おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

もらとりあむタマ子

2020-05-23 10:17:17 | 映画
「もらとりあむタマ子」 2013年 日本


監督 山下敦弘
出演 前田敦子 康すおん 鈴木慶一
   中村久美 富田靖子

ストーリー
秋。東京の大学を卒業したものの、就職せず、父の善次(康すおん)がひとりで暮らす甲府の実家へ戻ってきたタマ子(前田敦子)は善次が営むスポーツ用品店・甲府スポーツをろくに手伝うこともなく、開店時間になってもぐうぐう眠り続けている。
冬。大みそかを迎え、新年の準備に忙しい甲府スポーツ。
タマ子も今日ばかりは、買い物をしたりカレンダーを張り替えたりと、珍しく家事を手伝っている。
夜、こたつに当たっているタマ子のもとへ、善次の義姉・よし子(中村久美)がおせちを届けに来てくれた。
タマ子は「母さんから連絡ないね」と言って、今でも連絡を取り合う離婚した母の近況を善次に話す。
そこへ結婚して家を出た姉が帰ってきて大晦日の夜が更けてゆく……。
春。美容院で髪を切ったタマ子はどうやらどこかに履歴書を送るつもりのようだ。
面接用の洋服をねだられた善次は、感慨深げにいいよと答える。
買ったばかりの洋服を着て、タマ子は中学生の仁(伊東清矢)に履歴書用の写真を撮ってもらう。
タマ子の履歴書の提出先はどこなのだろうか。
夏。クーラーが効いてキンキンに冷えた居間で、タオルケットに包まれてマンガを読むタマ子。
次の日の夜、善次の兄・啓介(鈴木慶一)の家で、タマ子は善次がアクセサリー教室の先生をよし子に紹介されたことを知る。
勇気を出して様子を見にいったアクセサリー教室で、タマ子は先生の曜子(富田靖子)と初めて顔を合わせる。
父の再婚話に心揺れるタマ子。
その思いは果たして――。


寸評
アイドルグループのAKB48で人気No1を誇った前田敦子主演なのだが、アイドルの面影は一切ない。
これだけの雰囲気と演技を見せられると、この子の将来性に期待を抱いてしまう。
主人公のタマ子は、東京の大学を卒業したものの、就職もせずに甲府の実家に戻ってきているのだが、離婚してやもめ暮らしである父の作る料理を食べ、昼寝してはマンガを読んで過ごしている完全なダメダメ女である。
そのダメ女ぶりを前田敦子がいい雰囲気で演じている。
パラサイトの娘はこんななのだと思わせるし、そんな娘を持った父親もこうなるしかないのだと言わんばかりのリアリティを感じさせた。
前田敦子と康すおんのコンビがバツグンの面白さを見せる。

タマ子はたまにテレビを見て政治ニュースに「日本はダメだ」と毒づく。
自分は何もしていないのに一人前のこと言う人間の代表だ。
そして、父に仕事を探すように言われると、「その時が来たら動く!」とのたまう。
若い子が言いそうなセリフである。
そして「少なくとも…今ではない!」などと言う言葉が続くとぶん殴りたくなるが、父親はそうもできない。

大晦日になってもタマ子は父親にべったりの生活を続けている。
母親が男と出て行って別居していることや、結婚している姉がいることなども知らされるが、彼女たちは画面に登場しない。
話し方にしろ、食事をするしぐさや居眠りしている姿など、全身でダメさを表現する前田敦子が描き続けられる。
街角で見かけた中学生の仁のデート場面を目撃してニタリと笑う表情などは単なるアイドルと一線を画していた。

高校野球を見ながら「夏の暑い中でよく野球をやるわ」とつぶやくタマ子に、「人にはいろいろな生き方がある。タマ子はタマ子でいい」という父親。
この父親と娘の関係がなかなかよくて、全体をゆる~い空気で包んでいた。
父親はあまりうるさいことは言わないが、やはり娘のことが気がかりである。
父親に反抗しつつも、完全には突き放せない娘。
二人の距離感が何とも言えず、父親のことをアクセサリー教室の先生に語る場面などは可笑しいのに思わずホロリとさせられる。
その先生との再婚話にタマ子が微妙に心を乱す心情がうまく表現されていた。
写真館の息子の中学生に、履歴書用の写真を内緒で撮らせるエピソードや先生の様子を探らせるエピソードなどは山下監督らしいオフビートの効いた笑いを誘った。
モラトリアムって待期期間の事だと思うし、前田敦子はアイドルだしと思って見ていたが終わり方は良かった。
進展を感じさせるエンディングでもあったし・・・。
特別の美人でもない前田敦子の魅力全開といった作品になっていた。
僕にとっては前田敦子を再発見した映画だった。
いまどき珍しい1時間ちょっとという上映時間もよかった。