「リンカーン」 2012年 アメリカ
監督 スティーヴン・スピルバーグ
出演 ダニエル・デイ=ルイス サリー・フィールド
デヴィッド・ストラザーン ジョセフ・ゴードン=レヴィット
ジェームズ・スペイダー ハル・ホルブルック
トミー・リー・ジョーンズ ジョン・ホークス
ジャッキー・アール・ヘイリー ブルース・マッギル
ストーリー
貧しい家に生まれ、学校にもろくに通えない中、苦学を重ねてアメリカ合衆国第16代大統領となったエイブラハム・リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)。
史上最も愛された大統領と言われ、常にユーモアを絶やさず、黒人を含めたすべてに人々にオープンに接する人物だった。
当時アメリカ南部ではまだ奴隷制が認められていたが、リンカーンはこれに反対していた。
リンカーンの大統領当選を受けて、奴隷制存続を訴える南部の複数の州が合衆国から離脱しアメリカは分裂、さらに南北戦争へと発展する。
国を二分した激しい戦いは既に4年目に入り、戦況は北軍に傾きつつあったが、いまだ多くの若者の血が流れ続けていたことで、リンカーンは毎晩1人で船に乗り、どこかへ向かっているという不思議な夢を見るようになる。
自らの理想のために戦火が広がり若い命が散っていくことに苦悩するリンカーン。
再選を果たし、任期2期目を迎えた大統領エイブラハム・リンカーンは、奴隷制度の撤廃を定めた合衆国憲法修正第13条の成立に向け、いよいよ本格的な多数派工作に乗り出す。
しかし修正案の成立にこだわれば、戦争の終結は先延ばししなければならなくなってしまう。
一方家庭でも、子どもの死などで心に傷を抱える妻メアリー(サリー・フィールド)との口論は絶えず、正義感あふれる長男ロバート(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の北軍入隊を、自らの願いとは裏腹に黙って見届けることしかできない歯がゆさにも苦悩を深めていく。
そんな中、あらゆる手を尽くして反対派議員の切り崩しに奔走するリンカーンだったが…。
寸評
government of the people, by the people, for the people(人民の人民による人民のための政治)という演説中の言葉と共にエイブラハム・リンカーンという大統領の存在は知っている。
民主主義の教育過程の中で、おそらく中学生の時代に教えられたのではないかと思う。
奴隷解放を行ったとか、南北戦争を終結させたとかの断片的な知識はあるものの、リンカーンについてはその程度の知識しか持ち合わせておらずよく知らない。
米国民でない僕は奴隷制度の廃止状況も知らないし、南北戦争の背景も詳しいわけではない。
保護貿易と自由貿易という経済の対立、労働力の流動性と固定化の対立などが南北戦争の原因と聞いているが、もっと複雑な要因も絡んでいたのだろう。
各州の思惑の違いなども、地理的な把握も含めてピンとこない。
だからここで描かれている対立そのものがよくわかっていない。
映画はリンカーンの最後の4か月ほどを描いているが、どうも入り込めない。
どうやら僕にとっては、歴史的な背景も分かっていないよその国の出来事だったことが乗れない第一減だったような気がする。
更には修正13条を理解しないで見たものだから、その緊迫感にも乗り損ねた。
評決する場面での僅差の勝利などはもっとスリリングに感じても良かったと思うのだが、それも希薄だった。
面白いと思ったのは、新たな認識でもあるのだが、清廉潔白なイメージのあるリンカーンが、反対する議員を買収(議員失職後の役職提供)してでも法案を通していく実利的な面を見せることである。
南北戦争が終わってしまうと奴隷解放運動の熱も冷めてしまうので、和平交渉を長引かせ南部の代表団に足止めを指示するなどのしたたかさを持ち合わせていたことも新発見。
それが政治と言うものだと強く認識させられた。
リンカーンは息子を一人戦争で亡くしており、長男の入隊に対して妻とも口論し、父親としても苦悩する。
大統領としてのリンカーンと、家庭人としてのリンカーンの姿を対比するように描いていたが、僕にはその対比の面白さは伝わってこなかった。
どうもスピルバーグの大層な演出が鼻につくのだ。
リンカーンは南部連合総司令官のロバート・E・リー将軍が降伏した6日後の1865年4月15日、劇場で観劇中に凶弾に倒れた。
これにより、リンカーンはアメリカ史上最初の暗殺された大統領となったのだが、その劇的シーンはない。
別の劇場の幕間で「大統領が撃たれた」と叫ばれるだけだ。
これはリンカーンの伝記映画ではないので、そのシーンは必要ないとしたのだろう。
全体を通じて自然光の柔らかさと暗さが美しい印象的を持った。
ダニエル・デイ=ルイスがリンカーンになり切っていたので2時間半を見続けることが出来た。
奴隷解放の急進派でガチガチの人種差別反対議員であるトミー・リー・ジョーンズの熱演も目立った。
そして政治には強烈なリーダーシップが必要なことも感じさせられた。