ラッキーだね。

「いたんだもん! 本当にトトロ、いたんだもん!」

トトロは本当にいるんだよ。
見えないだけで、本当は、あなたのとなりにもいるんだよ。
だからきっと、トトロが夢を叶えてくれるかもしれないね。

旅情 ’55 アメリカ

2005-11-01 | ラブ・ストーリー
観光名所を訪れて、期待していたのと違っていたという経験がある人もいるだろう。
本作品を若い頃に観たお母様方が、ヴェネチアに憧れ、実際に行ってみたら、あまりの水の汚さに減滅し、バラバラとイメージが崩れてしまったという話を聞いたことがある。
でも、この映画をちゃんと観ていれば分かるはずなんだが。
家々の間を流れている水路は、生活廃水も一緒なのであって、汚れているのは当たり前。
映画の中でもオバチャンが、ドドドッて、窓からゴミを捨ててたし。
それを見たキャサリン・ヘプバーンが、ギョッとしていたシーンもありました(笑)

でも、やっぱり水の都ヴェニスは美しいのであります。
特に夜なんて最高なんであります。

アメリカ人のキャリアウーマンが、長期休暇をとって、念願のヴェネチアを訪れ、嬉々としてバカンスを満喫する。
これまたイタリア男との偶然の出会いによる、ささやかな胸の高鳴り。
そして、男が妻帯者であることを知っての彼女なりの振り切る姿は、キャサリンらしい意志の強さが表れていた。

「2時間後の列車で発つわ。 見送りには来ないで」
心ならずもそう男に告げたものの、プラットホームでの彼女はせわしない面持ち。

列車が動き出す。
彼女は、身を乗り出す。
遠くから、男が駆けて来るのが見える。
彼女は、大きく手を振る。
走りながら、男は何かを手渡そうとするが、もう届かない。
「いいわよ、わかってるわ」そんな身振りをしながら、彼女は微笑む。
そして列車は速度を上げてゆき、彼女は遠く、姿が見えなくなっても、手を振り続けていた。

素敵に大人です、彼女は。