おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

コーダ あいのうた

2024-05-13 06:19:11 | 映画
「コーダ あいのうた」 2021年 アメリカ / フランス / カナダ


監督 シアン・ヘダー
出演 エミリア・ジョーンズ エウヘニオ・デルベス
   トロイ・コッツァー フェルディア・ウォルシュ=ピーロ
   ダニエル・デュラント マーリー・マトリン

ストーリー
聴覚障害者の父フランク、母ジャッキー、兄レオとマサチューセッツ州の海辺の町に暮らす高校生のルビーは、家族の中で唯一の健聴者。
漁師の父・兄とともに登校前の早朝からルビーは船に乗り、作業を手伝いながら無線の対応や、他の漁師や仲買人との通訳をこなしている。
町でも有名な聾唖者家族の一員であるルビーは学校でも浮いた存在で、選択授業を何にするか迷っていた彼女は、気になっている男の子・マイルズが選んだ“合唱”を選択した。
人前で歌うことに慣れていないルビーは、歌うことができず音域チェックの場から逃げ出してしまう。
翌日ルビーは先生をたずね他人の目が怖いと告げたが、先生は独特の言い回しで励ましてくれた。
授業でようやく歌えたルビーの歌声を褒める先生は、マイルズとルビーに秋のコンサートでデュエットするよう指示し、ルビーにはバークリー音楽大学に進む気はないかと声を掛けた。
母に合唱を始めたと話したルビーは、自分たちに聞こえないことを始めた娘に対し「反抗期なのね」と言い放った母に怒りをあらわにした。
ルビーの部屋にマイルズがやってきて練習を始めると、となりの部屋から突然母の大きな喘ぎ声が聞こえてきたので、あわててドアを開けると正に真っ最中の両親…。
怒ったルビーはマイルズを帰らせ部屋にこもってしまう。
翌日、学校でそのウワサはすでに広まっていたので、ルビーは失望しマイルズを拒絶するようになった。
一方、漁師たちは有料で監視員を定期的に船に乗せなければならなくなった。
腹を立てた父はルビーの助けを得て、つい組合をつくる、みんな参加してくれと宣言してしまった。
母は最初反対していたが、ルビーが一緒にいてくれたら自分も頑張れると協力を約束した。


寸評
両親と兄が聾唖者で、家族の中で話せるのは主人公のルビーだけという極限状態とも言える家族を描いた作品なので重い映画かと思っていたら、聾唖の三人が型破りの面白い人物たちで、手話で発する言葉におもわず笑ってしまう愉快な映画である。
もちろん想像を超える家族関係だから同情せずにはいられない辛い場面もあり、家族の中で揺れ動くルビーの葛藤も伝わってくるせつない映画でもある。
ルビーは家族の通訳係として青春を犠牲にしている所があり、日本でも問題となっているヤングケアラーの存在を思い浮かべる。
言葉を発せないので手話のシーンが多いのだが、それを補うようにルビーが唄う歌声などが盛んに挿入され、そのアンサンブルが心地よさをもたらす。
その構成が巧みで、この映画を暗いものにしていないのだろう。

母親がルビーの部屋に秋のコンサートで着るためのドレスを用意して入ってくる場面がある。
そこで母親のジャッキーは出産時にルビーに聴覚障害があることを祈り、健聴者だと知ってわかり合えないと思ったと振り返る。
母のジャッキーは自分が母親に理解されなかったからだと言うと、ルビーは家族でひとりだけ健聴者である自分も疎外感を感じていたと告げる。
サラリとした会話なのだが実に切ない思いがするやりとりで、本当の気持ちだったのだろうことが分かるだけに胸に迫るものがある印象的なシーンとなっている。
いつもルビーに頼りっぱなしの状況をこころよく思っていない兄の存在がルビーと観客を救っている。
家族はルビーが出場する音楽発表会に出席するが、当然彼らにはルビーの歌声は聞こえない。
観客を彼らと同じ状況に置くために突然無音となり映像だけが流される。
しばらく続くそのシーンは家族にとっての音楽会であり、手話で発表会と関係ない話を始めてしまうのも分かるというものだ。
観客の反応を見てルビーの歌声の素晴らしさを知るのは、まるでベートヴェンが経験したオーケストラの初演のようだと思った。
夜、家に帰ってくると、父は少し外で涼んでから入るといって外に残る。
ルビーが父の横に座ると、もう一度ここで歌ってほしいと父が頼む。
不思議に思いながらルビーが歌い始めると、父は両手をルビーの首に押し当て体で歌声を感じようとする。
無骨な父親の娘に対する愛情の表現だ。
おそらく父親のフランクは音楽大学進学に反対していた母親のジャッキーを説得したのだろう。
家族みんなでルビーを見送る。
4人で抱き合うロッシ一家、再び車に乗ったルビーは助手席からハンドサインを送る。
そのハンドサインは「本当に愛している」だ。
感動的なラストシーンだが、ルビーの去った一家はこの後どうしただろうと思わせる家族の中でのルビーの存在であった。
ヤングケアラーの存在は何とかしなければならないと再度思わせた。


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