おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

酔いどれ博士

2023-05-15 07:45:56 | 映画
「酔いどれ博士」 1966年 日本


監督 三隅研次
出演 勝新太郎 江波杏子 林千鶴 小林哲子 東野英治郎
   ミヤコ蝶々 小林幸子 浜村純 酒井修

ストーリー
スラム街のドヤで一人の頑丈な体躯の得体の知れない男が、花札と酒に浸っていた。
そのギョロ松こと大松伝次郎(勝新太郎)は血気盛んなため、ある傷害事件を起し、外科医の免許を剥奪された上、大病院を追われ、やむなく潜入してきたのであった。
ある日決闘で撃たれたチンピラ、トラ松(平泉征)の弾丸摘出手術をした。
それを機に、スラムの自治委員長(殿山泰司)ら三役の懇願により、花子(小林哲子)とお松(ミヤコ蝶々)を看護婦にして、ニセ医者を開業することになった。
ある夜バーでホステスお春(江波杏子)にからまれて閉口しての帰り、彼は麻薬王(浜村純)の弾丸の摘出手術をやらされ、危く消されそうになった彼は元帥なる警官(東野英治郎)に麻薬王の居場所を教え逮捕させた。
彼は釣りの最中元帥に、無免許臭いと疑われるが、対岸の胸を病む貧しい少女(小林幸子)の話を聞くと、逆に「あんたが、いや国家があの人たちに何かしてやったかね」と、怒りを叩きつけた。
そして彼は少女のために果物や卵をソッと置いてきた。
彼はまたトラ松が恋人の時子(林千鶴)と結婚するため、組と縁を切る為に決闘に及んだことを知り、彼をそそのかした連中に鉄挙で制裁を加えたり、時子が健気に養う父親(田武謙三)の怠け病に気合を入れたりもした。
かくしてスラムにも、ギョロ松らの働きで明るさが見え始めた。
ところが、トラ松が再び瀕死の傷を負ってかつぎ込まれ、さすがのギョロ松も手がくだせない。
彼は手術代の20万円を稼ぐため、トラ松の決闘の相手の三次(千波丈太郎)と花札を打ったが負け、窮した彼は腕づくで金をまき上げ、そして彼はトラ松を大病院に運び院長(花布辰男)に託した・・・。 


寸評
その昔、大阪城公園はホームレスのメッカの様なところでテントや掘っ立て小屋が乱立していた。
元は立派な職人だったり技術者だった人もおり、特別なコミニティーが存在していて大工さんが建てたのかと思われるような立派な小屋も出来上がっていた。
冒頭でスラム街の人たちが協力して診療所を建てるシーンがあるのだが、僕は当時のホームレス達が建てた小屋を思い出していた。
「酔いどれ」と聞くと、すかさず黒澤明の傑作である「酔いどれ天使」が頭に浮かんでしまう。
「酔いどれ天使」の題名の天使とは、普通に考えれば医者の志村喬なのだと思うが、最後は死んでしまうヤクザの三船敏郎であっても不思議ではないところがある。
本作における「酔いどれ医者」は勝新太郎の大松伝次郎意外には存在しない。
女優はバーの女給の江波杏子、看護婦の小林哲子、チンピラの恋人林千鶴、さらに屑屋を辞めて診療所をキリもみするのがミヤコ蝶々と多彩なのに比較して、男優陣のほうは勝新に対抗するような男優が存在せず、辛うじて警官の東野英治郎に存在感がある程度で淋しい。
それが原因のようにも思うのだが、大きなドラマがなく盛り上がりに欠ける内容となっている。

勝新はドスで手術をするなど破天荒な医者なのだが、スラム街の人たちからヒーロー扱いされ診療所を開く。
彼が診療所を開いたのではなく、スラム街の人たちに診療所を開かされてしまったのだ。
くず拾いをやっている人たちもいて、必要な道具はどこからか拾ってきて診療所の設備を整えてしまうのが愉快。
しかし薬だけは拾ってくるわけにはいかないだろうから、一体彼はどのようにして治療薬を手に入れていたのだろうと思ってしまうのだが、善意の医者として勝新は天使のような存在になっていく。
ドブ川で魚釣りをしていて、「こんな川でも魚が住んでいるんだ・・・」とスラム街の住人を擁護している。
それは小林幸子を救えない警官や国家に対する批判に共通する思いでもある。
そこだけ見ると社会映画らしい側面もあるのだが、全体はハチャメチャな活劇である。
トラ松が生死にかかわる瀕死の重傷を負い、勝新が見事な手術の腕前を見せるのかと思ったら、恩師の先生にトラ松を託して自分はヤクザとの喧嘩に出かけて行ってしまう。
もっとも勝新の手術の腕前は冒頭で示されていたから、再びそれを描く必要がなかったのだろう。
さてその喧嘩騒ぎだが、これが勝新の一方的な勝利で、大勢のチンピラたちを次から次へとやっつけてしまうのだが、相手が空中高く飛び上がったりでリアリティはまったくなく、むしろ滑稽なシーンとなっている。

貧しい少女を演じた小林幸子は1964年にデビュー曲の「うそつき鴎」をヒットさせていたが、歌手として大成するのは15年後ぐらいのことで、このころは大映作品で勝新や市川雷蔵と共演を果たしていた。
共演した勝新太郎には師匠である作曲家の古賀正男や歌手仲間達と同様に当時の愛称でもあった”チビ”と呼ばれて大変可愛がられていたようである。
本作では子役とも言ってもよい少女役だが、アップで映されるシーンを見るとこの頃からまったく小林幸子である。
ラストシーンは余韻を持たせるいい雰囲気で締めているので、あの雰囲気を全体で見せてほしかったなという気持ちが残った。
殿山泰司や藤岡琢也などのベテラン俳優も出ているが、元帥と呼ばれる東野英治郎はなかなかよかった。