おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

潤の街

2023-05-13 09:44:05 | 映画
「潤の街」 1989年 日本


監督 金佑宣
出演 姜美帆 田中実 初井言栄 李麗仙 佐藤允 井川比佐志
   光石研 田中伸子 西岡慶子 紅萬子 松本幸三

ストーリー
大阪の下町に暮らす潤子(姜美帆)は在日韓国・朝鮮人三世で、16歳の高校生。
父の光秀(井川比佐志)は小さな町工場を営み、母の利代(李麗仙)はお好み焼屋を開いて生計を立てていた。
祖母の貞順(初井言栄)が大好きな潤子は時々話相手をしたり、また通学のかたわら店を手伝ったりしていた。
ある晩潤子は近くの工事現場でアルバイトをしていた雄司(田中実)と知り合い、好意をもった。
ラグビーの試合の応援に行ったりしているうちに雄司も潤子の明るくさわやかなところに惹かれていった。
潤子は自分が在日韓国・朝鮮人であることを話し、理解した雄司の気持ちはそれで変わることはなかった。
ある日潤子は外国人登録のため区役所で指紋を押捺したが、在日外国人にとっては辛い体験だった。
デートの帰り潤子を家まで送った雄司は、酒に酔った光秀から日本人であることを責められ、それは利代も巻き込んだ言い合いになった。
雄司は帰り、一人夜の公園で落ち込む潤子を貞順はそっと慰めるのだった。
雄司は横浜の自動車修理工場を営む叔父のところで修行するよう勧められ、ある日、潤子に結婚を申し込んだが、お互いの気持ちがかみ合わず断られてしまった。
そんな時、雄司の親友の誠(光石研)が恋愛のもつれから事件を起こして逮捕され、初めて彼も在日韓国・朝鮮人であることがわかった。
雄司は潤子から5年も付き合っていて何も知らなかったのかと言われた。
潤子の回りには実父のチョンテ(佐藤允)がうろつき始め、雄司は妹・育子(田中伸子)が、潤子と同級生だったので国籍の違う彼女がいることが家族に知られ咎められた。
雄司が横浜へ発つ前夜、潤子が公園で双子の兄弟に襲われて怪我をした。
少年達から電話を受けた雄司は、公園で二人を力いっぱい殴りつけたのだった。
翌朝、雄司は新大阪駅で、白いチョゴリ姿の潤子に見送られながら再会を夢みて新幹線へ乗り込むのだった。


寸評
大阪の生野区は在日の朝鮮人が多く住んでいて5人に一人は朝鮮人と言う土地柄である。
鶴橋駅界隈にはキムチなど韓国食材を売る店が多くあるし、在日朝鮮人を相手の服飾店も並んでいる。
僕が通った大学の近くには朝鮮学校があり、チマチョゴリの制服で通う女生徒とよく出くわした。
商店に働く人々や通学する女生徒たちは見慣れた光景で、もちろん僕には差別意識などはなかったはずなのだが、しかし日本人のどこかには在日朝鮮人を差別している意識が潜在的にあるような気がする。
「潤の街」はそんな在日朝鮮人と日本人の関係を普通の景色の中に描き出している。
過去の歴史から日本人を憎む描写もあるが、彼らを擁護して告発しているような描き方ではないのがいい。
極端な描写ではなく日常の描写としている描き方は、差別意識の根深さを示しているとも言える。

物語は日本人の雄司と在日朝鮮人の潤子との恋を描く青春映画でもあるのだが、僕が嫌悪感を抱いたのは雄司の妹である育子の存在である。
もちろん映画的に造られた存在ではあるのだが、育子は兄が付き合う相手が在日であることを極端に嫌う。
普通の青春映画なら親などから反対される交際を影で応援する存在として描かれるのであろうが、ここでは仲間をけしかけて潤子を襲わせるほど憎んでいる。
何故それほど嫌悪するのか、実は育子にも分かっていないのである。
映画で描かれた以降も雄司と潤子は交際を続けていくことだろう。
もしかすると彼らは結婚するかもしれない。
その時、雄司と育子の兄妹はどうなってしまうのだろう。
家族はバラバラになってしまうのだろうか。
欧米人との間にはない、アジア系人種に対する普段は見えない大きな溝を感じてしまう。

ラグビーがきっかけで雄司と潤子は交際を始めるが、在日に対して雄司は屈託がない。
母親や叔父はそんな雄司を心配する。
この世代は特にそのような感情をいだくのだろう。
僕の務めていた会社でも在日の男性社員と女子社員の交際が判明し、女子社員の両親が娘の出社を認めなかった為に突然来なくなり、業務的にも退職手続きにも大いに困ったことがあった。
映画と違って、結局彼らは別れることになったなってしまったのだが、人事も担当していた僕は差別意識の根深さをまざまざと見せつけられたのであった。

潤子には貞順という祖母がいてお互いにいたわり合っている姿は儒教社会を思わせる。
貞順は苦しい時には踊るのだと潤子に踊りを教える。
潤子が襲われた後で踊る場面は迫ってくるものがある。
雄司が二人組と殴り合う姿とシンクロするシーンで映像は映画らしい場面を生み出している。
雄司がどのような決断をしたのかは知らされないが、彼らの未来に希望を感じさせる別れであった。
何よりも胸を張って堂々と歩く潤子の姿により一層の希望を感じ取った。
「潤の街」(ゆんのまち)は在日を扱った秀作の一つである。


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