おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

モンタナの風に抱かれて

2020-05-26 08:02:54 | 映画
「モンタナの風に抱かれて」 1998年 アメリカ


監督 ロバート・レッドフォード
出演 ロバート・レッドフォード
   クリスティン・スコット・トーマス
   サム・ニール
   ダイアン・ウィースト
   スカーレット・ヨハンソン
   クリス・クーパー
   チェリー・ジョーンズ

ストーリー
13歳の少女グレースは乗馬中に巻き込まれた事故で親友と右足を失い、人生に深く絶望していた。
また彼女の愛馬ピルグリムも、事故のショックで人間になつかない暴れ馬になっていた。
ニューヨークで雑誌編集長として活躍しているグレースの母親アニーは、娘の心を回復させるにはピルグリムの全快が必要だと考え、弁護士の夫ロバートをひとりニューヨークに残し、モンタナで馬専門のクリニックを開業しているトム・ブッカーの元へ、グレースとピルグリムを連れてトレーラーで旅立った。
トムは突如訪問してきたアニーの強引な態度に呆れるが、グレースが協力するならばという条件つきでピルグリムの治療を引き受ける。
トムの自然に逆らわない優しく誠実な治療法により、ピルグリムは徐々に回復し、グレースも少しずつ笑顔を取り戻していった。
そしてアニーはトムに、またトムもアニーに、心惹かれはじめる。
そんな時、アニーに会社から解雇命令が届いた。
トムに恋していたアニーは、意外にも全くショックはなかった。
あるキャンプの夜、ふたりはキスを交わすことになる。
だがしばらくして、ロバートがニューヨークからやって来た。
ロバートはすっかり元気になった娘の姿を見て、トムに心から感謝するが、アニーはそんな夫を見ているのがつらかった。
やがてピルグリムはグレースを背に乗せて歩けるまでに回復する。
そろそろモンタナを去る時が来たようだ。


寸評
冒頭の少女グレースが事故にあう場面で映画に引き込まれてしまう。
雪深い山道を友人と愛馬と駆け上がっている時に友人の馬が足をとられ滑り落ちる。
グレースも巻き込まれるように道路まで滑り落ちていくシーンが、事故シーンであるにもかかわらず美しい。
友人の少女は走ってきたトラックにひかれて死亡し、グレースも右足を失ってしまう。
愛馬のピルグリムも傷つき殺処分寸前である。
僕が競馬に夢中になっていた時期には、名馬が骨折の為に走れなくなり、懸命の介護にもかかわらず走れない馬は衰弱していき、やがて薬殺されたというニュースを幾度となく目にした。
馬にとっては生きていても走れないことは致命傷なのだ。
ピルグリムはよく助かったものだと思う。

少女のグレースが片足を失うという悲惨な事故だが、愛馬のピルグリムの姿はさらに悲惨なものである。
傷ついた顔がすさまじく、画面に映し出された時には思わずのけぞってしまう。
動物が出てくる映画はどこか微笑ましいものであることが多いのだが、ここでのピルグリムはそんな気持ちが湧いてこないほど痛ましい。
どうしても助けたい母親のアニーはモンタナのトムの牧場へ連れていく。
僕はアメリカの各州の所在がよく分かっていないので、モンタナ州がどこにあるのか調べてみると、カナダとの国境を接する北西部の州であること、面積は広いが人口密度が低いこと、自然豊かな土地であることを知った。
映画はそのモンタナの牧場を背景に馬と少女と母と男の物語が繰り広げられる。
傷ついた馬は傷ついた少女と同化していく。
アクセントとなるのは大都会ニューヨークでキャリアウーマンとして辣腕をふるっている母親のアニーの存在だ。
母親の性格は病院でのやりとりで端的に示される。
アニーは牧場についても電話で打ち合わせが絶えない仕事魔である。
のどかなモンタナの風土とマッチしないアニーだが、やがて人間性に目覚めていくこと、その中でトムに魅かれていくことは物語として予想されることだ。
それがモンタナの自然に溶け込むように静かに描かれていることでウットリとさせるもになっている。

馬のことを知らないだけに、馬の調教場面は手に汗握るシーンとなっている。
盛り上げるために劇的なことを描いているわけではない。
リアルな演出によりその場に立ち合っているような錯覚にさせてくれる。
調教場面はピルグリムの再生であると共に、グレースの再生でもある。
見守る牧場の人たちの笑顔に、観客である僕も自然と笑みを浮かべていた。
さてトムとアニーの恋だが、駆け付けた夫のロバートの告白がいい。
ロバートはアニーがロバートを愛しているよりも、自分がアニーを愛している力の方が強いと言う。
愛するあまり、背伸びしてやってきた自分を切々と語る。
僕はこのロバートに共感したし、愛することは苦しいことなのだと改めて思った。
でも最後はああなるんだなあ・・・古くは「シェーン」も、、イーストウッドの「マジソン郡の橋」でも。