おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

菊とギロチン

2022-05-23 08:25:53 | 映画
「菊とギロチン」 2018年 日本


監督 瀬々敬久
出演 木竜麻生 東出昌大 寛一郎 韓英恵
   渋川清彦 山中崇 井浦新 大西信満
   嘉門洋子 大西礼芳 山田真歩 嶋田久作
   小木戸利光 渡辺謙作 大森立嗣

ストーリー
大正末期。関東大震災直後の日本には、不穏な空気が漂っていた。
台頭する軍部の影響で、それまでの自由で華やかな雰囲気は徐々に失われ、人々は貧困と出口の見えない閉塞感にあえいでいた。
そんなある日、東京近郊に女相撲一座“玉岩興行”がやって来る。
力自慢の女力士たちに加え、元遊女の十勝川(韓英恵)や家出娘など、この一座にはワケあり娘ばかりが集まっていた。
新人力士の花菊(木竜麻生)もまた、夫の暴力に耐えかねて家出した貧しい農家の嫁だった。
貧しい農家の嫁だった花菊は、夫の暴力に耐えかねて家出し、女相撲に加わったのだ。
“強くなりたい。自分の力で生きてみたい”と願う花菊は、周囲の人々から奇異の目で見られながらも、厳しい練習を積んでいく。
そして訪れた興行の日。
彼女たちの興行を観戦に来ていた中に中濱鐵(東出昌大)や古田大次郎(寛一郎)たちの姿があった。
彼等は“格差のない平等な社会”を標榜するアナキスト・グループ“ギロチン社”の中心メンバーである。
師と仰ぐ思想家の大杉栄が殺されたことに憤慨し、復讐を画策すべく、この土地に流れ着いたのだ。
そして、女力士たちの戦い魅せられた中濱鐵と古田大次郎は、女力士たちの自由を追い求める姿に共鳴し、彼女たちと行動を共にするようになる。
“差別のない世界で自由に生きたい”。
その純粋な願いは、性別や年齢を越え、彼らを強く結びつけていく。
次第に惹かれあっていく中濱と十勝川、古田と花菊。
だが、彼らの前には、厳しい現実が容赦なく立ちはだかる……。


寸評
「菊と刀」はルース・ベネディクトが著した日本文化固有の価値を分析した名著であるあるが、「菊とギロチン」は瀬々敬久が描いた女相撲の力士花菊とテロ集団だったギロチン社の若者たちの物語である。
映画は1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災直後から始まるが、関東大震災は阪神・淡路大震災、東日本大震災以上の大災害だったと思われる。
当時は情報伝達手段も未熟で、更なる悲劇を生んでいる。
陸軍の中では、震災後の混乱に乗じて社会主義や自由主義の指導者を殺害しようとする動きも見られた。
甘粕事件(大杉事件)では、大杉栄・伊藤野枝・大杉の6歳の甥橘宗一らが憲兵隊に殺害され、亀戸事件では労働運動の指導者平澤計七ら13人が亀戸警察署で、近衛師団に属する習志野騎兵第13連隊に銃殺され、平澤が斬首された。
一方で混乱に乗じて朝鮮人が毒を井戸に投げ入れたとか、暴動を起こそうとしているというデマが飛んで、大勢の朝鮮人が殺戮されたとも聞く。
甘粕大尉は大杉事件の後、満州国建国で暗躍し、終戦を知って自決した人物だ。
大正ロマンの時代だったのかもしれないが、大正時代は昭和初期の軍部独裁を迎える前の不穏な時代だったのかもしれない。

女性たちに土俵で相撲を取らせた記録は古くは奈良時代、雄略天皇の在世にまで遡るらしい。
平成も終わるころ、大相撲春巡業で救命措置のために土俵に上がった女性医師が土俵から下りるよう場内アナウンスで注意されたという一幕があり、「人道か、伝統か」の二者択一的議論が起きたことがあった。
女相撲が存在していたのだし、女性は土俵に上がれないのが伝統だとはいったい誰の入れ知恵なのか。
震災翌年の日照りで困窮した地主(嶋田久作)が、神の怒りを買って雨を降らせてもらおうと、女相撲の興行を招聘するというシーンがある。
そしてめでたく雨となり、嶋田久作の微笑と「神様が怒って下さったな」のつぶやきは可笑しいが、それを聞くと女性はやはり土俵に上がるものではないということになる。

ここでの女性力士たちは精神的、肉体的に虐げられてきた女たちだが、相撲を取ることで自立の意思に目覚めていく。
映画の序盤で、「ギロチン社」メンバーによって決行されたテロの数々が描かれるが、それらはまるで子どもの遊びの様で、女たちに比べて男たちは徹底して幼稚に、そして未熟に描かれている。
大杉栄暗殺に対する報復計画は遅々として進まないし、リーダーの中濱鐵などは「俺はもっと大物を殺るのだ」と言って一向に実行犯になっていない。
花菊の「おら、強くなりてえ」「弱い奴はいつまでたっても何もできねえ」は、弱い奴はいつまでたっても何もできないという少女の叫びだ。
彼女に恋する古田大次郎は正力松太郎の暗殺も直前で失敗してしまい逃亡する羽目になってしまう。
弱い男の古田大次郎と強くなっていく花菊、平等社会を夢るだけの中濱鐵と忌まわしい記憶を持つ十勝川。
彼等にあるのは先の見えない青春だ。
怒りは青春のはけ口だ。
何を言っているのか分からないこともある彼等の叫び声と、手持ちカメラで揺れ続ける画面は怒りの表現だ。
何があったというわけではないが、3時間に及ぶこの作品、なんか迫力あったなあ~!


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