おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

幼な子われらに生まれ

2020-11-29 07:38:55 | 映画
「幼な子われらに生まれ」 2017年 日本


監督 三島有紀子
出演 浅野忠信 田中麗奈 鎌田らい樹
   新井美羽 南沙良 水澤紳吾
   池田成志 宮藤官九郎 寺島しのぶ

ストーリー
互いに再婚同士の田中信(浅野忠信)と妻の奈苗(田中麗奈)。
彼女の二人の連れ子にも父親として誠心誠意を尽くし、ささやかな幸せを感じながら暮らしていた。
しかし妻の妊娠により2人の連れ子とはうまく関係を築けず悩みを募らせ始める。
長女・薫(南沙良)は義父への嫌悪をむき出しにし、「本当のパパに会いたい」と洩らして接触を絶とうとした。
信も前妻・友佳(寺島しのぶ)との娘である沙織(鎌田らい樹)との三か月毎の接触を拒めず、彼女と比較することで薫への絶望を隠せなくなっていた。
一方、友佳の再婚相手は末期ガンで余命わずか。
友佳と暮らす実の娘の沙織から、血のつながらない義父の死を前にしても悲しめず、見舞いに行っても「ごめんなさい」と言っていると打ち明けられてしまう。
そんな中、なついてくれる次女・恵理子(新井美羽)と違い義父を拒む薫に怒った信は、苛立ちのままに奈苗の元夫・沢田(宮藤官九郎)を捜し出す。
家族に暴力を振るい続け父の立場を放棄した沢田に、求められた金を払ってまで薫との接触を求める信。
奈苗は沢田とDVが原因で離婚しており、彼との面会に反対だった。
面会に指定された日、沢田の前に薫は現われなかった。
他方、信のもとを訪れた沙織は、癌にむしばまれた義父の死の床へ向かうことに躊躇し、信の同行を望んだ。
そして、義父を前に彼への隠していた愛情を明らかにする沙織を前に、信は密かに義父への感謝を捧げた。
色んな問題に直面し、これから生まれてくる命を否定したくなるほど今の家庭を維持することに疲れる信だったが、後日、子を出産する奈苗の病室に家族は集い、新たな一員を迎えるのだった。。


寸評
家族とは、夫婦とは、親子とはと問いかけ、その間に沸き起こる微妙な感情を繊細に描き出している。
それぞれは世に存在する最小の関係であり、家族は最小の社会である。
それぞれにとっては絶対的なものであるはずだが、だからと言ってすべてを理解しあっているわけではない。
血の繋がらない家族と血の繋がった他人という形で子供たちが登場するが、その子供たちの心象風景もリアルに感じることが出来る。
再婚は本人たちの理解で解決できるが、連れ子問題は大変だなあと感じさせる。

奈苗の態度は一見、能天気にも見えるが、前の結婚がいまだに手ひどい痛手となっていて、娘が前夫に会うことなど想像できない。
お互いに再婚同士である信と奈苗の家庭は、記念写真を見る限り幸せな家庭を再構築できていたはずだ。
しかし奈苗の妊娠で長女の薫は自分が疎外されるのではないかとの思いを抱くようになる。
可愛がってもらって新しい父として受け入れていたはずだが、生まれてくる子供と自分の立場の違いを感じ取る。
彼女の不安を際立させていくのが、幼さのために理解能力を持たない妹の恵理子の存在だ。
年齢による感受性の違いが上手く描かれている。
薫より少し大人びた存在が真の実子である沙織だ。
彼女の発する二つの言葉が胸に突き刺さる。
彼女は血のつながらない義父の死を前にしても悲しめないと実父の信に打ち明ける。
そして恵理子から信との関係を聞かれた沙織は友達だと答える。
実は僕も長い間、叔父を「おとうちゃん」と信じていた時期があった。
そうではないと理解していった頃、あれは従妹のお父ちゃんやでとからかわれたりすると、そんな時、子供ながらの処世術で「仲間やねん」と答えて大人達を喜ばせていたので、僕は沙織の気持ちがよくわかった。

大人たちも微妙な心情を見せ、演じた役者の上手さを感じる。
奈苗は、信が薫を実の父親に合わせようかと持ち掛けた時に、そんな気を使ってくれるより実子の沙織と会ってくれない方が嬉しいと漏らす。
奈苗が別れた沢田はどうしようもないぐうたら男だが、薫と会うとなった時にはたたずまいを一変させている。
信は妻の連れ子である長女に接する時の態度と、実の娘と接する時の態度に明らかな違いを見せる。
信の前妻は結婚時の信の態度への思いを吐露し、死期が近づいている現夫への微妙な感情を垣間見せる。
三島有紀子監督の演出の冴えを感じた。
単純なハッピーエンドとしていない結末にも好感が持てるし余韻を残した。
沙織が現在の父親の死を悲しむシーンに加え、未だに新しい子供の誕生を喜べない薫が病院に駆けつけるシーンを用意している。
それらのシーンをかすかな光として描き、決して問題が全部解決して万歳と思わせないところがいい。
最後にタイトルが出るが、さてこれからどうなるのかと思わせる。
もがき苦しみ、自分をさらけ出して、互いにぶつかり合った現家族と元家族たちであったが、それがけっして無駄ではなかったことだけは示唆していた。


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