おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

新聞記者

2021-04-10 11:03:00 | 映画
「新聞記者」 2019年 日本


監督 藤井道人
出演 シム・ウンギョン 松坂桃李
   本田翼 岡山天音 郭智博
   長田成哉 西田尚美 高橋和也
   北村有起哉 田中哲司

ストーリー
深夜の東都新聞社会部にFAXが送られてきた。
サングラスをした羊のイラストで始まるその文書は、ある大学の新設に関わる極秘情報を暴露するものだった。
夜が明けて社会部は、上からの圧力で差し替えられたと思われる一面記事の話題で持ち切り。
その記事は、文部科学省の大学教育局長が、大学の不正入学に関与していたというものだった。
社会部記者の吉岡エリカ(シム・ウンギョン)は、上司の陣野(北村有起哉)に呼ばれ、FAXの調査を任される。
その情報によると、通常文部科学省が管轄する大学の新設を、なぜか内閣府が主導していて、しかも経営を民間に委託するというものだった。
同じ日、内閣府の中にある内閣情報調査室の杉原拓海(松坂桃李)は、公安が深夜につかんだ大学教育局長のスキャンダルをマスコミに流し、あっという間に局長は世間の批判にさらされることに。
杉原たちは、現政権に都合の悪い人物に対して、マイナスのイメージがつく情報を探し出して捏造し、広く世間に拡散させていた。
外務省からの出向である杉原は、上司の多田(田中哲司)に呼び止められ、「外務省時代の知人から連絡があったら報告するように」と言われた。
ある日、レイプ被害の会見を開いた女性に対し、ハニートラップだったことを裏付ける相関図をつくるように指示された杉原は、自分たちのしている仕事に迷いを感じ始める。
そんなとき、外務省時代の尊敬する上司、神崎(高橋和也)から食事の誘いの電話が入る。
『国民に尽くすこと』がモットーの神崎には、実は杉原と一緒に働いていた北京大使館時代、無実であるにも関わらず、不正の責任をひとりで被った過去があった。
“国のため、家族のため”と自分に言い聞かせたと遠い目をする神崎は、「俺みたいになるなよ」と杉原に言う。


寸評
警察発表を横並びで伝える新聞、政府の記者会見ではありきたりの質問しか出来ない若手の記者たち。
僕はマスコミのレベルの低下に辟易している昨今なのだが、中には吉岡のような気骨のある記者もいるのだろうし、居てほしいと思う内容である。
物語には昨今の出来事を思い浮かべると絵空事ではないリアリティを感じる。
僕は官邸あるいは内閣府などと大きな組織体で話すことがほとんどで、内閣府の中にある内閣情報調査室の存在を知ってはいても、その仕事内容などの詳細については無知に等しい。
この作品で描かれた内閣情報調査室の仕事はまるで中国がやっているようなことで、もしかするとどこの国でもやっているのかもしれない。
彼らの仕事は現政権に不都合なニュースをコントロールすることなのだ。
杉原の上司である多田は「情報を操作することが日本のためなのだ」と正論のように述べる。
この多田を演じた田中哲司は、主演のシム・ウンギョンや松坂桃李以上に僕は存在感を感じた。

作中のテレビ映像に元文部科学事務次官の前川喜平氏が出演している。
前川氏と言えば、文部科学省在職中に歌舞伎町の出会い系バーに頻繁に出入りし、店内で気に入った女性と同席し値段交渉したうえで店外に連れ出していたと報じられた人物である。
前川氏は出会い系バーへ行ったことを認めたうえで、どうして退官後半年余りを経過していた時点で報じられたのかと疑問を呈したのだが、作中の大学教育局長がスキャンダルをマスコミに流され、あっという間に局長は世間の批判にさらされるというエピソードは、まだ日が浅いために前川氏の一件を想像させる。
神崎の自殺は、学校法人森友学園への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で、財務省近畿財務局の赤木俊夫氏が自殺した事件を髣髴させる。
杉原は上司の多田からでっち上げの情報をマスコミに流すように命じられる。
そして多田は、リークされた内容を真実かどうかを判断するのは我々でなく国民だとうそぶくのである。
僕たちは報道を真実だと信じていて、それが事実かどうかの判断など委ねられていない。
この映画を見終ると、ニュースは正面から受け取るのではなく、斜めからあるいは裏側から見ないといけないのではないかと思ってしまう。

杉原は正義を貫けるのか、それとも権力に屈するのかということが最後に迫ってくる。
杉原は上司の多田から「外務省に戻りたいか?しばらく外国に駐在しろ。そのうち世間は忘れる。そのかわり今持っている情報はすべて忘れろ」と言われる。
戻りたいポジションのこと、家族のことを思うと杉原の正義感も揺らいでくる。
多田は止めを刺すように「前言撤回するのは決して恥ずかしいことじゃないぞ」と捨て台詞をはくが、表情とは違うスゴミがあった。
横断歩道を挟んで杉原と吉岡は対峙する。
杉原の発した言葉は聞こえないが、唇の動きは「ゴメン」と言ったように見える。
それが分かったのか、吉岡は言うに言われぬ表情を見せる。
マスメディアは権力に屈しないで真実を取材し報道して欲しいと願いたくなるラストは強烈な印象を残す。


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