「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「由美ちゃん物語」(48)

2010年05月20日 | 過去の物語
「さて、そんじゃ、行くか」

と、僕は由美ちゃんに言うと、由美ちゃんは、

「あまり、鼻の下、伸ばさないでね!」

と、くぎを刺します。

「大丈夫さ。仕事は、本気でやるからね」

と、僕は真面目な顔で、答えます。

「うん。わかっては、いるけど、ちょっと、言ってみたかったの」

と、由美ちゃんは、照れた感じで、答えています。

「信じているもの、○○さんを!」

と、由美ちゃんは、抱きついてくると、

「チュ!」

と、いきなりのキスです。

「まったく、甘えん坊だな」

と、僕が笑うと、由美ちゃんも、

「甘えん坊だもん!」

と、にこやかな笑顔になります。

二人で、マンションの玄関を出ると、外は綺麗に晴れて、初夏の気持ちいい日差しが二人を照らします。


僕らは珍しくタクシー移動で、佳乃さんの家に伺うと、お手伝いさんに、大広間に通されます。

さすがに古くからの尊い血筋を感じさせる大邸宅で、ちょっと息を飲む感じです。

「由美ちゃん家も、相当でかいけど、ここも広いねえ」

と、僕が感嘆すると、

「うちも古い血筋だけど、佳乃さんのところも、かなり高貴な血筋だからね」

と、由美ちゃんは、さすがに、落ち着いたものです。

「なんつーか、調度品も高級品ばかりだし、なんだか、すごいねー。もう、安サラリーマンの僕としては、驚きの連続だよ」

と、僕は素直な感想を述べます。

由美ちゃんは、傍らに飾ってある高そうな皿を見ながら、

「ふーん、古伊万里かあ。数千万円というところかしら・・・」

と、その審美眼ぶりを顕しています。

「数千万円かぁ・・・。いやいや、お金持ちの世界は、果てしないなあ」

と、僕も、最近は免疫ができたものの、ちょっと驚いています。

「あの絵、デュフイじゃない?本物だったら、ちょっと値段がわからない程だわ」

と、飾ってある絵を見つけて、驚く由美ちゃんです。

「まじ!デュフイなんて、とんでもないぜ!」

と、僕もそこは、元美術部。それくらいは、わかります。

「まあ、佳乃さんは、政治家とも、おつきあいはあるみたいだし、顔は広いわよね」

と、由美ちゃんが感嘆しています。

「一部上場企業の社長さんとかも、会のメンバーだし、やっぱりこういうことになるのよね」

と、由美ちゃんは会のメンバーの豪華さを指摘しています。

「まあ、でも、そういうところで、お点前を披露する由美ちゃんも、すごいってことになるね」

と、僕は素直な感想を述べています。

「あら、ほめてくれるの○○さん。ありがとう!」

と、由美ちゃんは素直に喜んでいます。

「あら、ほんとに、仲が、よろしいのね」

と、そんなところへ、佳乃さんが、薄いうぐいす色の着物で、春らしい装いで出てきます。

「今日は、お伺い頂いて、ほんとに、うれしいわ」

と、顔をほころばせて、艶やかな風情を見せる佳乃さんです。

「はじめまして。秋村佳乃と申します。紅鹿流三十七代目家元をさせてもらっています」

と、きちんとしたお辞儀をする佳乃さんです。

「はじめまして。八津菱電機で、SEをやってます。○○です」

と、一応名刺を出す僕です。まあ、サラリーマンの癖という奴でしょうか。

「はあ。SEさんで、いらっしゃるの。さすがに、頭が回るのでしょうね」

と、佳乃さんは、やわらかな表情で、さりげなく、僕を持ち上げています。

「いやあ、まあ、度胸だけの、はったりですから。まあ、男は度胸!ですから!」

と、僕は、素直な自分評を披露しています。佳乃さんは、そんな僕を見ながら、

「さすがに由美さんが選んだ人物だけあって、ちょっと他にはいないような感じですわ」

と、佳乃さんは、僕の受け答えに満足して、彼女なりの褒め方をしています。

「ね!おもしろそうなひとでしょ!佳乃さん!」

と、由美ちゃんも、その評価に満足しながら、自慢しています。

「そうね。目に強い力があるわ。多くのひとを率いている方に共通した特徴ね」

と、佳乃さんは、さすがに多くの人間を見てきただけあって、男の本質を見抜いているようです。

「あなたなら、大丈夫。信じられるわ」

と、佳乃さんは、そうつぶやくと、少しだけ、目の辺りを、ピンク色に染めます。

「由美さんも、いい男を、見つけたわね」

と、佳乃さんは、由美ちゃんをほめます。

「佳乃さんに気に入られて、良かった」

と、由美ちゃんは、満足げです。

「確かに、そこらへんの御曹司が束になってかかっても、敵わないわね」

と、佳乃さんがほほえむと、

「でしょう!」

と、由美ちゃんもほほえみます。

「何の話?」

と、僕はいぶかしがりますが、

「内緒の話よね?」

と、佳乃さんは、由美ちゃんを見ながらほほえみます。

「そう。女同士の内緒ばなし!」

と由美ちゃんも同意し、二人の仲がよいところを見せつけます。

「はあ。そうですか」

と、僕はちんぷんかんぷんなまま、きょとんとしています。

そんな僕を見て、二人は、笑いあいます。

「ま、仲がよろしいことで・・・」

と、狐につままれたような感じで、僕はひとりごちます。


「さて、それで、だいたいの話は、由美に聞きましたが、その新聞記者は、どこの奴なんです?」

と、僕が聞くと、佳乃さんは、真面目な顔になりながら、

「新系新聞よ」

と話します。

「なるほどぉ。業界的には、あまり大きな新聞社ではないなあ」

と、僕が言うと、由美ちゃんは、

「え?でも、比地新系グループって、大きいのではなくて?」

と、素直に反論です。

「新聞社としての規模は、夜見伊利新聞や芦飛新聞などからは、一段落ちるんだよ。支社の数とかが、他の新聞社より、少ないからね」

と、僕は素直に説明しています。

「保守系右派。まあ、政治的なネタというより、社会的なネタとして、狙っているのかなあ」

と、僕が推理すると、佳乃さんは、

「そうね。水島さんは、政治的な問題に首をつっこむタイプではないわ。それに悪事に絡む感じでは、絶対ないし」

と、首をひねっています。

「いずれにしろ、その新聞記者が何を狙っているかを知る必要がありますね。攻撃は最大の防御ですけど、その攻撃のためにも、知れるだけの情報を収拾する必要がある」

と、僕が言うと、

「そうね。やはり、水島さんに会って、いろいろとお話を伺いましょう」

と、佳乃さんも、頭の回りが速い感じで、すいすいと話を進めていきます。

「佳乃さんも、ご一緒しますか?もし、お忙しいなら、我々だけでも、行きますが」

と、僕が冷静に言うと、

「もちろん、私もご一緒します。由美さんにもそう申しましたので」

と、実直な感じで話す佳乃さんは、この件を解決する並々ならぬ想いを僕らに見せつけています。

「それに、あなた方と、一緒にいると、ドキドキするような体験が、できそうだわ」

と、佳乃さんは、意味深なほほえみを僕らに送ると、にこやかな表情になります。

「なにかしら、久しぶりに感じる、このわくわく感は?」

と、佳乃さんは、自分に問いかけているようです。

「まるで、小学生の頃、遠足を明日に控えているような気分」

と、ほほえむと、僕の目をじっと見ながら、さらに、子供のように素直な表情で、ほほえみます。

「佳乃さん、まるで、小学生の女の子みたい」

と、由美ちゃんがほほえむと、

「そうかもしれないわね。今の私は、好きな物を素直に好きになる小学生かもしれない」

と、言うと、少しだけ赤くなります。

僕は、なんだか、よくわからない、ガールズトークにちんぷんかんぷんになりながら、

「まあ、とにかく、その水島さんの家に向かいましょう。その新聞記者がいるかもしれないから、ちょっと気をつけながらね」

と、言うと、佳乃さんは、

「わかったわ。ちょっと電話をいれます」

と、携帯電話を取り出します。

「もしもし、あ、私です。佳乃です。はい。あの件で、これからお伺いしたいのですけれど、よろしいでしょうか」

と、先方に訪ねる佳乃さんです。

「ええ。それで、その件で、お手伝いくださる方を、連れていきます。はい。ご紹介したいので、はい。では。その時に」

と、手短にアポイントメントをとる、佳乃さんです。

「先方は、いつでもOKだそうです。参りましょうか?」

と、佳乃さんは、僕を見つめます。

「行きましょう。戦闘開始です」

と、僕は言うと、目を燃え上がらせ、戦闘状態に入ります。

そんな僕を満足そうに見つめる由美ちゃんです。

そして、そんな二人を複雑な気持ちで見る佳乃さんなのでした。

(つづく)

最新の画像もっと見る