「野獣刑事」 1982年 日本
監督 工藤栄一
出演 緒形拳 いしだあゆみ 泉谷しげる 益岡徹 西山辰夫 成田三樹夫
小林薫 藤田まこと 遠藤太津朗 阿藤海 芦屋雁之助 蟹江敬三
ストーリー
雨の夜、赤い傘をさした女子短大生の死体が発見された。
ナイフで何度も刺された死体は西尾由美子と判明した。
有能だがヤリ過ぎと評判の大滝刑事(緒形拳)もこの事件の捜査にかり出された。
大滝はかつて逮捕した男、阪上(泉谷しげる)の情婦、恵子(いしだあゆみ)と同棲に近い暮しをしている。
恵子には一人息子の稔(川上恭尚)がいるが、大滝には慣つこうともしない。
大滝は独自の捜査で被害者由美子の隠された生活をつきとめた。
彼女は昼はノーパン喫茶、夜はコールガールをしていたのだ。
その頃、恵子の夫、阪上が出所し、彼女の所に転り込んできた。
大滝には頭の上がらない阪上が加わった奇妙な三角関係の生活が始まった。
数日後、大滝は死体の見つかった近くの茂みで、血の跡のついたいくつもの紙片を見つけた。
紙を並べると一枚の女の絵になった。
そして、阪上がその絵と同じものを売っている男(益岡徹)を見つけ、大滝に通報する。
大滝はその男を別件で逮捕し、殴る蹴るの尋問をするが証拠不十分でシロとなり捜査本部からはずされた。
同じ頃、阪上は再びシャブに手を出すようになり、妄想状態で暴れることもしばしばで、ついに保護されてしまう。
一人になった大滝は、恵子に囮になってもらうことを頼んだ。
降りしきる雨の夜、恵子は赤い傘をさして歩いたところ、一台の車が近づき赤い傘を残して去っていった。
大滝は必死の追跡のはてに犯人を捕えたが、代償はかけがえのない恵子の命だった。
一ヵ月後。解放された阪上は、車を奪うと、稔を助手席に乗せ、暴走し、無差別殺人を始めた。
寸評
大阪を舞台にはみ出し刑事の緒形拳が暴れまくり、大阪出身のいしだあゆみが関西弁を駆使してスクリーン上で躍動する。
躍動するとは表現上の事で、情夫を逮捕した刑事と半同棲をしながらも、出所してきた元情夫を気遣ってしまう微妙な女を好演しているのだが、いしだあゆみの関西弁あっての映画になっている。
大阪が舞台なので当然なのだが、関西弁あるいは大阪弁といってもいい会話が全体の雰囲気を包んでいる。
恵子が大滝からおとり捜査の標的になってくれるよう懇願された時の「うち、そんなんいやや…こわいやん…殺されるかもしれんやん…」と一度は拒絶するシーンでは効果を発揮していて、かたくなに拒絶するのではなく、やんわりと拒絶する雰囲気を出し、結局引き受けてしまう弱さをうまく表現していた。
主演の緒形拳がイントネーションをマスターしていたし、署長の藤田まことは当然として、その部下である遠藤太津朗がゴマスリ刑事ぶりを上手く表現していたと思う。
大滝はノンキャリアの叩き上げ刑事で、そのはみ出しぶりを嫌悪されている。
テレビでは使えない言葉もバンバン使う、その風貌ともども下品な男であるのだが、捜査には自分流のものを持っていて犯行現場で証拠物件を拾い集めるが、鑑識があの物件を見逃してると言うのはちょっとご都合主義だ。
シュールな映像も目を引く。
冒頭の青い光に浮かぶ人影の映像にハッとさせられ、赤い傘がライトに照らされ鮮明に浮かび上がる。
逆光の強烈なライトなど、随所に闇と対峙する光を印象的に取り入れている。
この光と色の使い方は上手いと思うし、この作品を特徴付けている。
兎に角、暗闇に浮かぶ赤い傘が印象的だ。
自分が逮捕した男の情婦と関係を持ってしまうはみ出し刑事と言うのは案外と描かれているパターンだけれど、元情夫の泉谷しげるの狂人ぶりがこの設定をさらに効果的なものに高めている。
彼は出所してきて再び覚せい剤に手を出してしまうのだが、その作用で狂人化するシーンが大迫力で描かれる。
兎に角、手が付けられないほど暴れまくり、いしだあゆみが必死で逃げまくる。
一般市民の中を叫びながら逃げまくるいしだあゆみの演技が阪上の凶暴性をいかんなく伝えていた。
彼女の必死の叫びは裏路地における格闘場面でも発揮され、とても演技とは思えない真実味があった。
泉谷しげるがいしだあゆみ相手にものすごい大暴れをしていたことで、稔を連れた逃亡劇から堺での人質籠城にいたる狂人ぶりがスムーズに展開している。
いきなりの大滝に対する復讐劇だったらやはり違和感を生じていただろう。
前述の阪上の覚せい剤再使用による大暴れが起きてから一気にラストに向かって走り出すが、その展開は息をのませない緊迫感がある。
恵子とのおとり捜査、車のライトで遮られたスキの殺人、阪上の逃走劇、そして人質をとっての籠城と対決。
工藤栄一の演出は見事なテンポを見せる。
しかし、稔に悪事を働かせ続けることはどうだったのかなあ、演出とは言えやはり良くないように思う。
稔の優しさが万引きで表現されるのはどうしたものか、ラストのショットが生きてこない。
タイトルからすれば緒形拳の映画なのだが、僕にはいしだあゆみの映画に思えた。