「ヨーク軍曹」 1941年 アメリカ
監督 ハワード・ホークス
出演 ゲイリー・クーパー ウォルター・ブレナン ジョーン・レスリー
ジョージ・トビアス スタンリー・リッジス
マーガレット・ワイチャーリイ ウォード・ボンド
ノア・ビアリー・Jr ジューン・ロックハート
ストーリー
1916年アメリカ、テネシー州の田舎に住むヨーク(ゲイリー・クーパー)は農業で一家を支えていた。
彼は独身で、弟・妹・母(マーガレット・ワイチャーリイ)と四人暮らしだが苦しい生活を強いられていた。
酒や射撃でうっぷんを晴らすヨークだったが、グレイシー(ジョーン・レスリー)に恋をして一変する。
彼女と結婚するために、低地を手に入れようとしゃかりきに働き出した。
しかし戦争が始まり、アメリカがドイツに宣戦布告した(第一次世界大戦)。
パイル牧師(ウォルター・ブレナン)はヨークのために奔走したがかなわず、ヨークも戦争に行くことになった。
射撃訓練で抜群の腕を見せたヨークは伍長に抜擢されるがこれを拒否。
ヨークはいったん故郷へ帰された。
そこで自分が取るべき道をじっくり考えた彼は、再び隊に戻ることを選んだ。
アメリカ軍はフランスに渡った。
後に「ムーズ・アルゴンヌ攻勢」と呼ばれる戦闘において、ヨークは鬼神のごとき活躍を見せた。
なんと8人で132人ものドイツ兵士を捕虜にしたのである。
ヨークをのぞく米兵は捕虜の見張りをしていたので、実際にはヨーク一人の手柄のようなものである。
ヨークは全米のヒーローとなった。
映画、講演会、コマーシャル出演など、ひっきりなしに依頼が舞いこんだ。
しかしヨークはこれをすべて断わり、故郷に帰ることを選んだ。
ヨークはテネシーに帰った。
盛大な歓迎を受けた後、ヨークが戦争前に耕作していた土地を見に行くと、そこには新しい家が建っていた。
家も土地もテネシーの人々からの贈り物だという。
寸評
時代背景があるとはいえ非常にアメリカ的な映画だし、アメリカ人好みの作品のような気がする。
主人公は荒くれ者だったが、ある時急に改心し敬虔なキリスト教徒となる。
教義に従い人を殺す戦争に反対して志願兵を拒絶し、兵役招集も拒否しようとするが、兵役免除申請は受け付けられず入隊することになる。
信仰心と国家の大義の狭間で悩み、故郷の岩山で自分を見つめなおす。
まるでキリストかブッダの修行の様でもあるが、傍らには聖書とアメリカの歴史という本がある。
やがて彼は聖書の中に「皇帝の者は皇帝のもとへ、神の者は神のもとへ」との言葉を見つけ、軍隊に戻っていく。
フランスの物はフランスへとでも言いたいのか、対ドイツ戦に参加していく。
殺人を拒否していた彼も、仲間の死を目の前にしてドイツ兵に発砲、射殺する。
彼等を殺さなければ、さらに多くの人命が奪われてしまうからというのが彼の論理であった。
なんだ、まるで広島、長崎への原爆投下と同じ理屈ではないか。
この辺にはアメリカ人の自分たちにとってのご都合主義を感じる。
全体的には間延び感を感じるところもあるが、都会と田舎の格差や、ヨークの暮している地方の雰囲気などを丁寧に描いていたと思う。
ヨークは地下鉄を理解できないでいるが、狩猟を通じた銃の扱いには長けていて軍隊では一目置かれる。
牧師の言う「信仰心は静かにやってくる、あるいは突然やってくる」という言葉であるとか、射撃大会での七面鳥を撃つことであるとか、伏線も随所に張られていて映画らしい体裁を整えている。
CG(コンピュータグラフィックス)などはない時代なので、戦闘場面はエキストラによるものだと思うが、俯瞰シーンやアップを組み合わせて迫力を生み出している。
CG処理を見慣れてしまった今、再見するとノスタルジックでありながらも意外とリアリティを感じる。
戦闘シーンでヨーク以外の主だった仲間が戦死していくのは、映画的な盛り上げ方としてもオーソドックスだし、引く手あまたのヒーローとなってからの誘いに「戻ることが出来なかった仲間もいるから、戦争でのことを金儲けにはしたくない」と拒絶するのも、ヒーロー作品としては当然の脚本で、ここでもオーソドックスな処理を行っている。
実に安心して見ることが出来る作品になっている。
ヨークの活躍は人づてに伝わる内に、話がだんだんと大きくなっていく。
ヒーロー伝説はそのようなものなのだろうと思う。
ヨークはフランスのみならず米国からも戦争におけるヒーローとして勲章を授けられ、都会での大パレードで迎えられるが、戦争ではこのようなヒーローが、洋の東西を問わず生み出されることが不思議である。
大金を得るチャンスを捨ててヨークは田舎へ帰り、恋人のグレイシーに結婚式しかあげるものがないが、これから働かねばならないから何年か待ってもらわなければならないと告げる。
ところが第一次大戦における大ヒーローであるヨークにテネシー州が農地と新居を提供してくれていた。
誠にアメリカ的な結末で、観客のだれもがホッとする。
日本でいえば文部省推薦映画と呼べるような作品だ。
アカデミー賞への多部門ノミネートが納得できる作品でもある。