おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

男はつらいよ 純情篇

2024-04-23 06:54:33 | 映画
「男はつらいよ 純情篇」 1971年 日本


監督 山田洋次
出演 渥美清 倍賞千恵子 若尾文子 森川信
   三崎千恵子 前田吟 太宰久雄 笠智衆
   森繁久弥 宮本信子 松村達雄 垂水悟郎

ストーリー
相も変らずテキヤ渡世に身をやつしている車寅次郎は、五島列島の福江島に出かけていった。
そこには長崎港で知り合った赤ん坊連れの出戻り女絹代の家があった。
そこで絹代と父親千造の愛情あるやりとりを聞いているうちに、たまらなく故郷柴又が恋しくなって、一目散に柴又へ向った。
一方「とらや」では、おばちゃんの遠い親せきで和服の似合う美しい女性夕子が、事情あって寅さんの部屋に寝泊りしながら店を手伝っていた。
「寅がいたらまた熱を上げてしまう」というみんなの心配をよそに、寅さんがひょっこり帰って来た。
寅さんは自分の部屋が誰かに貸してあるのを知るとカンカンに怒って外へ出ようとするが、現われた夕子を一目見るなり、たちまちのぼせ上り、旅に出るのはやめてしまった。
「とらや」に腰を落着けた寅さんのところにある日のこと、さくらの夫博が独立問題を相談に来た。
それは、いい印刷工場の出ものがあるから、将来のために独立したいが、永年世話になって来た社長梅太郎に言い出しにくいから寅さんからうまく話してくれということだった。
事情を聞いて寅さんは、「お前に向いている」とこの話に大賛成、翌日梅太郎のところに出かけた。
そんな寅さんは梅太郎に、「博が会社をやめないように話して下さい」と泣きつかれ、義理と人情の板ばさみになった寅さんは、きのうの博との約束はどこへやら、胸をたたきこれまた二ツ返事で引受けたから話はこんがらがって来た。
やがてみんなの心配通り、寅さんが、夕子に一層熱を上げ始めた。
数日後、別居していた夕子の夫が「とらや」を訪ねて来たことで寅さんの恋にも終止符が打たれた。
夕子は売れない小説家の夫と逃げるように柴又を去り、寅さんもさくらに見送られて旅へ出た。
明けて1971年。とある地方で、立て板に水を流すような名調子で売をしている寅さんの姿があった。


寸評
帰らないでおこうと思っても体が自然と向いてしまうのが故郷で、同様に頭でわかっていても気持ちが勝手に動いてしまうのが女性への思いだと寅はさくらに語る。
そんな寅さんが恋するのはおばちゃんの遠縁にあたる夕子さんの若尾文子である。
例によって何かと世話をやき大はしゃぎする寅次郎なのだが、今回は関係において少し趣を変えている。
思いを寄せる寅次郎の態度を親切心だと思い、感謝しながらその気持ちに気付くことなく去っていくのが多くのパターンだが、本篇における夕子さんは寅次郎の気持ちに気がつく。
それとなく気持ちを受け入れられないと告知するが、鈍感な寅次郎には伝わらなくて、寅は思い当たる男に夕子さんに近寄るなと言いに行く始末だ。
そんなところへ離婚を考えて「とらや」に逃げ込んでいた夕子さんのもとへ、別居中の夫が訪ねてきて夕子さんは元に戻ることになるのだが、どうもメデタシメデタシの雰囲気とは思えないのである。
夕子は「今度こそ離婚しようと思っていた」「女って弱いわねえ」などと言って、大満足でよりを戻す風でないのだ。
迎えに来た夫も「あいつはわがままな奴で…」などと言っているから、この二人の今後は大丈夫かと心配になる。
女性が幸せを求めて離れていくというのが従来の作品だったが、見方によっては夕子さんは寅次郎の思いから逃れるために不本意ながらも元の鞘に収まったようにも見えた。
ちょっと冷めた感じの夕子さんで、僕は感情移入できなかった。

それを取り巻くように二つの話が盛り込まれている。
ひとつは博の独立騒ぎだ。
タコ社長の印刷所は博でもっているような会社である。
こんな印刷所にこれだけの職工が必要なのかと思うくらいの従業員がいるが、博はその中でも中心人物だ。
社長に拾ってもらい、技術を教えてもらった恩義があるから独立を言い出しにくい。
義理、人情と自分の夢の板挟みになっているのだ。
博と社長がとりなしを寅次郎に頼んだばかりに大変なことになるが、両方に安請け合いをする寅次郎のいい加減さがでているエピソードとなっている。
博は父親に独立資金の援助を申し出たところ、余裕がないと断られてしまうのだが、父親が前作においてお金があるようなことを言っていたこととの整合性はどうなったのだろう。
またそのことで博が簡単に独立を撤回し、万事一件落着となってしまうのは簡単すぎやしないか。
夕子は下町の人間味あふれるやり取りに感激するが、いくら喜劇だと言っても都合がよすぎる。

もうひとつが男と別れて故郷五島列島の島へ帰ってきた子持ち女性の話だ。
島では年老いてきた父親が一人で生活しているが、父親は娘を冷たく突き放し、これから先のことをこんこんと言って聞かせる。
この父親が森繁久彌でさすがと思わせ、正月に東京に戻った娘からの電話に涙するシーンがいい。
娘役は伊丹十三の「お葬式」でブレイクする前の宮本信子である。
この時宮本信子はすでに伊丹十三と結婚していたはずである。
宮本信子を開花させたのは、やはり夫の伊丹十三だったのだと思う。


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