アブリコのCinema散策

のんびり映画でも観ませんか

裏切りのサーカス 2011年 イギリス・フランス・ドイツ

2017-08-05 | ミステリー&サスペンス
1973年11月、英国諜報部〈サーカス〉のチーフであるコントロールは、ある作戦の失敗による責任を受け、その座を退くこととなった。
彼の右腕であるスマイリーと共に。
翌年、スマイリーの元に依頼が入る。
一度解雇された身であり断るも、この件は君が適任だと推される。
サーカス幹部の中に、二重スパイがいるらしい。
その"もぐら"を探し出すのが仕事であった。
かつてコントロールが言っていたらしい。
"腐ったリンゴ"がいると。

〈身内〉にスパイ・・・。
確かにここ何年も、作戦は失敗の連続であった。
さすがにこれはどこかで漏れているとしか考えられない。
スマイリーは考える。
かつての部下であったギラムと、警視庁保安部の元警部メンデルを自分につけ、"もぐら"を探るべく行動に出る。

イスタンブールからリッキー・ターが密かに帰国する。
彼は重要な秘密を握り、現地から打電していたのだが、それも何者かによって崩され、逆に彼がサーカスとKGBからも狙われる羽目になってしまった。
その日 —— 11月20日の記録(重要証拠)を得るため、スマイリーは保安課の11月の当直日誌を持ち出してくるよう、その危険な任務をギラムに命じる。
しかしその日のページだけ、破り取られてしまっていた。

東西冷戦時代を背景に難解な部分があるため、集中していないと、この作品は観ているうちにどんどんわからなくなってくる。
スマイリーが解雇される前後の話が行ったりきたり、急な場面の切り替えや、何より説明らしきセリフがないため、一度観た限りでは置いてけぼりを食ってしまう。

スマイリー役のゲイリー・オールドマンが渋カッコよかった。
ブチ切れる役柄のイメージが強かったオールドマンだが、本作品では実に見事な演技ぶり。
年を重ねた感と同時に、やはり役者だなあと、感心しきりである。

スパイ映画でおなじみの派手なアクションや過激な銃撃戦。
そして大爆破にプラス、ちょっとお色気といったエンターテインメント盛りだくさんなシーンは、ここでは出てこない。
静寂といってもいいほどのこの映画は、その静けさの中に潜む緊張感がかえってとても魅力的であって、何度観ても新たな発見のできる稀有な作品である。
スパイものの中でも秀逸で、実に知的だ。

おみおくりの作法 2013年 イギリス・イタリア

2017-06-27 | ヒューマン・ドラマ
なんとも切なくて、久しぶりに涙したストーリーであった。

(あの世へ)旅立って、残された者が最後のお別れをする。
その想いは、亡き人にも必ず届いていると信じている。
それは国や宗教を問わず、皆の想いは同じなのだと信じたい。

民生係のジョン・メイ。
彼は身寄りのない故人の葬儀に、ただ一人立ち会う。
執り行うまでに亡き人の情報を得るため、まず顔写真を探し、その人の人生をたどって、かつての友人や知人、身内の者を探し訪ねていく。

だが彼らに会えたとしても(連絡がついても)、列席を拒まれてしまうのが現実であった。
メイは故人を憐れみ、その人に合った弔辞を考え、宗派に沿った葬儀を行い、流す音楽までも自ら選ぶ。
それらはメイの独断なのだが、観ている側としては、これ以上の思いやりはないのではないかと思わされるほどジンとくる。

メイは実に几帳面である。
そしてマイペース。
行動は決して急くことなく、常に静かである。
そんな彼が恋をする。
彼の内にほのかな灯が、ぽっと、ともったのである。
幸か不幸か、後にそれがメイの運命を決めてしまうことになるのだが。

自分の仕事に一生懸命だったメイ。
彼が、自分は幸福だと感じたことがあったかどうかはわからない。
でも彼はきっと幸せだっただろう。
それはこの映画を最後まで観ないとわからない。
メイの、これまでかけてきた温情が、ちゃんとみんなに届いていたことがわかったから。

セッション 2013年 アメリカ

2017-05-25 | ドラマ
なんだか意外だった。
想像していたものとはまったく違うものだった。
厳しい中にも心温まる師弟愛とか、そうしたエピソードがあるものかと思っていたから、かなり裏切られたといってもいい。

アメリカ国内で最高峰といわれる音楽院に入ったアンドリュー。
ジャズクラスで、パートはドラムス。
トップクラスの楽団を指導する教師フレッチャーが、アンドリューの叩くドラムの音を聞き、自分のクラスへと引き抜く。
二人の出会いはこんな感じ。
そこからただならない指導風景を目の当たりにすることとなる。

上を目指すからには、日々厳しいレッスンに耐えることは当然である。
血のにじむような練習を繰り返す毎日。
しかしフレッチャーのそれは度を越している。
まるで軍隊のよう。
ののしり方がハンパないのである。
音楽って、もっと繊細なものでしょう。

ただこの師弟、似ているところが一つある。
それは強引なところ。
教師の、精神的ダメージを与えるその指導もさることながら、アンドリューの人やドラムに対する強引さもいきすぎているように感じる。
一生懸命なことは大変よいのだが、肝心なところがズレているのだ。

フレッチャーが言う。
「敵が多いことも、指導がいきすぎていることもわかっている。 だがどうしても、第2のチャーリー・パーカーを育てたかった」
彼のやり方を知ったら、かのチャーリー・パーカーも泣くだろう。

はじまりは5つ星ホテルから 2013年 イタリア

2017-04-15 | ドラマ
覆面調査といえば、ミシュランの格付けを思い浮かべるが、近頃では高級店だけでなく、一般的な店でも行われている。
抜き打ちだから、店側にとってはなかなかの緊張感がともなうだろう。

イレーネは世界中の5つ星高級ホテルの覆面調査員。
即ち、"ミステリーゲスト"である。
あくまでも一般の客として宿泊しているから、現地で知り合った者にも嘘をつかなくてはならない。
職業を聞かれると、ちょっと戸惑ってしまう。

この映画で残念に思うところは、キャリアウーマンのイレーネに対して、マイナス的要素がつきまとうところ。
親友である男性は、15年前に別れた元恋人。
その彼の相手(といっても、出会ったばかりの)に子どもができてしまい、もう彼を頼れなくなってしまった。
妹はいつもイライラ。
イレーネに会うと、当たり散らすこと多し。
とてもなついている姪っ子たちも、やはり自分は母親(イレーネの妹)には勝てないという現実を知り気落ちする。
出張先で出会った男性には、「僕は最高の愛妻家なんだ」と言われ、出ばなをくじかれる。
あるホテルのスパで一緒になった女性とは心を開ける友人になれそうだったのに、その彼女は突然、ある理由で姿をみせなくなる。
この一件で、イレーネは人生に、今の自分のおかれている状況に対して考えさせられることに。
人生の9割は今のような生活をおくって、家に帰れば、無機質な部屋の中にホテルの高級アメニティばかりが増えていく。

空しさばかりがクローズアップされているようで、ちょっと抵抗したくもなるが、いいではないのイレーネさん。
あなたは一生懸命与えられた任務に従事してらっしゃる。
高級ホテルばかり泊まれるなんて(仕事だけど)、一般人にはなかなかできることではないですし、畏縮しそうなほど高級感あふれる空間で、女ひとり、悠々と過ごす所作も堂に入っていてステキです。
そもそもあなたは好きでこの仕事をやっている。
性にも合っている。
仕事なんてもんは多かれ少なかれ自分との闘い、孤独な稼業なんですから。


17歳の肖像 2009年 イギリス

2017-03-09 | ドラマ
大学受験を控えたジェニーは、学校からも一目おかれる優秀な生徒。
進路希望は、名門オックスフォード大の英文学部。
小論文はいつもパーフェクトだが、ラテン語がやや苦手。
勉強はマジメにやってはいるけど、時折、教師の目を盗んで体育の授業をおサボリしたり、タバコに火をつけてみたりと、単なるガリ勉ではないのであった。

60年代のイギリスの女子高生の制服を見て、'64の『ア・ハード・デイズ・ナイト』に出ていたパティ・ボイドたちを思い出す。
ジェニーはフランス語とチェロが趣味。
将来はフランスに住みたいなんて思ってる。
そんな彼女、チェロの稽古帰り雨に降られ困り顔。
雨は結構強く降っている。
楽器を濡らしてしまうわけにはいかない。
そのとき、外車に乗った男がジェニーに声をかける。
「チェロがかわいそうだ。 乗らないか?」
彼の名はデイビッド。
ジェニーよりも年上の男であった。

ティーンエイジャーとくれば、ちょっと背伸びしたくなったり、自分の知らない世界をのぞいてみたくなったり、「ダメ!」と親たちから言われることにやたら反発したくなったりと、いろんなことを吸収したくなるお年頃である。
ジェニーも然り。
交際について触れられると、このまま勉強だけして、担任のように地味で何が楽しくて教師なんかするのか、そんな人生はまっぴらだと毒づく。
デイビッドと仲間の優美な大人の世界に憧れ、興味を抱いていく。

ジェニーに声をかけた時点で、こいつは胡散臭い野郎だと思ってはいたが、ジェニーの両親に会って彼らの信頼を得ようというあたり、かなり確信犯なやつである。
しかも彼女の母親に、「お姉さんかと思いました」なんてほざくたぁ、お前は高田純次か!とツッコミたくなりましたよ(笑)。

原題は『an education』だが、ただ勉学にはげみ高学歴の人になりなさい、といっているわけではない。
人生学ぶことは大事だが、失敗から学ぶことだってたくさんある。
ジェニーも試練を乗り越えていくことにはなるけど、自分の愚かさに気づいて、改めて目標にむけて頑張る意気込みは買いたいよね。
それに彼女は今回のことで、もっていなかった精神力を身につけたのである。
素直な心と意欲をもち、そして「演技力」も得たのであった。
これはひとりの女子高生の、人間的成長を描いた教養小説である。