おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

死の棘

2019-07-16 09:51:48 | 映画
「死の棘」 1990 日本


監督 小栗康平
出演 松坂慶子 岸部一徳
   木内みどり 松村武典
   近森有莉 山内明
   中村美代子 平田満
   浜村純 小林トシ江

ストーリー
ミホとトシオは結婚後10年の夫婦。
第二次大戦末期の1944年、二人は奄美大島・加計呂麻島で出会った。
トシオは海軍震洋特別攻撃隊の隊長として駐屯し、島の娘ミホと恋におちた。
死を予告されている青年と出撃の時には自決して共に死のうと決意していた娘との神話のような恋だった。
しかし、発動命令がおりたまま敗戦を迎え、死への出発は訪れなかったのだ。
そして現在、伸一とマヤという二人の子供の両親となったミホとトシオの間に破綻がくる。
トシオの浮気が発覚し、ミホの果てしない尋問がはじまる。
ミホは次第に精神の激しい発作に見舞われ、トシオはその狂態の中に、かつてのあの死の危機を垣間見る。
それは、あらゆる意味での人間の危機であった。
トシオはすべてを投げ出してミホに奉仕する。
心を病むミホと二人の子を抱え、ある時は居を転じ、ある時は故郷の田舎に帰ろうと試み、様々な回復の手段を講じるトシオだったが、事態は好転せず、さらに浮気の相手・邦子の出現によって、心の病がくっきりし始めるのだった。
トシオは二人の子をミホの故郷である南の島におくりミホと共に精神科の病院に入り、付き添って共に同じ日々を送り、社会と隔絶した病院を住み家とすることで、やがて二人にゆるやかな蘇りが訪れるのだった。


寸評
レビのワイドショーでは不倫問題が盛んに取り上げられ、ダブル不倫などの文字も週刊誌の見出しを賑わしている昨今である。
不倫が原因で離婚に至る夫婦は報道の範囲ではよくあるが、世間ではそれでも夫婦関係を修復させ離婚に至らないケースも多くあるように思う。
離婚しないのは浮気した本人に贖罪の気持ちが強く反省が見られるためなのか、夫であれば妻や子を見捨てられないという責任感なのか、あるいは生活維持のためのお互いの我慢によるものなのだろうと推測する。

トシオの浮気が発覚してもこの夫婦は別れることはしていない。
しかし妻は夫を許したわけではなく、時々その怒りが噴出して夫を攻め続ける。
機嫌のいい日は優しいいい妻なので、夫は「今日は発作が起きなくてよかたねえ」と子供につぶやいてしまう。
オープニングから大芝居的なセリフ回しに始まり、二人の様子はただならぬものがあり、この家庭は崩壊していることがわかる。
妻は夫を折に触れて責め続けるのだが、その行為は病的であり、端的に言えばネチネチとしつこいのだ。
同じことをいつまでも言い続けられる夫も、ついには逆切れしたりする。
時には夫のトシオが自殺をしようと試みるが、それは単なるポーズかも知れない。
妻にはそんな夫を見ると自殺を必死で止めに入るという支離滅裂さがある。
夫も妻に気遣いを見せ、いたわりを見せるが完全修復には程遠いものがある。
ミホは夫一筋で献身的に尽くしてきたはずなのに、夫の裏切りにあって精神的に異常をきたしている。
そんな妻に夫のトシオは逆らうことが出来ない。
そんな関係の二人を、カメラはどっしりと構え凝視し続ける。
静かな映画だが怖い映画だ。

ミホの松坂慶子が迫真の演技を見せ、受ける夫の岸部一徳は終始能面のような表情で貫き通す。
二人のアンサンブルが夫婦間に潜む心の内を見事にあぶりだしていく。
平穏そうに見える夫婦関係でも、それぞれの心の憶測は計り知れないものがある。
口に出して言わないだけで、心の奥では拒否している気持ちがあったりする。
お互いにそれをあからさまにしないから関係が維持されているという一面もあると思うのだが、ミホは怒りがこみあげてくるとトシオにすべてぶつけてしまう。
そんな時、別れた女性への慕情が湧いてもいいようなものだが、トシオはそれを見せない。
もしかすると、そんな気持ちも覆い隠していたのかもしれない。
過去を見つめ、未来を見つめるシュールな映像も挿入されるが、ののしるミホとなだめるトシオの連続である。
それでもトシオはミホを見捨てられないし、精神異常をきたしているミホもトシオを見捨てられない。
夫婦はそんなものなのかも知れない。
夫婦関係の深層心理に切り込んだ、小栗康平渾身の一作で松坂慶子の代表作の一つと言えるだろう。
ありきたりだが、不倫はしてはいけません、バレた後は地獄が待っているのですぞ。


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