おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

メゾン・ド・ヒミコ

2020-05-17 13:46:40 | 映画
「メゾン・ド・ヒミコ」 2005年 日本


監督 犬童一心
出演 オダギリ ジョー 柴咲コウ
   西島秀俊 歌澤寅右衛門
   青山吉良 柳澤愼一 井上博一
   森山潤久 洋ちゃん 田中泯

ストーリー
塗装会社の事務員として働く吉田沙織(柴咲コウ)、24歳。
ある事情で借金を抱え、夜はコンビニでバイトをしているが、いっそ風俗で働こうかと思い悩んでいる。
ある雨の日、沙織のもとに若く美しい岸本春彦(オダギリ ジョー)が訪ねてくる。
彼は、幼い沙織と母を捨てて出て行った父親の恋人だった。
沙織の父・吉田照雄は妻子の元を離れた後、ゲイバー「卑弥呼」の二代目を継いだが、今は神奈川県大浦海岸の近くにゲイのための老人ホームを創設。
春彦は、その父が癌で余命いくばくもないと告げ、ホームを手伝わないかと沙織を誘う。
父を嫌い、その存在を否定して生きてきた沙織だったが、破格の日給と遺産をちらつかされてその申し出を承諾する。
西欧のリゾート風プチ・ホテルを改装したホーム“メゾン・ド・ヒミコ”には、個性的な住人ばかりがいた。
生まれ変わったらバレリーナと相撲部屋の女将になることを夢見る陽気なニューハーフ・ルビイ(歌澤寅右衛門)、洋裁が上手く女性的で心優しい山崎(青山吉良)、元・小学校の教員で今は将棋が趣味の政木(柳澤愼一)、ホームのパトロンの元・部下で、家庭菜園に精を出す木嶋(森山潤久)、ギターがうまく背中には鮮やかな刺青を入れている高尾(井上博一)、ゲイバー「卑弥呼」の元・従業員でTVドラマに夢中なキクエ(洋ちゃん)、春彦と一緒に老人たちの面倒をみているいつも元気なチャービー(村上大樹)。
みんな明るく沙織を迎え入れてくれるが、実の父・卑弥呼(田中泯)は娘との予期せぬ再会に戸惑う。
沙織はその場所すべてに嫌悪感を抱くが、彼らの底抜けに明るい日常とその裏側に隠された孤独や悩みを知るようになる。


寸評
ゲイであるために、より正直に生きている人たちの姿に心打たれるものがあった。
僕も以前、六本木のオカマバーに行ったことがあって、ゲイが演じる芸にも酔いしれたものだ。
そして以外にもと言えば失礼な表現なのだがその真摯な生き方に心打たれたことを思い起こす。
「田舎に帰る時が一番つらいわ。親には内緒なので、その時だけ男に帰るの。でもその時が一番苦痛なの・・・」と語ってくれたのを思い出した。
だから、ルビィさんが引き取られていったシーンは悲しかったな。
あの六本木の彼女(彼)も歳をとっただろうに、今頃どうしてるのかなと思い出させた。

春彦が沙織に心惹かれてコトに及ぼうとするが、女を相手にしたことがなく動作がぎこちない。
沙織が「触りたいところがわからないんでしょ」とつぶやいて、この二人に肉体関係が生じえないことを描いていたのだが、心が通じ合っているのにその先へ進めない悲しさの様なものを感じさせて切なかった。
柴崎コウのファンとしては、この沙織役には拍手物だった。
あのギョロ目が何ともいえなくて、山崎さんの部屋で繰り広げるコスチュームショーの彼女は可愛くて、まるでミュージカルのような楽しさがあった。
演奏される曲も尾崎紀世彦の「また逢う日まで」というのも的を得た選曲だったと思う。
何もあんなにずっと不機嫌な顔をしなくてもいいのにと思うが、彼女の可愛さは性格ブスを演じさせた時にきらめきを放つ。

ラストシーンのショットはうまいなあと感じさせた。
沙織を迎えるホームの人たちはキクエ以外はジーンズで、落書きはまだ写りこんでいない。
隣人のお婆さんを最初に訪ねて来たときと同様に登場させ、普通の幸せな老後を過ごしている人の象徴を感じさせながら、より気持ちの通じ合った幸せな世界を描き出していたと思う。そしてカメラがパンすると・・・といった一連の流れが、エンディングらしくて映画を見たなという気にさせてくれた。
何となくホッとする雰囲気で明日への希望が感じられ、人間は孤独だけど、けっして一人ぼっちじゃないと思わせてくれる。

オダギリジョーも柴崎コウもいいけれど、卑弥呼の田中泯はスゴイ!
彼の横たわったままの演技には引き込まれてしまう。
「私にも言わせてくれる。あんたのことが好きだよ・・・」は胸に迫ってくるものがあった。
世間離れしたホームの世界とは正反対の世界にいて、まったくの部外者で居続ける細川専務役の西島秀俊もいい。
女にだらしないくせに、それを表に出さない普通の男としての雰囲気を醸し出していた。
最後の落書きを見つめる表情は現実社会にいる自分を見直しているようでいい表情だった。
エリナ役の村石千春さんは脇役だが、いい味を出していて、これからが楽しみな人だと感じた。
役者さんではないとのことだが、キクエさんをやった洋ちゃんとか言う人、すごく存在感があって、セリフなんかは少ないのに画面を引き締めていた。