おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

明治侠客伝・三代目襲名

2020-05-11 07:19:11 | 映画
「め」です。

「明治侠客伝・三代目襲名」 1965 日本


監督 加藤泰
出演 鶴田浩二 富司純子 大木実 津川雅彦
   安部徹 山城新伍 曽根晴美 汐路章
   遠藤辰雄 嵐寛寿郎 藤山寛美 丹波哲郎

ストーリー
明治40年の大阪。古くから続く土地のやくざ・木屋辰一家は、湾岸地区の土木工事の建材調達を一手に引き受け、新進の星野建材はなかなかそこに入り込めないでいた。
喧嘩祭りに賑わう大阪の町角で、木屋辰一家の二代目江本福一(嵐寛寿郎)が小倉の無宿者中井徳松(汐路章)に刺された。
浄水場工事を請負う野村組の現場に資材を送りこむ木屋辰に対する星野軍次郎(大木実)のいやがらせであった。
星野の配下唐沢組を使っての指金であることはわかっていながら確証が掴めず、木屋辰の一人息子春夫(津川雅彦)は不貞くされて家を飛び出した。
福一は殺し屋に腰を刺されたものの何とか一命を取りとめ、軍次郎の暗殺計画は失敗に終わるが、軍次郎は福一が寝たきりになったのを良いことに、配下の唐沢一家を使って木屋辰の事業をことごとく妨害する。
木屋辰の乾分菊池浅次郎(鶴田浩二)は、春夫の身を案じてお茶屋松乃屋を訪ねた。
松乃屋の娼妓初(藤純子)が唐沢(安部徹)にしぼられ、親の死に目にも会えないのを知った浅次郎は、初栄を親元に帰してやるのだった。
二代目は床に伏し、春夫不在の木屋辰組は、浅次郎の采配で仕事を続けた。
だが唐沢組は陰湿ないやがらせを重ね、浅次郎らの足をひくのだった。
資材不足で工事の遅れを詑びる浅次郎に、野村組社長野村勇太郎(丹波哲郎)は、快よく励ましを送った。
ある日初栄が親の死に目に会えた礼をのべるため浅次郎を訪れた。
初栄は浅次郎に恋心を抱くようになっていくが、遊郭はそんな初栄をとうとう唐沢に売り飛ばしてしまう。
だが初栄は松乃屋で唐沢から制裁を受け、浅次郎は唐沢と対決する破目となった。
木屋辰一家の客人石井仙吉(藤山寛美)の機知で浅次郎は救われたが、その時、二代目は息をひきとっていた。
看病の甲斐なく福一が息を引き取り、未亡人の意向により木屋辰の三代目は浅次郎と決まる。
この決定に不満な春夫は浅次郎を憎んで毒づくが、浅次郎は「やくざの木屋辰は俺が受け継ぎ、春夫には堅気になってもらって木屋辰の事業を繁栄させてほしい」と泣いて懇願する。
この言葉を聞いた春夫は改心して浅次郎と和解し、浅次郎は野村に春夫の行く末を頼んだ。
数日後、浅次郎の襲名披露が行われた夜、初栄は唐沢に身請けされていた。
三代目の初仕事に、星野は横槍を入れたが、野村の献身的な努力で江本建材は軌道に乗った。
春夫の手紙に喜ぶ浅次郎のもとに大阪のひさ(毛利菊枝)から、春夫、仙吉の二人が星野、唐沢に刺殺されたと知らせて来た。
浅次郎は短刀を握りしめ、星野建材にのりこむと、星野、唐沢を刺した。
凶暴なやくざの顔を初めて見せた浅次郎が唐沢にとどめを刺そうとすると、初栄が必死に止めに入って浅次郎は我に返る。
薄暮の街を、追いすがる初栄を振り払いながら浅次郎は警察に連行されていくのだった。

寸評
冒頭で嵐寛寿郎が汐路章に刺されるシーンがあるのだが、このシーンがなかなかいい。
見るからに悪人ずらした汐路章のアップが入る。
祭りを見学している嵐寛寿郎の背後におもちゃの笛を吹きながら表情ひとつ変えずに近づいていく。
祭りの騒音に声が掻き消され、嵐勘十郎の表情が苦痛に歪んだことで刺されたと分かる。
この間、汐路章が全くの無表情で事に及んでいる事で凄みが増している。
任侠映画ではよくある善玉親分の暗殺シーンであるが、ここでの暗殺シーンはその中でも出色の出来栄えである。
初栄が浅次郎の機転によって父親の臨終に立ち会えた事のお礼を言う土手のシーンもこれまた出色のシーンとなっている。
夕焼け空を背景にしたセットは美しく任侠映画史上に残る名シーンだ。
死にゆく親に会いに行った初栄が故郷から戻ってきた土産の桃を浅次郎に渡すのだが、このシーンの美しさは屈指のものだと思う。
結ばれる事のない鶴田浩二演じる浅次郎と藤純子演じる娼妓初栄の見事なラブシーンである。

鶴田浩二が一緒に逃げてくれとせがむ藤純子に言う、「あほな男や、せやけどわいにはこういう生きかたしかでけへんのや」のセリフは仁侠映画の中でも名セリフのひとつであろう。
親の危篤にも国に帰れない女郎の藤は、いざこざを起こしながらも自分を親の死に目に合わせてくれた鶴田に心を通わせる。
川辺でお礼にともってきた桃を渡すところなどは女の気持ちを表すシーンとして情感たっぷり。
木屋辰の代貸・菊地浅次郎は、女に惹かれながらもその女に会っていたばっかりに親分の死に目に会えなかったことを引け目に感じている。
軟弱な息子をかばいながら一家をきりもみする鶴田はまさしくスーパーマンなんだが、それがスーパーマンに見えないのは彼が控え目に控え目に行動するせいだろう。
松竹新喜劇の名優、藤山寛美が結構得な役回りで出ている。
木屋辰一家の二代目殺しを指図した張本人である唐沢組組長役の阿部徹が、これまた悪人役としてピッタリで、藤に対する横恋慕ぶりや木屋辰一家に対する仕打ちも、彼の顔立ちとあいまってまさしく悪役である。
この悪役がいるから、最後の殴り込みが生きてくる。
ラストの殴り込みシーンでは、逃げる安部徹だけを見据えて追いかける鶴田浩二の凄まじさに圧倒される。
たてまえに生きねばならぬ男と、その男への愛一筋に生きる女の物語であり、正統派仁侠映画のベスト・ワンと言っても過言でない日本映画らしい作品である。