おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

おかあさん

2020-11-28 12:17:34 | 映画
「おかあさん」 1952年 日本


監督 成瀬巳喜男
出演 田中絹代 香川京子 三島雅夫 加東大介
   中北千枝子 榎並啓子 片山明彦 岡田英次
   鳥羽陽之助 三好栄子 一の宮あつ子
   中村是好 本間文子 沢村貞子

ストーリー
戦災で焼け出された洗濯屋の福原一家は、父の良作(三島雅夫)が工場の守衛、母の正子(田中絹代)は露店の飴売り、娘の年子(香川京子)はキャンディ売りに精を出したおかげで、やっと元のクリーニング屋を開くことができた。
長男の進(片山明彦)は母に会いたい一心から病気の身で療養所を逃げ出してきたために死んでしまったが、店は父の弟子であるシベリアの捕虜帰りの木村のおじさん(加東大介)が手伝ってくれることになり、順調なスタートを切った。
年子が近所のパン屋の息子信二郎(岡田英次)と仲良しになった頃、病気で寝ていた父が死んだ。
母は娘二人と引き揚げ者の甥哲夫(伊東隆)を抱え、木村の手ほどきを受けながら女手一つで馴れない店を切り回すことになった。
木村と母の間についてあらぬ噂が立っていることを信二郎から聞いた年子は、娘心に思い悩んだが、妹の久子(榎並啓子)を他家に養子にやる話が出るようになると、女の腕のかよわさをしみじみと悟らざるを得なかった。
事実久子はもらわれていき、哲夫もやっと一人前の美容師になった母親の元に戻されることに決まって、一家は最後の楽しいピクニックに出かけた。
やっと母も一人立ちできるようになり、木村は自分で店を出すために去っていった。
母一人、娘一人だけが残った福原家では、新しい小僧も迎え、ようやく将来への安定した希望も湧いてきたのだったが・・・。
年子の心には、母は本当に幸せなのだろうか、とかすかな憂いが残って消えないのだった。


寸評
香川京子のナレーションの入れ方や描かれている内容は時代を感じさせるが、細やかな人物描写は時を経ても魅せるものがある。
描かれている時代は戦後間もない頃の様で、町には夫を戦場で亡くしたリ空襲で焼死させた戦争未亡人が大勢いて、お母さんの妹も夫が戦死している。
一家は夫婦に子供が三人の五人家族だが、妹の子供・哲夫を預かっている。
哲夫にとっては伯母さんの家だから、まるでその家の子の様に振舞っている。
僕も幼稚園に通うために叔母の家でお世話になっていたのだが、気持ちは哲夫と変わらなかったと思う。
長男が病死し、父親も亡くなってしまう辛い話だが、母親が悲しみや辛さを顔に出さず明るく生きているのでお涙頂戴物語にはならず、むしろ励まされる内容となっている。
庶民生活の中で起きる出来事を描いているが、小津が中流家庭をベースに描いているのに対し、成瀬が描く家庭はそれよりも下層の家庭である。

人物描写は巧みでユーモアもある。
長女の年子には兄がいるが、妹の久子との年齢差を考えると長男長女は戦前の生まれで、久子は戦後生まれなのかもしれない。
ところが長女の年子に比べれば、幼い妹の方がしっかり者である。
長女は、父親が健在で家業が上手くいっていた頃に幼少期を過ごしたのだろうと想像させる性格で、どこか呑気で無邪気なところがある。
妹は「生まれ変われば、私、お刺身になりたい」と言い、その理由も子供じみたものなのだが、母親がお米よりうどんの方が安いからと、うどんばかり食べているのを心配し、母親が金策の為に自分の着物を売りに行くのを見て心を痛める感受性を持っている。
妹の久子は養子に出されるのだが、その決断を自分の意志に於いて行う。
本当は養子になど行きたくはないのだけれど、家が助かるならと涙をのんでの決意なのだ。

伯母が美容師の資格を取るために年子がモデルになり、その事でひと騒動が起きるが、愉快な出来事ながら描かれ方は奥深いものがある。
年子が花嫁姿をしていることでの騒動なのだが、お祝いに来た岡田英次の母親が勘違いを詫びて去るときに「嫁に行くなら是非うちに」と言って去っていき、信ちゃん年ちゃんの行く末を感じさせる。
そしてまだ18歳の娘の花嫁姿を見て、淋しそうな表情を浮かべる田中絹代の表情が何とも言えない。
息子も夫も死に、預かっていた哲夫も母親の元へ戻っていき、頼りにしていた木村も去っていく。
やがて年子も家を出ていくかもしれない淋しさをかみしめながら生きていく母親を演じた田中絹代は上手い女優だったのだと思わせる。
面白いのは、おかあさんは家業であったクリーニング屋を再建し、妹は美容師として開業しそうだし、年子は夜間の洋裁学校へ通う予定で、ボーイフレンドは親のパン屋で修行中ということで、皆が就職口を見つけようとしていないことである。
この頃は自分の力で生活を切り開いていこうとする強い力が皆にあったのだと思わせた。


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2 コメント

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蒲田付近が出てきます (さすらい日乗)
2020-12-01 08:15:06
この映画には、蒲田付近が出てきます。
成瀬は、松竹蒲田撮影所にいたので、土地勘があったのだと思います。

香川京子の妹は、榎並啓子で、溝口の『山椒太夫』でも、香川の子供時代を演じています。
他にも、子役で出ていますが、女優にはならなかったようです。
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なるほど (館長)
2020-12-02 07:08:28
関西人の私は大船も蒲田も土地勘がなく知りませんが、そうだったんですね。
榎並啓子さんのこと、参考になりました。
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