おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ジャズ大名

2021-03-25 07:50:08 | 映画
「ジャズ大名」 1986年 日本


監督 岡本喜八
出演 古谷一行 財津一郎 神崎愛 岡本真実
   殿山泰司 本田博太郎 今福将雄
   ロナルド・ネルソン
   ファーレズ・ウィッテッド
   小川真由美 唐十郎
   ミッキー・カーチス

ストーリー
南北戦争が終り、解放された黒人奴隷のジョーは、バーモント近くの激戦地跡で弟サム、従兄ルイ、叔父ボブの3人に出会った。
彼らは故郷のアフリカへ帰るため楽隊でもやって船賃を稼ごうと、ジョーが中心になって演奏を始めた。
ボブのクラリネット、ルイのコルネット、サムの太鼓、ジョーのトロンボーンと、繰り返し演奏するうち、曲は軽快にジャズらしくなり、4人は夢中になって来た。
4カ月たち、メキシコ商人にだまされた4人は、香港行の船の中だった。
ある日、ボブが鳴らなくなったクラリネットを前に、病気で死んだ。
ある大嵐のなか、三人はボートで船から逃げ出したところ、彼らのボートは駿河湾の庵原藩に打ち上げられた。
庵原藩の藩主、海郷亮勝は大の音楽好きで、家老の目を盗んではふところからヒチリキを出して吹いている。
彼には女らしい文子と、少年のように勇しい松枝という二人の妹がいた。
ジョーたち三人は医師、玄斉のところに運び込まれる。
亮勝は彼らたちにひとめ会いたいと願うが、家老の石出九郎左衛門は許してくれない。
江戸幕府からは、黒人の処分は亮勝に任せるとの命令が入った。
亮勝は城の地下座敷牢にジョーたちを入れる。
江戸から世継ぎ誕生の知らせが来たので亮勝は喜ぶが、松枝のひと言でそれが不義の子だとわかる。
監督不行届を恥じた九郎左衛門は、切腹をすると騒ぎだす。
亮勝は切腹と交換にジョーたちと会うことにしたところ、サムが桶をひっくり返して、火鉢の火箸で叩き始め、ルイがコルネット、ジョーがトロンボーンとジャズ演奏を始める。
亮勝はボブのクラリネットを直し、吹き始めた。


寸評
筒井康隆の不条理と岡本喜八監督のポップな娯楽志向が合体した怪作である。
ラスト20分の狂乱のジャズセッションのシーンは強烈で印象に残る。
兎に角ハチャメチャで、よくもまあこれだけ無茶苦茶が出来たものだと感心してしまう。
僕の中ではコメディ映画と喜劇映画は微妙に違っているのだが、正しくこれはコメディである。
時代考証を含めて設定は無茶苦茶である。
岡本喜八監督ファンはこのとんでもない映画に付いていけるだろうが、はたして一般客にはどうだろうか。
僕はかろうじて踏みとどまった。

どんちゃん騒ぎの舞台は1万石という小藩のオンボロな城内である。
街道や城下町はどうなっているのか分からないけれど、このお城はウナギの寝床の様な作りになっている。
街道を通ると遠回りで不便らしく、どうやらお城の中を通り抜けると近道になるらしいのである。
城内は奥行きがなく細長いので部屋は一列に並んでいる。
その前の廊下を妹の松枝姫がソロバンをスケボー代わりにして滑っているといった具合である。
その廊下を尊王派も佐幕派も行き来していて、両派がぶつからないように松枝姫は奔走する。
最後には逃げる幕府軍を追って官軍が行進していくといった有様だ。
したがってストーリーなどはあってないようなものとなっている。
早い話が、アメリカから出身地のアフリカに帰ろうとした黒人が流れ着いて、彼等の奏でるジャズに皆が狂乱するだけのものである。
それも徐々に習得していって、ついに名演奏にたどり着くといったような感激ものでもないのだ。
兎に角ノー天気にジャズに熱狂していくだけなのだ。

始まりは無声映画のような字幕を入れた安物喜劇映画の雰囲気だし、脱走黒人たちの珍道中パートはちょっとモタモタしていて冗長だ。
スタンダードナンバーが次から次へと出てくるわけでもないし、小ネタがあるものの城の住人がジャズバンドとして成長していく感動物語もないので間延びする。
その鬱積したものがラストで爆発する。
明治維新のための戊辰戦争が続く中にあって、「俺たちはそんなこと関係ないよ」とばかりに狂乱のセッションが延々と続けられるのである。
トロンボーンや殿様が吹くクラリネットに合わせて、鐘や太鼓、琴に三味線、琵琶などが加わり、鍋、釜、そろばん、桶など、音の出る物なら何でもござれで、狂ったようなセッションとなる。
そこに官軍、幕府軍がなだれ込み、ええじゃないかの連中も押しかけ、演奏している人間は汗だくで半狂乱。
「独立愚連隊」や「肉弾」でもそうなのだが、岡本喜八の反骨精神は戦争なんてクソクラエと弾き飛ばしている。
殿様はどちらに味方するでもなく、争っている連中を素通りさせる。
男も女も、老いも若きも、坊さん医者など身分も関係なく、皆が楽し気に演奏する様は、戦に明け暮れる者たちへのブラックジョークだ。
題名と共に特異な一遍である。


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