おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

顔役

2022-04-27 08:02:25 | 映画
「顔役」 1971年 日本


監督 勝新太郎
出演 勝新太郎 山崎努 太地喜和子
   若山富三郎 藤岡琢也 伴淳三郎
   山形勲 前田吟 大滝秀治 蟹江敬三

ストーリー
悪徳刑事か、カッコいい刑事か、立花良太(勝新太郎)は一見しただけでは判断できないタイプの刑事だ。
博奕も打つし、ストリップも木戸御免で、殺人事件の現場へでかける途中で、新米の和田刑事(前田吟)にネクタイを買ってやったり、朝の集合に顔をださなかったり・・・。
だが腕は一流、独得の捜査方法で、立花は某信用金庫の不正融資事件の核心へ。
そして、その裏で糸を引く暴力組織へぐいぐい入り込んでいった。
事件の核である、大淀組と新興の入江組は、無気味な勢力争いを続け、その為白昼、車と人の洪水の中で傷害事件や、ナイトクラブをでた大淀組々長・尾形千造(山形勲)を狙った拳銃乱射事件が起きた。
捜査当局はが然色めき、今度こそは徹底的に暴力組織壊滅へと意気込んだ。
立花は大淀組の若衆頭・杉浦俊夫(山﨑努)を逮捕してもうれつに取調べ始める。
だが、事件の鍵を握る信用金庫の栗原支店長(藤岡琢也)は、家族ぐるみ乗っていた車を滅茶苦茶につぶされて即死してしまう。
さらに何者かの圧力によって突然捜査の打切りが決定した。
立花はいきどおり、警察手帳を課長(大滝秀治)に投げつけ、夜の雑踏へとまぎれ込む。
一方、大淀組と入江組の対立は一層激化。
一触即発の危機をふくみながら、大親分星野(若山富三郎)の仲介で手打式が打たれた。
だが、偽装だった。
これは、裏で立花が仕組んだ一手で、彼の怒りも憎しみも消えていなかった。
数日後、高級乗用車に尾形と同乗した立花は、警察署の前で車をUターンさせた。
やがて車は一望千里の荒ばくたる埋立地を走る・・・。


寸評
牧浦地志のカメラがいいのか、これが監督第一作となる勝新太郎の演出がいいのか、独特の雰囲気を持った作品に仕上がっている。
はみ出し刑事物は、その刑事のキャラクターが第一で、はみ出しぶりを見せる相手や組織が第二の要因として魅力的に描かれなければならない。
勝新太郎という役者は真面目な人間は演じられないような雰囲気を持っていて、はみ出し刑事はうってつけの役どころとなっている。
立花は「自分たちはどぶ掃除の機械みたいなものだ。ゴミをさらってもまたゴミが湧いてくる。だけどどぶ掃除をしなければ日本中がゴミだらけになってしまう」と言っているから、はみ出しではあるが正義感はある男である。
信用金庫の不正融資事件を捜査していくが、元大臣の口利きで捜査が途中で打ち切られることを懸念している。
昇進というレールの上を走っている官僚は上役からの指示は絶対で、捜査の打ち切りを指示されるとそうなってしまうのだろう。
映画においてそのようなシーンが度々見受けられるから、実際にもそのようなことがあるのかもしれない。
大滝秀治の捜査課長もカッコいい事を言っているが、結局彼も上役の指示に従い出世していく。

この映画の特徴を一言で言えばアップの多様である。
多様と言うより、むしろアップばかりをつないだ作品といっても過言ではない。
冒頭、実際の賭場の息つまる緊迫感を背景にクレジットタイトルがシャープに挿入されるところで引き込まれる。
そして本編が始まると、アップ、アップ、アップの連続なのである。
カメラを引いたカットは数えるほどしかない。
その徹底ぶりはきわめて個性的な雰囲気を生み出している。
警察に組織があるように俺たちにも組織があると杉浦が言い、重要な証言者である支店長が家族もろとも事故を装って殺されてしまう非情さを示す描き方はよくあるものだが、ストーリー的にハマっている。
残念ながら終盤に近付くにしたがって描き方にキレがなくなったのは残念だ。
復活した立花は尾形を尾形の専用車で警察に連行する。
そこで最後の仕上げにかかるのだが、立花が尾形を連行したのは組員たちも見ているわけで、尾形が居なくなれば立花の仕業だとすぐに分かってしまうはずだ。
そうすれば組員による報復を受けるか、そのことで立花が逮捕されることになるか、この先が見えてしまっているのではないかと思うので、誰がやったのか分からない描き方で終わった方が余韻を残せたような気がする。
立花と前田吟の若い刑事和田の関係は面白かったので、このコンビの関係をもっと深く描き込んでいれば面白さ倍増だったのではないかと思う。
しかし勝新太郎はテレビの座頭市シリーズでも金銭を無視した斬新な映像を追い求めて破綻していった人だから、勝プロを旗揚げした当初の作品では彼の斬新さがより一層際立っていたのだと思う。
それは確かに菊島隆三の助けを借りた脚本にも有ったと思うのだが、それ以上に牧浦地志のカメラが勝新太郎の感性をくすぐったのだと思う。
勝新太郎は映画史に残る型破りな俳優であった事はゆるぎないのだが、監督として彼の描く映像世界を表現した第一作としては及第点を与えられる出来栄えになっていたと思う。


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