おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

父 パードレ・パドローネ

2022-11-09 07:29:50 | 映画
「父 パードレ・パドローネ」 1977年 イタリア


監督 パオロ・タヴィアーニ ヴィットリオ・タヴィアーニ
出演 オメロ・アントヌッティ サヴェリオ・マルコーニ
   ナンニ・モレッティ

ストーリー
サルデーニャ島で羊飼いをしているエフィジオ(オメロ・アントヌッティ)は、6歳の長男カビーノ(ファブリツィオ・フォルテ)に自分の仕事を手伝わせるため、小学校に連れ戻しに来る。
家に帰ったカビーノに、母親は、早く一人前の羊飼いになって家に戻って来るようにと励ます。
羊飼いになることは、山の番小屋に一人とり残され孤独になって、恐怖に耐えることなのだ。
こうして、カビーノの孤独で単調な山での生活が始まった。
誰よりも恐い父と、厳しい自然に育てられて20歳になったカビーノ(サヴェリオ・マルコーニ)は、ほとんど口もきかない青年になった。
ある日、通りがかりの二人の男の弾くアコーディオンの音色に魅せられ、カビーノは2匹の羊と交換に古いアコーディオンを手に入れ、それ以来、父に隠れてアコーディオンの練習を続けた。
ある日、羊飼いのセバスチャーノ(S・モルナール)が、敵対している家族に殺され、エフィジオは彼女からオリーヴ畑を買いとるが、冷気の襲来でオリーヴは全滅する。
全財産を売り払い、その利子で生活していくことになったため、娘は町に働きに出、二人の息子は他の家に雇われ、カビーノはドイツに移民しようとするが失敗、軍隊に入隊する。
彼は軍隊でチェーザレ(ナンニ・モレッティ)と友人になり、イタリア語を学び、サルデーニャ方言の研究に関心を深める。
高校卒業の資格を得たカビーノは、父の反対を押し切って大学を受験するが失敗。
それがもとでいがみ合ったカビーノと父ではあったが、カビーノが父の膝に頭を埋め、和解する。


寸評
タヴィアーニ兄弟を世に送り出した作品だが、ちょっと重い。
イタリアの島といえば明るい牧歌的な村をイメージするが、ここで描かれたサルデ^ニャ島の風景は荒れ果てていて、およそ地中海の雰囲気はなく、その中で、父親の絶対支配から自立しようとする青年の姿を描いているのだが、描写は父親の虐待かと思わせるような場面が続く。
父親の性格は冒頭で描かれ、否応なく僕たちはそれを認識させられる。
教室にやって来た父親エフィジオは6歳の息子を連れて帰ると言う。
拒む女教師に、「人は自分で育つ。俺の息子だ、返せ」と怒鳴りつけ、息子は恐怖のあまりお漏らしをしてしまう。
騒然となった教室に父親が戻ってきて「カビーノを笑うのか。今日のガヴィーノは明日のお前たちだ」とにらみつけ、教師も生徒も委縮してしまう。
明日はわが身に怯える子供達の独白があり、貧しい環境の彼らの暮らしが見えてくるのだが、教師はどうすることもできず、ただ外を眺めるほかない。
これから描かれることのすべてがこのシーンに集約されていた。

男にとって父親の存在とは人生のあらゆる点において、いつかは乗り越えないといけない壁みたいなものとはよく聞く話だが、父親の顔を知らない僕にはわからない感情である。
パードレとは父とか家長という意味らしい。
そしてパドローネとは自分が自由に処分できる資産を所有している人を意味していて、所有者、支配者、権力者というふうに解釈されているとのこと。
息子のカビーノにとって、父親は正にパードレでありパドローネである。
父親はちょっと頭が固いうえに暴力的ときているから、殴られ、蹴られる恐怖感を抱きながら父親の支配から抜け出そうとする息子の大変さが痛々しい。
その痛々しさの前にユーモアのあるシーンですら笑えない。
息子に山へ行く支度をさせながら、母親はパンツのところで手を止め「かわいそうな豆鉄砲。山で一人で…」。
羊飼いの少年達は女を知らなくて、もっぱら相手は羊か鶏で、はじめて商売女と経験した男は「しっぽがあっただけだ」という始末。
乳しぼりが下手なために、ヤギの独白と共にミルクの入ったバケツに糞をされる。
父親と出くわし、父が手を上に持っていっただけで息子は反射的に身をかがめる。
それを見て父親はにやりとして帽子を取り、頭をかく真似をする。
暴力に対する恐怖が、癖となってしまっている行動をとらせているのだ。
どれもが笑えない。

再び本土へ行く決心をした息子は、父のいる寝室のドアを開けベッドの下のカバンを引きずりだす。
息子は頭を父の足にくっつけ、父親はその頭を撫でるかのように手を上げるが、途中で握り拳に変わる。
だが、振り下ろせない。
あたかも神の前に許しを請うかのような息子とパドローネとしての父の悲劇が漂う。 静謐なシーンだ。
でもなあ…こんな辛い思いをしないといけないものなのかと暗い気持ちは晴れなかった。


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