「さて、そんじゃ、行くか」
と、僕は由美ちゃんに言うと、由美ちゃんは、
「あまり、鼻の下、伸ばさないでね!」
と、くぎを刺します。
「大丈夫さ。仕事は、本気でやるからね」
と、僕は真面目な顔で、答えます。
「うん。わかっては、いるけど、ちょっと、言ってみたかったの」
と、由美ちゃんは、照れた感じで、答えています。
「信じているもの、○○さんを!」
と、由美ちゃんは、抱きついてくると、
「チュ!」
と、いきなりのキスです。
「まったく、甘えん坊だな」
と、僕が笑うと、由美ちゃんも、
「甘えん坊だもん!」
と、にこやかな笑顔になります。
二人で、マンションの玄関を出ると、外は綺麗に晴れて、初夏の気持ちいい日差しが二人を照らします。
僕らは珍しくタクシー移動で、佳乃さんの家に伺うと、お手伝いさんに、大広間に通されます。
さすがに古くからの尊い血筋を感じさせる大邸宅で、ちょっと息を飲む感じです。
「由美ちゃん家も、相当でかいけど、ここも広いねえ」
と、僕が感嘆すると、
「うちも古い血筋だけど、佳乃さんのところも、かなり高貴な血筋だからね」
と、由美ちゃんは、さすがに、落ち着いたものです。
「なんつーか、調度品も高級品ばかりだし、なんだか、すごいねー。もう、安サラリーマンの僕としては、驚きの連続だよ」
と、僕は素直な感想を述べます。
由美ちゃんは、傍らに飾ってある高そうな皿を見ながら、
「ふーん、古伊万里かあ。数千万円というところかしら・・・」
と、その審美眼ぶりを顕しています。
「数千万円かぁ・・・。いやいや、お金持ちの世界は、果てしないなあ」
と、僕も、最近は免疫ができたものの、ちょっと驚いています。
「あの絵、デュフイじゃない?本物だったら、ちょっと値段がわからない程だわ」
と、飾ってある絵を見つけて、驚く由美ちゃんです。
「まじ!デュフイなんて、とんでもないぜ!」
と、僕もそこは、元美術部。それくらいは、わかります。
「まあ、佳乃さんは、政治家とも、おつきあいはあるみたいだし、顔は広いわよね」
と、由美ちゃんが感嘆しています。
「一部上場企業の社長さんとかも、会のメンバーだし、やっぱりこういうことになるのよね」
と、由美ちゃんは会のメンバーの豪華さを指摘しています。
「まあ、でも、そういうところで、お点前を披露する由美ちゃんも、すごいってことになるね」
と、僕は素直な感想を述べています。
「あら、ほめてくれるの○○さん。ありがとう!」
と、由美ちゃんは素直に喜んでいます。
「あら、ほんとに、仲が、よろしいのね」
と、そんなところへ、佳乃さんが、薄いうぐいす色の着物で、春らしい装いで出てきます。
「今日は、お伺い頂いて、ほんとに、うれしいわ」
と、顔をほころばせて、艶やかな風情を見せる佳乃さんです。
「はじめまして。秋村佳乃と申します。紅鹿流三十七代目家元をさせてもらっています」
と、きちんとしたお辞儀をする佳乃さんです。
「はじめまして。八津菱電機で、SEをやってます。○○です」
と、一応名刺を出す僕です。まあ、サラリーマンの癖という奴でしょうか。
「はあ。SEさんで、いらっしゃるの。さすがに、頭が回るのでしょうね」
と、佳乃さんは、やわらかな表情で、さりげなく、僕を持ち上げています。
「いやあ、まあ、度胸だけの、はったりですから。まあ、男は度胸!ですから!」
と、僕は、素直な自分評を披露しています。佳乃さんは、そんな僕を見ながら、
「さすがに由美さんが選んだ人物だけあって、ちょっと他にはいないような感じですわ」
と、佳乃さんは、僕の受け答えに満足して、彼女なりの褒め方をしています。
「ね!おもしろそうなひとでしょ!佳乃さん!」
と、由美ちゃんも、その評価に満足しながら、自慢しています。
「そうね。目に強い力があるわ。多くのひとを率いている方に共通した特徴ね」
と、佳乃さんは、さすがに多くの人間を見てきただけあって、男の本質を見抜いているようです。
「あなたなら、大丈夫。信じられるわ」
と、佳乃さんは、そうつぶやくと、少しだけ、目の辺りを、ピンク色に染めます。
「由美さんも、いい男を、見つけたわね」
と、佳乃さんは、由美ちゃんをほめます。
「佳乃さんに気に入られて、良かった」
と、由美ちゃんは、満足げです。
「確かに、そこらへんの御曹司が束になってかかっても、敵わないわね」
と、佳乃さんがほほえむと、
「でしょう!」
と、由美ちゃんもほほえみます。
「何の話?」
と、僕はいぶかしがりますが、
「内緒の話よね?」
と、佳乃さんは、由美ちゃんを見ながらほほえみます。
「そう。女同士の内緒ばなし!」
と由美ちゃんも同意し、二人の仲がよいところを見せつけます。
「はあ。そうですか」
と、僕はちんぷんかんぷんなまま、きょとんとしています。
そんな僕を見て、二人は、笑いあいます。
「ま、仲がよろしいことで・・・」
と、狐につままれたような感じで、僕はひとりごちます。
「さて、それで、だいたいの話は、由美に聞きましたが、その新聞記者は、どこの奴なんです?」
と、僕が聞くと、佳乃さんは、真面目な顔になりながら、
「新系新聞よ」
と話します。
「なるほどぉ。業界的には、あまり大きな新聞社ではないなあ」
と、僕が言うと、由美ちゃんは、
「え?でも、比地新系グループって、大きいのではなくて?」
と、素直に反論です。
「新聞社としての規模は、夜見伊利新聞や芦飛新聞などからは、一段落ちるんだよ。支社の数とかが、他の新聞社より、少ないからね」
と、僕は素直に説明しています。
「保守系右派。まあ、政治的なネタというより、社会的なネタとして、狙っているのかなあ」
と、僕が推理すると、佳乃さんは、
「そうね。水島さんは、政治的な問題に首をつっこむタイプではないわ。それに悪事に絡む感じでは、絶対ないし」
と、首をひねっています。
「いずれにしろ、その新聞記者が何を狙っているかを知る必要がありますね。攻撃は最大の防御ですけど、その攻撃のためにも、知れるだけの情報を収拾する必要がある」
と、僕が言うと、
「そうね。やはり、水島さんに会って、いろいろとお話を伺いましょう」
と、佳乃さんも、頭の回りが速い感じで、すいすいと話を進めていきます。
「佳乃さんも、ご一緒しますか?もし、お忙しいなら、我々だけでも、行きますが」
と、僕が冷静に言うと、
「もちろん、私もご一緒します。由美さんにもそう申しましたので」
と、実直な感じで話す佳乃さんは、この件を解決する並々ならぬ想いを僕らに見せつけています。
「それに、あなた方と、一緒にいると、ドキドキするような体験が、できそうだわ」
と、佳乃さんは、意味深なほほえみを僕らに送ると、にこやかな表情になります。
「なにかしら、久しぶりに感じる、このわくわく感は?」
と、佳乃さんは、自分に問いかけているようです。
「まるで、小学生の頃、遠足を明日に控えているような気分」
と、ほほえむと、僕の目をじっと見ながら、さらに、子供のように素直な表情で、ほほえみます。
「佳乃さん、まるで、小学生の女の子みたい」
と、由美ちゃんがほほえむと、
「そうかもしれないわね。今の私は、好きな物を素直に好きになる小学生かもしれない」
と、言うと、少しだけ赤くなります。
僕は、なんだか、よくわからない、ガールズトークにちんぷんかんぷんになりながら、
「まあ、とにかく、その水島さんの家に向かいましょう。その新聞記者がいるかもしれないから、ちょっと気をつけながらね」
と、言うと、佳乃さんは、
「わかったわ。ちょっと電話をいれます」
と、携帯電話を取り出します。
「もしもし、あ、私です。佳乃です。はい。あの件で、これからお伺いしたいのですけれど、よろしいでしょうか」
と、先方に訪ねる佳乃さんです。
「ええ。それで、その件で、お手伝いくださる方を、連れていきます。はい。ご紹介したいので、はい。では。その時に」
と、手短にアポイントメントをとる、佳乃さんです。
「先方は、いつでもOKだそうです。参りましょうか?」
と、佳乃さんは、僕を見つめます。
「行きましょう。戦闘開始です」
と、僕は言うと、目を燃え上がらせ、戦闘状態に入ります。
そんな僕を満足そうに見つめる由美ちゃんです。
そして、そんな二人を複雑な気持ちで見る佳乃さんなのでした。
(つづく)
と、僕は由美ちゃんに言うと、由美ちゃんは、
「あまり、鼻の下、伸ばさないでね!」
と、くぎを刺します。
「大丈夫さ。仕事は、本気でやるからね」
と、僕は真面目な顔で、答えます。
「うん。わかっては、いるけど、ちょっと、言ってみたかったの」
と、由美ちゃんは、照れた感じで、答えています。
「信じているもの、○○さんを!」
と、由美ちゃんは、抱きついてくると、
「チュ!」
と、いきなりのキスです。
「まったく、甘えん坊だな」
と、僕が笑うと、由美ちゃんも、
「甘えん坊だもん!」
と、にこやかな笑顔になります。
二人で、マンションの玄関を出ると、外は綺麗に晴れて、初夏の気持ちいい日差しが二人を照らします。
僕らは珍しくタクシー移動で、佳乃さんの家に伺うと、お手伝いさんに、大広間に通されます。
さすがに古くからの尊い血筋を感じさせる大邸宅で、ちょっと息を飲む感じです。
「由美ちゃん家も、相当でかいけど、ここも広いねえ」
と、僕が感嘆すると、
「うちも古い血筋だけど、佳乃さんのところも、かなり高貴な血筋だからね」
と、由美ちゃんは、さすがに、落ち着いたものです。
「なんつーか、調度品も高級品ばかりだし、なんだか、すごいねー。もう、安サラリーマンの僕としては、驚きの連続だよ」
と、僕は素直な感想を述べます。
由美ちゃんは、傍らに飾ってある高そうな皿を見ながら、
「ふーん、古伊万里かあ。数千万円というところかしら・・・」
と、その審美眼ぶりを顕しています。
「数千万円かぁ・・・。いやいや、お金持ちの世界は、果てしないなあ」
と、僕も、最近は免疫ができたものの、ちょっと驚いています。
「あの絵、デュフイじゃない?本物だったら、ちょっと値段がわからない程だわ」
と、飾ってある絵を見つけて、驚く由美ちゃんです。
「まじ!デュフイなんて、とんでもないぜ!」
と、僕もそこは、元美術部。それくらいは、わかります。
「まあ、佳乃さんは、政治家とも、おつきあいはあるみたいだし、顔は広いわよね」
と、由美ちゃんが感嘆しています。
「一部上場企業の社長さんとかも、会のメンバーだし、やっぱりこういうことになるのよね」
と、由美ちゃんは会のメンバーの豪華さを指摘しています。
「まあ、でも、そういうところで、お点前を披露する由美ちゃんも、すごいってことになるね」
と、僕は素直な感想を述べています。
「あら、ほめてくれるの○○さん。ありがとう!」
と、由美ちゃんは素直に喜んでいます。
「あら、ほんとに、仲が、よろしいのね」
と、そんなところへ、佳乃さんが、薄いうぐいす色の着物で、春らしい装いで出てきます。
「今日は、お伺い頂いて、ほんとに、うれしいわ」
と、顔をほころばせて、艶やかな風情を見せる佳乃さんです。
「はじめまして。秋村佳乃と申します。紅鹿流三十七代目家元をさせてもらっています」
と、きちんとしたお辞儀をする佳乃さんです。
「はじめまして。八津菱電機で、SEをやってます。○○です」
と、一応名刺を出す僕です。まあ、サラリーマンの癖という奴でしょうか。
「はあ。SEさんで、いらっしゃるの。さすがに、頭が回るのでしょうね」
と、佳乃さんは、やわらかな表情で、さりげなく、僕を持ち上げています。
「いやあ、まあ、度胸だけの、はったりですから。まあ、男は度胸!ですから!」
と、僕は、素直な自分評を披露しています。佳乃さんは、そんな僕を見ながら、
「さすがに由美さんが選んだ人物だけあって、ちょっと他にはいないような感じですわ」
と、佳乃さんは、僕の受け答えに満足して、彼女なりの褒め方をしています。
「ね!おもしろそうなひとでしょ!佳乃さん!」
と、由美ちゃんも、その評価に満足しながら、自慢しています。
「そうね。目に強い力があるわ。多くのひとを率いている方に共通した特徴ね」
と、佳乃さんは、さすがに多くの人間を見てきただけあって、男の本質を見抜いているようです。
「あなたなら、大丈夫。信じられるわ」
と、佳乃さんは、そうつぶやくと、少しだけ、目の辺りを、ピンク色に染めます。
「由美さんも、いい男を、見つけたわね」
と、佳乃さんは、由美ちゃんをほめます。
「佳乃さんに気に入られて、良かった」
と、由美ちゃんは、満足げです。
「確かに、そこらへんの御曹司が束になってかかっても、敵わないわね」
と、佳乃さんがほほえむと、
「でしょう!」
と、由美ちゃんもほほえみます。
「何の話?」
と、僕はいぶかしがりますが、
「内緒の話よね?」
と、佳乃さんは、由美ちゃんを見ながらほほえみます。
「そう。女同士の内緒ばなし!」
と由美ちゃんも同意し、二人の仲がよいところを見せつけます。
「はあ。そうですか」
と、僕はちんぷんかんぷんなまま、きょとんとしています。
そんな僕を見て、二人は、笑いあいます。
「ま、仲がよろしいことで・・・」
と、狐につままれたような感じで、僕はひとりごちます。
「さて、それで、だいたいの話は、由美に聞きましたが、その新聞記者は、どこの奴なんです?」
と、僕が聞くと、佳乃さんは、真面目な顔になりながら、
「新系新聞よ」
と話します。
「なるほどぉ。業界的には、あまり大きな新聞社ではないなあ」
と、僕が言うと、由美ちゃんは、
「え?でも、比地新系グループって、大きいのではなくて?」
と、素直に反論です。
「新聞社としての規模は、夜見伊利新聞や芦飛新聞などからは、一段落ちるんだよ。支社の数とかが、他の新聞社より、少ないからね」
と、僕は素直に説明しています。
「保守系右派。まあ、政治的なネタというより、社会的なネタとして、狙っているのかなあ」
と、僕が推理すると、佳乃さんは、
「そうね。水島さんは、政治的な問題に首をつっこむタイプではないわ。それに悪事に絡む感じでは、絶対ないし」
と、首をひねっています。
「いずれにしろ、その新聞記者が何を狙っているかを知る必要がありますね。攻撃は最大の防御ですけど、その攻撃のためにも、知れるだけの情報を収拾する必要がある」
と、僕が言うと、
「そうね。やはり、水島さんに会って、いろいろとお話を伺いましょう」
と、佳乃さんも、頭の回りが速い感じで、すいすいと話を進めていきます。
「佳乃さんも、ご一緒しますか?もし、お忙しいなら、我々だけでも、行きますが」
と、僕が冷静に言うと、
「もちろん、私もご一緒します。由美さんにもそう申しましたので」
と、実直な感じで話す佳乃さんは、この件を解決する並々ならぬ想いを僕らに見せつけています。
「それに、あなた方と、一緒にいると、ドキドキするような体験が、できそうだわ」
と、佳乃さんは、意味深なほほえみを僕らに送ると、にこやかな表情になります。
「なにかしら、久しぶりに感じる、このわくわく感は?」
と、佳乃さんは、自分に問いかけているようです。
「まるで、小学生の頃、遠足を明日に控えているような気分」
と、ほほえむと、僕の目をじっと見ながら、さらに、子供のように素直な表情で、ほほえみます。
「佳乃さん、まるで、小学生の女の子みたい」
と、由美ちゃんがほほえむと、
「そうかもしれないわね。今の私は、好きな物を素直に好きになる小学生かもしれない」
と、言うと、少しだけ赤くなります。
僕は、なんだか、よくわからない、ガールズトークにちんぷんかんぷんになりながら、
「まあ、とにかく、その水島さんの家に向かいましょう。その新聞記者がいるかもしれないから、ちょっと気をつけながらね」
と、言うと、佳乃さんは、
「わかったわ。ちょっと電話をいれます」
と、携帯電話を取り出します。
「もしもし、あ、私です。佳乃です。はい。あの件で、これからお伺いしたいのですけれど、よろしいでしょうか」
と、先方に訪ねる佳乃さんです。
「ええ。それで、その件で、お手伝いくださる方を、連れていきます。はい。ご紹介したいので、はい。では。その時に」
と、手短にアポイントメントをとる、佳乃さんです。
「先方は、いつでもOKだそうです。参りましょうか?」
と、佳乃さんは、僕を見つめます。
「行きましょう。戦闘開始です」
と、僕は言うと、目を燃え上がらせ、戦闘状態に入ります。
そんな僕を満足そうに見つめる由美ちゃんです。
そして、そんな二人を複雑な気持ちで見る佳乃さんなのでした。
(つづく)