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五月のミル ’89 フランス

2013-03-21 | ドラマ
時は五月革命真っ只中のフランス。
南仏の膨大な敷地に建てられた屋敷の女主が亡くなった。
老母を突然失ったミルはあわてる。
使用人のアデルも手伝って、親族がこの古い屋敷に集まってくる。

ミルの娘やその連れ合い、孫たちや姪に弟・・・。
何年振りなのか、久し振りに顔を合わせる一族。
しかしなんといおうか、ブルジョワ独特なのだろうか、彼らは挨拶もそこそこに、懐かしむ素振りもあまり見せない。
彼岸へ旅立った故人への思慕を表すこともない。
すべてが素っ気ない。

食事中にいよいよ、資産の分配について話し合いが始まる。
唯一ミルだけは、そうしたことには無関心であった。
そしてただ一人、亡き母を思うのも彼だけだった。

「屋敷は絶対に売らない!」
ミルは断固として言い張る。
こんな広いところに一人で住んでいたって仕方ないじゃない、と周りは言うが、彼にとって生まれ育ったこの場所を離れるなんて考えられないのだ。

資産については、まこと熱心にその後も話が続いていく。
中でも執着心丸出しなのが、ミルの娘と姪の二人。
まるでハイエナのごとく、である。
こうした醜い争いを避けるためにも、遺言を残すことは大切であろう。
高価な品や、大事なものがあるなら尚更である。
後に弁護士が、一通の遺言書を開く。
そこには、「使用人のアデルを遺産分けに加えること」とあった。
驚く家族たち。
「こんな私のために、彼女は懸命に仕えてくれた」と感謝の意が示されていた。

実のところ、ミルとアデルはちょっとした仲だったようで、母が亡くなり、この家に自分と彼女だけ・・・と彼は密かに思っていたのであろう。
しかしアデルには婚約者がいたのである。
唖然とするミル。
このときの彼の表情は滑稽だ。
ミルもちゃっかりと、弟の奥さんと仲よくなっちゃったりして、年甲斐もなくやることはやってるところはさすがにブルジョワである(関連なし)。

葬儀も無事に終え、それぞれが家路に向かう。
屋敷の中は、さっきまでの賑わいが嘘のように静まりかえっている。
家財なども、ほとんど整理された。
そんなガランとした部屋の中で、亡き母親とミルが、ゆるやかにダンスをするラストシーンは、なんとも心寂しい気持ちになるのだった。