おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

幕末太陽傳

2020-01-06 16:39:17 | 映画
「幕末太陽傳」 1957年 日本


監督 川島雄三
出演 フランキー堺 左幸子 南田洋子
   石原裕次郎 芦川いづみ 市村俊幸
   金子信雄 山岡久乃 梅野泰靖
   植村謙二郎 岡田真澄 小沢昭一

ストーリー
頃は幕末、ここ品川宿の遊女屋相模屋に登楼したのは佐平次(フランキー堺)の一行。
さんざ遊んだ挙句に懐は無一文に怒った楼主伝兵衛(金子信雄)は佐平次を行燈部屋に追払った。
ところがこの男黙って居残りをする代物ではない。
いつの間にやら玄関へ飛び出して番頭みたいな仕事を始めたが、その要領のよいこと。
売れっ妓こはる(南田洋子)の部屋に入浸って勘定がたまる一方の攘夷の志士高杉晋作(石原裕次郎)たちから、そのカタをとって来たり、こはるに通い続けたのがばれての親子喧嘩もうまく納めるといった具合。
この図々しい居残りが数日続くうちに、仕立物まで上手にする彼の器用さは、女郎こはるとおそめ(左幸子)をいかれさせてしまった。
かくて佐平次は二人の女からロ説かれる仕儀となったが、佐平次はこんな二人に目もくれずに大奮闘。
女中おひさ(芦川いづみ)にほれた相模屋の太陽息子徳三郎(梅野泰靖)は、おひさとの仲の橋渡しを佐平次に頼んだところ、佐平次はこれを手数料十両で引受けた。
あくまでちゃっかりしている佐平次は、こはるの部屋の高杉らに着目。
彼らが御殿山英国公使館の焼打ちを謀っていることを知ると、御殿山工事場に出入りしているこはるの父である大工長兵衛(植村謙二郎)に異人館の地図を作らせ、これを高杉らに渡してまたまた儲けた。
その上焼打ちの舟に、徳三郎とおひさを便乗させることも忘れなかった。
その夜、御殿山に火が上った事件のすきに、ここらが引上げ時としこたま儲けた佐平次は旅支度。


寸評
特筆すべきは主役の佐平次を演じたフランキー堺の演技で、その流れるようなムダのない動きは、それ自体ある種の“芸術”の域にまで達しているといっても過言でない美しさを有している。
浴衣や羽織をパッと投げて着るさまなどは見事と言うしかないし、廊下を走り回る姿も小気味よい。
また、映画が進むにつれて悪化していく佐平次の咳が、コミカルな作品のトーンにあって唯一静かな影を落として、明るく要領のいいこの男が死と隣り合わせで生きていることをにじませる。
監督と役者がピタリとはまると奇跡を起こすといった映画である。

いつの世にも常軌を逸した若者たちがいるものだし、バイタリティのある庶民もいたのだという内容だ。
若者の代表は高杉晋作だ。
高杉は奇兵隊など諸隊を創設し長州藩を倒幕に方向付けた男だが、公金を使い込んで散財をしたという逸話もあり、ここでの高杉はそんな男の面目躍如といった感じで居残りを続けている。
居残りと言うのは飲み食いの料金を払えなくなって、仲間がその借金を持ってくるまで人質として留め置かれている者のことを言う。
したがって武士の高杉も町人の佐平次も同じ立場だが、高杉が寝そべっているだけなのに佐平次は行動的だ。
高杉のもとに集まっているのは大志はいだいているものの不良グループの若者たちで、集まっては騒いでいる。
二谷英明の聞多(のちの井上馨)、小林旭の久坂玄瑞、 関弘美の伊藤春輔(のちの伊藤博文)などであるが、実際彼等は若い。
明治維新を成し遂げたのはまさに若い彼等だった。
河野秋武の鬼島又兵衛も歴史上に名を残すが、この老人などは茶化された存在だ。

バイタリティあふれる庶民の代表が佐平次なのだが、女郎のこはるとおそめもそれに負けていない。
こはるは売れっ子で多くの客を掛け持ちしている。
それぞれに甘い言葉をかけてあしらっていて、将来は一緒になるとの誓約書を乱発しているいい加減な女だ。
おそめは落ち目の女郎だが、なじみ客を引きづり込んで心中を試みるが、直前になって金づるの客が来たことで心中相手の金造(小沢昭一)を品川の浜に突き落としてしまうが、この金造が化けて出てくる一件も面白い。
二人の女はライバルとして張り合っていて、取っ組み合いの喧嘩もやらかす元気者だ。
純情と思えたおひさも、女郎に売られるくらいなら若旦那と結婚して借金を棒引きしてもらおうとするしたたかさを持っている。

佐平次は居残りを生業にしているようで金には汚い。
人情味がないわけではないが、そのこと自体も金に結びつけてしまう要領の良さに観客は酔いしれる。
杢兵衛大盡(市村俊幸)にののしられながらも、静まり返った品川宿を颯爽とかけていく佐平次のエピローグは何とも言えない余韻を残した。

それにしても佐平次が居残る相模屋のセットは立派だったなあ。
当時の日本映画の底力を感じさせるものだった。


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