おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ミリオンダラー・ベイビー

2020-05-04 08:28:09 | 映画
「ミリオンダラー・ベイビー」 2004年 アメリカ


監督 クリント・イーストウッド
出演 クリント・イーストウッド
   ヒラリー・スワンク
   モーガン・フリーマン
   アンソニー・マッキー
   ジェイ・バルシェル
   マイク・コルター
   
ストーリー
「自分を守れ」が信条の老トレーナー、フランキー(クリント・イーストウッド)は、23年来の付き合いとなる雑用係のスクラップ(モーガン・フリーマン)と、昔ながらのジム、ヒット・ピットでボクサーを育成している。
トレーナーとしての実力はあるが、育てた若者は欲を求めて彼の元を去って行く。
有望株のウィリー(マイク・コルター)も、教え子を大事に思う余りタイトル戦を先延ばしにするフランキーにしびれを切らし、別のマネージャーの下へと去ってゆく。
そんな折、トレーラー育ちの不遇な人生から抜け出そうと、自分のボクシングの才能を頼りに31歳のマギー(ヒラリー・スワンク)がロサンゼルスにやってきた。
彼女は、ボクシング・ジムを経営するフランキーに弟子入りを志願するが、女性ボクサーは取らないと主張するフランキーにすげなく追い返される。
だがこれが最後のチャンスだと知るマギーは、ウェイトレスの仕事をかけもちしながら、残りの時間をすべて練習に費やしていた。
そんな彼女の真剣さに打たれ、ついにトレーナーを引き受けるフランキー。
彼の指導のもと、めきめきと腕を上げたマギーは、試合で連覇を重ね、瞬く間にチャンピオンの座を狙うまでに成長した。
同時に、実娘に何通手紙を出しても送り返されてしまうフランキーと、家族の愛に恵まれないマギーの間には、師弟関係を超えた深い絆が芽生えていく。
そしていよいよ、百万ドルのファイトマネーを賭けたタイトル・マッチの日がやってきた。
対戦相手は、汚い手を使うことで知られるドイツ人ボクサーの”青い熊“ビリー(ルシア・ライカー)。
試合はマギーの優勢で進んだが、ビリーの不意の反則攻撃により倒され、マギーは全身麻痺になってしまう。


寸評
クリント・イーストウッドは切ない映画が好きだなと感じた。
努力は必ず報われて、頑張るものはいつか栄光を掴み取るといったアメリカン・ドリームの世界はここにはない。
映画は「ロッキー」に見られるような息詰まるファイティング・シーンで女性ボクシングを見せるわけではない。
かと言ってボクシングのトレーナーと選手がやがて心を開いて恋愛感情が生まれるというラブロマンス映画でもない。
見方によれば、映画は盛り上がりに欠けたまま終ってしまうと言えなくもない。
ただ挿入的に描かれるフランキーやマギーの背負っている現実が映画に深みを持たせていて、かえってその淡々とした盛り上がりのなさが、せつなさとなって胸を突いてきた。

本作は極限状態での本当の愛情の意味を観客に問う映画だったと思う。
イーストウッドの演出は、おそらくそのことは世の中では当然なことなのだが、世の中の物事や人間を善と悪にくっきりと分けて描くようなことはしていない。
その演出には説得力がある。
スポ根ネタが見事な人間ドラマになっているのは繊細な心理描写ゆえで、老トレーナー、女性ボクサー、そして老トレーナーをサポートする元ボクサーという3人の心理がキッチリと描かれている。
特に、老トレーナー・フランキーの疎遠になっている娘に対する心理が、実に良く描かれている。
フランキーには疎遠になった娘がいるらしく、出し続けている手紙はいつも帰ってくる。
マギーも「自分の弟は刑務所暮らし、妹は生活保護を受け、父は死に、母親はブタでどうしようもない」ことを叫んだりする。
つらい人生を歩んでいる事がわかるし、それでも二人は夢を描いて生きている事もわかる。
だから愛に飢えたマギーがフランキーには素直になる姿がいじらしく見える。
お金を貯めたら家を買えというアドバイスにも素直に従う。
しかしその気持ちも、彼女の肉親達から愛のない現実的な関係を見せ付けられることで傷ついてしまう。
なんだか暗くて、陰湿な映画のような感じがするけれど、マギーがフランキーのボクシングを通じた愛を得て輝いていくことで、幸せ感がじわじわと心に染みてくる。
まるでボディーブローがボクサーに効いていくように。

最後の最後まで人生のはかなさを描き出して、マギーのたった一つの願いを叶えようとするフランキーの姿は切々たるものがあった。
アカデミー賞の監督賞と主演女優賞と助演男優賞を受賞し、作品賞も受賞したけれど、ボクは作品賞としては疑問をもつ。
作品の出来は文句はないけれど、何だか悲しすぎる映画でもう少し救いが欲しかったなと感じた。
もっとも、アカデミー賞の評価がすべてではないけれど。
でもボクはイーストウッドの映画は好きだな。
前作同様、クリント・イーストウッド自信が音楽を手がけていて、多分ピアノ演奏も彼自身がしていると思う。
映画の内容が内容なだけに変なところで歓びを感じてしまった。