おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

名もなきアフリカの地で

2021-08-08 07:26:17 | 映画
「名もなきアフリカの地で」 2001年 ドイツ


監督 カロリーヌ・リンク
出演 ユリアーネ・ケーラー
   メラーブ・ニニッゼ
   レア・クルカ
   カロリーネ・エケルツ
   マティアス・ハービッヒ
   シデーデ・オンユーロ

ストーリー
1938年4月、イエッテルと幼い娘のレギーナは、ナチスの迫害から逃れるため、夫のヴァルターが先に渡っていたケニアの農場へやってくる。
ドイツでは弁護士をしていたヴァルターもここでは農場で働く一介の労働者である。
予想を超える過酷な生活に、お嬢様育ちのイエッテルは耐えられず弱音を吐いてばかり。
彼女とヴァルターの夫婦間の争いは絶えなかったが、そんな両親を尻目に、レギーナはアフリカの暮らしになじんでいく。
とりわけ料理人のオウアとは仲良くなり、またケニアの子どもたちともすぐに仲良くなって、アフリカの大地でたくましく成長していった。
やがて第二次大戦が勃発し、ドイツ人は英国軍に身柄を拘束されはじめ、ヴァルターも収容所へ入れられるが、まもなく一家でオル・ジョロ・オロクの農場に移ることができた。
そして成長したレギーナは、英国人の学校に入り寄宿生活をスタート。
だが学校が休みになると農場へ戻ってくる。
イエッテルもすっかり農場生活になじんでいた。
一方ドイツに残っていた親族は、どんどん消息が不明になっていった。
やがて第二次世界大戦は終わり、ヴァルターはフランクフルトの裁判所の判事に採用される。
ドイツに帰還することを望むヴァルターだったが、イエッテルはドイツの人々が怖いこと、家族を殺した国に帰りたくないと拒否する。
ある日、イナゴの大群がやってきて作物が全て食い尽くされそうになり、イエッテルやレギーナ、現地の人々は必死に追い払い、一人で行こうとしていたヴァルターも戻ってきて追い払うのに協力する。


寸評
レドリッヒ一家はナチスの迫害を逃れてアフリカにやってきたユダヤ人の一家である。
ユダヤ人がナチスの迫害を受ける作品は映画の中の一つのジャンルになっていると言っても過言ではないほど数多く撮られてきた。
それらの作品は、ナチスの非道と迫害を受けるユダヤ人の悲惨な姿を描くことで、ヒトラーの狂気とお涙頂戴の感動を呼ぶものが多かった。
この映画にはそういうところが全くない。
それは、舞台がアフリカのケニア、しかも首都ナイロビではない広大な大自然の中となっているからだ。
ヒトラーの名前は出てくるが、ナチスは登場しないしドイツ軍も出てこず、全体から受ける印象はおおらかで温かな雰囲気を感じる映画となっている。

物語は幼い娘の成長と自立、夫と妻の亀裂など、何度も取り上げてこられた話が展開される。
しかし、ナチスの迫害という背景があるから状況は深刻である。
ドイツには彼らの父母や親戚がいるが呼ぶことはできないし、もちろん自分たちが国に戻ることもできない。
しかし、夫のヴァルターが収容されたナイロビの収容所はアウシュビッツのようなひどいものではないし、妻のイエッテルと娘のレギーナが集められたホテルで受ける待遇が何ともおおらかなものであることが、この映画の雰囲気を如実に表している。
悲惨な話も抑制的に描かれているのだ。
農場では主人から逃亡者とののしられるし、学校ではレギーナたちユダヤ人は他の生徒と一緒にお祈りをさせてもらえないが、それらは悲惨な迫害を受けていると言う印象ではない。
一方で、ヴァルターが妻のイエッテルにアフリカ人に対する態度がナチスのようだと告げる皮肉な場面も描かれているから、単純なお涙頂戴という演出ではない。

なんといっても素晴らしいのがアフリカの自然や文化を映し込んだ映像だ。
ケニア人の生活を撮ったシーンや、いけにえを捧げる儀式のシーンはまるでドキュメント映画の様だ。
それがこの映画の中で見事なまでに溶け込んでいる。
料理人のオウアが話す言葉には胸を打つ。
そのオウアにレギーナはなついていて、二人の間にある心の交流が微笑ましい。
社会に適応する力は子供の方があるのだなと感じる。
それに比べれば、大人はなかなか変化に対応できない。
特にイエッテルはなかなかアフリカの生活に馴染めない。
それどころか英国軍人や、夫の友人であるジュスキントに心を許すような行動もとる。
イエッテルはバッタ騒動を経て夫の意見に従うようになるのだが、彼女が最初はアフリカを嫌っていたのにアフリカに残る気持ちになり、そして夫と共にドイツに戻る決心をする心の変遷をもう少し丁寧に描いても良かったのではないかと思う。
僕にはイエッテルに対して何とも勝手な女性だなあという印象しか残らなかった。
エピソードの継ぎのテンポはよく、レギーナの幼少時代と10代を演じた少女二人が素晴らしい存在であった。


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