おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

油断大敵

2024-08-05 06:58:38 | 映画
「油断大敵」 2003年 日本


監督 成島出
出演 役所広司 柄本明 夏川結衣 菅野莉央 前田綾花 水橋研二 津川雅彦 奥田瑛二 淡路恵子

ストーリー
主人公の関川仁は刑事で、妻に先発たれた後、男手一つで娘の美咲を育てていた。
ある日、娘と自転車に乗る練習をしていると、自転車を壊してしまった。
困っているところを中年の男が道具箱を持って自転車を直してくれた。
仁がその男の道具箱を見ると、伝説の大泥棒、通称ネコが持っている7つ道具にそっくりなものが入っていた。
仁は大泥棒ネコを捕まえることができて同僚から祝福され、生き生きと彼を取り調べた。
しかしネコの方が何枚も上手で、いつしか自分の方が取り調べを受ける情けない状態になってしまう。
実況検分もすることになったが、ネコが泥棒を働いた場所は多岐に渡っており、大仕事となってしまう。
仁が仕事で忙しい時に、教会の放課後教室で娘の面倒を見てくれる美しい牧子先生がいた。
仁は密かに牧子先生に惹かれていたが、牧子先生も仁のことが好きだった。
ある日、娘の美咲が放課後教室で熱を出し、牧子先生が家まで娘を送ってくれた。
仁は牧子先生を家に招き、夜通し話しをするうちに良い仲になってしまう。
しかし娘の美咲は、父親と牧子先生に何かあったことをすぐに感づいて、その日から牧子先生を拒絶しだした。
母親を忘れられない美咲は牧子先生を受け入れられなかった。
仁は美咲のために牧子先生と別れることにした。
ネコが仁に捕まったのは、彼が国のお金で痔の治療をしたかったからということが分かり、仁はがっかりした。
また輸送中にネコに逃げられそうになったが、ネコは仁に笑って「油断大敵」と言って諭しただけだった。
ネコは俺がシャバに戻ってくるまで立派な刑事になっていたら、また相手をしてやると言い放ち刑務所に入った。
仁はその後新天地で、娘を育てながら、泥棒担当刑事として成長していく。
娘の美咲は成長し、看護士の道へ進んでいた。
そんなおり、ネコがシャバに出てきてまた盗みを働いているという噂を聞いた。


寸評
コミカルな作品で、メインは刑事の役所広司と泥棒の柄本明の掛け合いである。
柄本明が演じる大泥棒のネコはプロ中のプロで警察も手を焼いているのだが、彼は決して人を傷つけないことをモットーとする優しい一面を持っている。
役所広司が演じる刑事の仁は新米で正義感だけが取り柄の、犯人でもあるネコに自転車を直してもらった御礼を言う律義さを持ち合わせている男だ。
もちろんネコが金を盗んだために蒸発せざるを得なかった被害者の事を思えばネコを許すわけにはいかない。
ベテラン刑事が自供に手を焼く中で、ネコは仁の律義さに打たれて自供を始める。
その間の二人芝居とも言える絶妙な掛け合いが何とも言えない雰囲気を醸し出していく。
刑事と泥棒という相対する関係でありながら、二人の間に友情めいたものを感じさせるのだ。
正に名優二人と言う感じだ。

一方でシングル・ファーザーとしての仁の大変さが同時進行で描かれていく。
娘の美咲との関係は良好だが、やはり父親が子供を育てるのは大変だ。
子育てはやはり夫婦二人で行うものなのだと思わせる。
そんな中に夏川結衣の牧子先生のような自分に好意を抱いてくれている女性が現れたら、その気になってしまうのはよく分かる。
自分も好意を持っているし、娘もなついてくれていそうだからと再婚を決意するが、年頃の子供は難しい。
子連れの再婚は大変なのだろうなと思わせる。
牧子先生の潔い態度は、彼女が宗教界に身を置いていたからだろうか。
普通は男と女の間に一悶着が起きそうな状況だと思うのだがなあ・・・。
幼かった美咲が18歳になった時には看護師としてカンボジアに行こうとするまでになっている。
自立して父親の元から旅立とうとしているのだが、娘が父親を心配して離れられない親子を描いた小津作品とは真逆の関係である。
美咲を旅立たせる覚悟を決めたことをネコに語るシーンが僕には一番心に響いた。
手塩にかけた娘と別れる辛さが分かるし、牧子先生との一件が伏線となっていて流石にジーンときた。
ネコは何も言わず仁の語り掛けを聞いているが、僕はカメラをパンなどせずに長回しを続けて二人をとらえ続けた方が良かったのではないかと思っている。

ネコは公費で痔の手術をしたのだが、そのことも伏線となっていて、ネコを襲っている第二の病も上手く処理されている。
美咲は自らの学力と熱意と使命感で親からの自立を獲得したのだが、ネコは他人の金を盗むことで父親からの解放を獲得している。
親からの自立を果たしたと言う事では同じかもしれないが、やはりそれでもネコの行為は許されるものではない。
しかし自立し続けるためにはネコはそれを獲得した手段でしか生きていけなかったのだろう。
これが実話に基づいているだけにそう思う。
刑事と犯人が心を通わせる話は珍しくはないが、日本映画らしい終わり方で喜劇を締めくくっている。