「レイクサイド マーダーケース」 2004年 日本
監督 青山真治
出演 役所広司 薬師丸ひろ子 柄本明 鶴見辰吾 杉田かおる 黒田福美
眞野裕子 豊川悦司 牧野有紗 村田将平 馬場誠
ストーリー
ある日、中学受験を控えた子どもを持つ3家族が塾の講師を招き、湖畔の別荘で一緒に勉強合宿を開くことになった。
アートディレクターの並木俊介(役所広司)は別居中の妻・美菜子(薬師丸ひろ子)と彼女の連れ子である舞華(牧野有紗)の為、お受験の意義に疑問を抱きつつも参加した。
他の2組はこの別荘の持ち主である藤間夫妻(柄本明、黒田福美)と、美菜子と友人の関谷靖子夫妻(鶴見辰吾、杉田かおる)で、カリスマ塾講師は津久見(豊川悦司)という男だった。
だが、そんな彼の前に愛人でカメラマンの英里子(眞野裕子)が現れ、その夜、死体となって発見された。
驚愕する俊介に、ふたりの関係を知った自分が殺したと告白する美菜子。
俊介は警察に連絡しようとするが、事件が露見すれば受験に影響があると判断した親達は、通報せず隠蔽することにした。
身元が判明しないように藤間は英里子を全裸にし、顔を潰して指紋を焼いた遺体を包んでボートに乗せ、並木と藤間で湖に沈めた。
ところが翌日、俊介は英里子のバッグからある写真を見つけてしまうのである。
そこには、親たちから裏金を受け取る津久見の姿が写っていた。
英里子は、俊介に会う為でなく、津久見の不正を知って彼を脅しに来たのだ。
それに気づいた俊介は津久見を問い質すが、更なる事実が発覚する・・・。
それを知った俊介は他の親たち同様、子供たちの未来を守ろうと口を閉ざすことを余儀なくされ、事件は完璧に隠蔽されたと思われたのだが・・・。
寸評
医者が所有する人里離れた湖畔の別荘で名門中学受験を目指す3名による合宿が行われているといった非現実的な設定ではあるが、登場人物が子供が3人にその両親の6名と塾の先生と殺されたカメラマンの女性いう11名に絞られていて、大人たちはそれぞれがひと癖もふた癖もありそうな怪しげな人物なので、ミステリーとして最後まで観客を引っ張る力強さを持っている作品である。
不気味さに不可解さを加味して緊張感を保ち続ける見事なドラマとなっている。
アートディレクターである役所広司とカメラマンである眞野裕子の不倫関係が描かれ、眞野裕子が役所と妻の薬師丸ひろ子もいる別荘に現れ、薬師丸ひろ子によって殺されるのは一般的なミステリーとしての導入部である。
そこからミステリーとして物語はヒートアップしていくのだが、やはりミステリー映画はストーリーが最も大事で、役者が揃っていれば申し分ないと思わせる展開が続いていく。
眞野裕子の死体を見た役所広司は動転するが他の者は案外と落ち着いている。
特に柄本明の冷静振りは異常なほどである。
警察に届けようと言う役所と、何もなかったことにして死体を処理しようとする他の5人の親たちのやり取りが緊迫感を生み出す。
親たちの言い分は、子供たちの面接を含む受験を考えるとセンセーショナルに伝えるであろうマスコミの前に晒し者とするわけにはいかないというもので、親ならどんなことをしても子供を守りたいというものだ。
たしかに名門中学の受験は想像を超える大変なものだと理解はできるが、はたしてその為にここまでやるものだろうかとの疑問を挟ませないスピーディな展開が素晴らしい。
登場人物の内面描写を極力控えてストーリーを追い続ける演出は心地よい。
眞野裕子が持ってきた仕事用の写真の中に薬師丸ひろ子の写真が混ざっていて、眞野の嫌がらせと思わせておいて、よく見るとかすかに豊川悦司が写り込んでいるミステリーが示されている。
伏線でも何でもなく明らかにこの二人は関係があると観客に知らせているが、その関係はなかなか明らかにならないので、観客に対して常に頭の片隅にある状況を生み出している。
身元がわからないようにするために指紋を焼き消し、歯形が分からないように打ち砕く。
そして顔が分からないようにつぶすのだが、このゾクッとするシーンをもう少し丁寧に描写していればよかったと思うのだが、そうだ余りにも怪奇的なものになってしまっていたのだろうか。
画面を見ると顔が判別できないようにはなっていなかったように思う。
この映画の最大の魅力はミステリーらしい衝撃の結末であろう。
結末であって結末でないような結末である。
全ての疑問を弾き飛ばしてしまっている。
犯人は誰なのか、死体は上がって来るのか、警察は捜査に踏み切ることができたのか、子供たちはその後どうなったのか、親子関係はどうなったのだろうか、等々思い起こせば色々あるのだが、そのような疑問を感ずることなく映画は結末を迎えた。
役所広司と薬師丸ひろ子の打ち解けたような会話で終わるのも思わせぶりであった。