おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

隠し剣 鬼の爪

2022-04-28 08:54:24 | 映画
「隠し剣 鬼の爪」 2004年 日本


監督 山田洋次
出演 永瀬正敏 松たか子 吉岡秀隆 小澤征悦
   田畑智子 高島礼子 光本幸子 田中邦衛
   倍賞千恵子 田中泯 小林稔侍 緒形拳

ストーリー
幕末の東北、海坂藩。
母の生前に奉公に来ていた百姓の娘・きえと、3年振りに町で偶然再会した平侍の片桐宗蔵。
だが、伊勢屋という大きな油問屋に嫁ぎ幸せに暮らしているとばかり思っていた彼女の、痩せて哀しげなその容姿に胸を痛めた彼は、それから数ヵ月後、きえが過労で倒れ病床に臥せっていると聞くや、嫁ぎ先へ乗り込み強引に彼女を連れ帰るのだった。
その甲斐あって、やがてきえの体は順調に回復し、宗蔵の侘しい独身生活も、明るさを取り戻した。
しかし、彼の行動は藩内で悪評を呼び、きえを実家に帰すことを余儀なくされてしまう。
そんな矢先、大事件が起こった。
海坂藩江戸屋敷で謀反を働いた罪で郷入りの刑に処されていた藩内きっての剣豪・狭間弥市郎が牢を破り、百姓の家に人質をとって立て籠もったのだ。
そこで、大目付の甲田は彼と同じ剣術指南役・戸田寛斎の門下生だった宗蔵に討手を命じた。
果たして、宗蔵は弥市郎との戦いに挑むも、弥市郎の命を奪ったのは――鉄砲隊の放った銃弾だった。
侍らしい最期を遂げられなかった弥市郎の悔しさを嘆く宗蔵。
更に、家老の堀が夫・弥市郎の命乞いにやって来た桂の体をもてあそんだことを知った彼は、ふたりの無念を晴らすべく、戸田から授かった秘剣“鬼の爪”で堀の命を奪う。
その後、侍の道を捨て蝦夷へ旅立つ決意をした宗蔵は、きえに胸に秘めていた想いを伝え、きえも宗蔵の気持ちを受け止めるのだった。


寸評
この映画は藤沢周平ワールドであり山田洋次ワールドなのだろう。
ごく普通の男が、実はすごい剣の達人で・・・という話は、藤沢周平の短編にはよく見られる設定で、前作の「たそがれ清兵衛」もそうだし、例えば「うらなり与右衛門」や「ごますり甚内」、「ど忘れ万六」、「だんまり弥助」などもそうだ。この「隠し剣鬼の爪」も同様で、貧しい下級武士だが剣の腕だけはスゴイというのが底辺にある。
この映画は別作「雪明り」とで一つの作品にしているから、差し詰め恋愛篇と武術篇とでも呼ぶにふさわしい構成になっている。

さてその恋愛篇だが、僕は松たか子さんのきえはミスキャストだと思う。どうも百姓の娘にしては気品がありすぎるし、病気になっても健康そうで、とても痩せ衰えているようには見えなかった。あまりにも健康的なのだ。
リアリズムを追求して宗蔵を演じる永瀬正敏の月代(さかやき)は伸ばさせて下級武士の実態を表現していたと思うので、なおさら松たか子・きえの百姓屋からの奉公人にはみえない雰囲気に違和感を感じた。もっとも、それを消し去るぐらい、吟から躾られていた事を表現したかったのなら別だけど・・・。

非常に細やかな配慮をしながら作られていると思う。
火鉢を突っつくとパッと火の粉が舞い上がるシーンがごく片隅に映し出され、見ている僕たちが何も思わず普通の光景として見逃してしまいそうな個所にも配慮して、東北の田舎の雰囲気を醸し出していたのは流石だと思う。
冒頭の叔父が漏らす刀と鉄砲談義が、後半部で対照として利用されるためのものである事などは、映画の常套なんだけれども行き届いていると思った。

前作に比べれば山田洋次らしさが出ていて、随分とリラックスしたシーンが盛り込まれていた。倍賞智恵子、吉岡秀隆もいるので何だか寅さんワールドでもあった。
山田洋次作品には本当の悪人らしい悪人が出てこないので、必殺仕置人の如く恨みを晴らしたあとのザマア見ろ的な盛り上がりには欠ける。
家老の堀は悪なのだが、心底憎めないのだ。どうも弥一郎の妻・桂の無念さも伝わってこない。
隣の席のおじさんは宗蔵の秘剣に、「あっ、隠し剣や!」と小さく声を漏らされましたが、僕はそんな感動は持てなかった。もっと拍手喝采するような気分になりたかった。そうなれなかった理由が、堀の悪人ぶりにあったと思う。山田さんは悪人を描くのは苦手な人だと思うし、それをやれば、それはそれで山田ワールドではなくなってしまう寂しさもあるから難しいものだ。

映画は非常に丁寧に作られているから安心してみる事ができる。だけど、僕としてはどうも「たそがれ清兵衛」もそうなのだが喰い足りない気分なのだ。
もっともそれが藤沢周平の世界なのかもしれない。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿