おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

必死剣 鳥刺し

2023-02-02 09:42:31 | 映画
「必死剣 鳥刺し」 2010年 日本


監督 平山秀幸
出演 豊川悦司 池脇千鶴 吉川晃司 戸田菜穂 村上淳 関めぐみ
   山田キヌヲ 矢島健一 油井昌由樹 つまみ枝豆 俊藤光利
   村杉蝉之介 高橋和也 木野花 小日向文世 岸部一徳

ストーリー
江戸時代。東北の海坂藩で近習頭取を努める兼見三左エ門には暗い過去があった。
三年前、藩主である右京太夫の愛妾、連子を刺殺したのだ。
当時、政治に興味を持つ連子が右京を通じて藩政に口出ししていることは周知の事実。
冷酷で恣意的なその進言は悪政の元凶となっていたが、独善的な右京の存在もあり逆らえる者はなく、連子の言葉ひとつで人命さえも奪われてゆく毎日。
三左エ門が連子を刺殺したのはそんな時だった。
最愛の妻、睦江を病気で亡くした三左エ門にとって、それは死に場所を求めての行動だったが、下されたのは意外にも寛大な処分で、一年の閉門後、再び藩主の傍に仕えることに。
釈然としない想いを抱きつつも、亡き妻の姪である里尾の献身によって、再び生きる力を取り戻してゆく。
そんなある日、三左エ門は中老の津田民部から、右京暗殺計画の情報を入手したと聞かされる。
民部こそ、連子刺殺事件で三左エ門の斬首刑を止まらせた人物。
今またこの重大事を明かしたのは、“鳥刺し”という技を持つ天心独名流の剣豪、三左エ門に対して、計画を阻止することで藩への貢献の機会を与えるためだった。
そして、討つべき相手は直心流の達人、帯屋隼人正。
右京太夫の従弟であり、彼に苦言を呈する唯一の存在だったが、今では決定的な対立が生じていた。
三左エ門は藩命に従うことを決意し、里尾の愛をも真正面から受け止める。
やがて訪れる隼人正との決着の日、三左エ門を過酷な運命が待ち受けていた……。


寸評
時代劇と言えば藤沢周平しかないのかというほど藤沢周平の原作が映画化されている。
「たそがれ清兵衛」 「隠し剣 鬼の爪」 「蝉しぐれ」 「武士の一分」 「山桜」 「花のあと」 と大人気だ。
この作品も例にもれず原作は藤沢周平である。
もっとも、藤沢作品は風景描写や立ち回りの描写の美しさに際立ったものが有ると思うので、原作を忠実に映画化すればそれなりの雰囲気を持った作品に出来上がるのだろう。
かつて時代劇は残酷描写の競争が流行り、女性や子供の観客を遠ざけてしまった経験を有しているが、藤沢作品は男女の関係においても細やかに描いているのでその懸念はないものと思われる。

キャスティングの妙と言えるのが、大男の豊川悦司に小さな池脇千鶴をからませたところ。
この対比が作品にどのような効果を表していたのか、あまり感じるところはなかったが、とにかく目に付いた。
幽閉されていて運動不足で太ってしまったとでも言いたいのか、入浴シーンのトヨエツはブクブクだ。
それが意図されたものだったのかは分からないが、あの醜態を見せる必要があったのかどうか疑問だ。
なんか違和感があって、もっと精悍な体つきでも良かったのではないかと思った。

兼見三座エ門がなぜ寛大な処置をされたのかは、物語である以上想像できるし、家老の津田民部が策略を巡らしていることは同様に想像できてしまう。
したがって彼が生かされている理由が明らかになっていくスリリングさはない。
過去の出来事が順次挿入されて、側室の連子の非道ぶりと、藩主右京大夫の無能ぶりが描かれ、三左エ門が連子を殺傷に至った経緯を補足する。
そして亡くなった妻・睦江の闘病生活とそれを支える三左エ門とそれを補佐する里尾の姿も描かれる。
里尾の想いはこの頃から芽生えていたのか?
芽生えていたとしたら、睦江はそのことを感じていたのか?
そのあたりがもう少し描き込めていたら、もっと情緒あふれる作品になっていたのではないかと思う。
それでも一夜の契りで生まれた子供を抱いて、迎えに来ることが出来ない三左エ門を村はずれの道で待ち続ける里尾の姿は涙を誘う。
ラストシーンンをもっと感極まる演出があればと惜しまれる。

バカ殿の右京太夫(村上淳が好演)は、ただバカなだけだから、一番の悪人は津田民部ということになる。
最後に津田民部が正体を現して、バカ殿と一緒に三左エ門が斬し殺される様子を見物している様子の底意地の悪さは秀逸で、いつもながら岸部一徳は上手い。
それだからこそ、騙された三左エ門が武士の意地として、必死剣鳥刺しで津田を死出の道連れにするところがカタルシスを喚起し、「それを使うときは私は死んでいる」と言っていた意味が判明する。
殺陣とドラマがクライマックスで融合する典型的な展開で、殺陣の久世浩の気合の入れようが伝わってくる。
一番カッコ良かったのは御別家と称される帯屋隼人正を演じた吉川晃司だったな(第一、この人は正義だもの)。
最後は女とともにささやかな幸せに旅立つ作品が多い藤沢作品だが、これはちょっと違った結末で、他の作品と比較すると面白い。


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