おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

名もなく貧しく美しく

2021-08-09 07:47:56 | 映画
「名もなく貧しく美しく」 1961年 日本


監督 松山善三
出演 小林桂樹 高峰秀子 島津雅彦 王田秀夫
   原泉 草笛光子 沼田曜一 松本染升
   荒木道子 根岸明美 高橋昌也 加山雄三
   藤原釜足 小池朝雄 多々良純 加藤武

ストーリー
竜光寺真悦(高橋昌也)の嫁・秋子(高峰秀子)はろうあ女性である。
昭和二十年六月、空襲の中で拾った孤児アキラを家に連れて帰るが、留守中、アキラは収容所に入れられ、その後真悦が発疹チフスで死ぬやあっさり秋子は離縁された。
秋子は実家に帰ったが、母たま(原泉)は労わってくれても姉の信子(草笛光子)も弟の弘一(沼田曜一)も戦後の苦しい時でいい顔をしない。
ある日、ろうあ学校の同窓会に出た秋子は受付係をしていた片山道夫(小林桂樹)に声をかけられたのをきっかけに交際が進み、結婚を申込まれた。
道夫の熱心さと同じろうあ者同士ならと秋子は道夫と結婚生活に入った。
二人の間に元気な赤ん坊が生れたが、二人の耳が聞こえないための事故から死んでしまった。
信子が家を飛び出し中国人の妾となりバーのマダムに収まったころ、道夫は有楽町附近で秋子と靴みがきを始め、ささやかな生活設計に乗り出した。
グレた弘一が家を売りとばしたので、母のたまが道夫たちの家に転がりこんできた。
秋子はまた赤ん坊を生み、たまは秋子たちのためにかんざしを手放した。
秋子はその金でミシンを買い内職を始めた。
子供の一郎は健全に育ち健康優良児審査で三等賞を受けた。
道夫は一郎の教育を考え靴みがきを止め印刷所の植字工になった。
しかし、一郎は成長するにつれ障害者である両親をうとんずるようになった。
内職の金をごまかされたり秋子の苦難の日はつづく。


寸評
聾唖者の夫婦が助け合いながら戦後の時代を生き抜いていく物語で、それだけを聞くとお涙頂戴映画だと思ってしまうが、泣けるシーンがあるもののむしろ励ましを受ける感動作品である。
聾唖者を初め身障者の社会への受け入れと理解は進んできたように思うが、描かれた時代では随分と偏見や差別が存在していただろうことは想像に難くない。
秋子は耳が聞こえないが、たどたどしいけれど何とか話すことができる。
道夫は全くの聾唖者であるが、いじけているような所はなく、常に秋子を励まし前向きに生きている。
そんな彼等を食い物にする連中が憎々しい。
耳の聞こえない彼等の家に泥棒が入り、物音に気付かない彼等を傍目に楽々と盗み出してしまう。
泥棒の物音に気付いたのは赤ん坊の子供だけで、這いだしたその子は玄関に転げ落ち死んでしまう。
泣き声が聞こえなかったために起きた悲劇で、切なくなってくる。
弟はヤクザな男で、義兄の給料を勝手に前借してしまうし、秋子のミシンも持ち出してしまうような男だ。
秋子の母親はそんな息子に愛想をつかせているのだが、母親たま役の原泉がいい感じだ。
顔立ちからすればイジワル婆さんに見えるのだが、子供に対する優しい心使いを見せるというギャップがいい。
家を飛び出し行方が分からなくなっていた信子を訪ねたところ、中国人の妾になっているという信子からいくばくかの金をもらう。
「娘のあんたがくれたものだからありがたくもらっておくよ」と言って去る場面には、娘の気持ちも母親の気持ちもわかるような気がして僕は泣けた。

弟の非道にたまらなくなり、秋子は弟を殺し自分も死のうとする。
それを思いとどまらせようとする道夫とのやり取りシーンは感動ものだ。
電車に飛び乗った二人は車両が違い、その窓越しに手話で会話する。
会話の内容は文字で示されるが、二人のやり取りは涙失くして見ることができない出色のシーンだ。
二人は「自分たちのような人間は一人では生きていけない」と言う。
そして「普通の人に負けないために・・・」という言葉を何度か言う。
ハンデを負った人には、普通の人に負けないという意識が少なからずあるのかもしれない。
僕の母親も、僕に父親の居ないことを気にかけていたのか「普通の人に負けないように」とか、「後ろ指を指されないために」などという意味のことをよく言っていた。
道夫と秋子の夫婦は搾取されるようなことがあっても文句を言わず真面目にけなげに生きている。
その姿に心打たれるものがある。
秋子は心優しい女性なので、戦争孤児のアキラを保護してくる。
その子供は最初の結婚相手であるお寺一家によって施設に入れられてしまうが、成人となったアキラ(加山雄三)が御礼にやって来る。
喜ぶ秋子だが、ここでまた耳が聞こえないために悲劇が起こる。
この結末はどうなんだろう。
一郎が立派になっていきそうなことを匂わせてはいるが、でもやはり救われない気持ちになってしまう。


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2 コメント

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世界映画史に残るでしょう (FUMIO SASHIDA)
2021-10-27 11:01:02
主人公二人が聾唖者で、手話で会話するなど、世界映画史にも他にないと思う。
この二人が乗る電車は横浜の鶴見線で、駅もそうだと思う。

この頃は、「良心的」というのがまだ売物だった時代ですね。
日本維新の会の連中にはバカにされるでしょうが。
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良心映画 (館長)
2021-10-28 06:39:30
私の小学生の頃は学校の講堂で映画鑑賞会が学年ごとに開かれていました。
上映される作品は、いわゆる良心的映画と呼ばれる文部省推薦作品だったと思います。
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