「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「由美ちゃん物語」(52)

2010年05月27日 | 過去の物語
「さて、そんじゃ、行きましょうか!」

と僕が言うと、佳乃さんと由美ちゃんはシックなパンツスーツ姿で、うなずきます。

僕らはあれから、それぞれの家に戻り(僕は由美ちゃん家だけど)、一晩を過ごすと

新たな気持ちで、佳乃さんの家に集まったのです。

僕らはタクシーで、水島社長の家に移動すると、いつものように、お手伝いさんに

案内され、広い応接室に通されます。

「さて、御幸記者待ちだね」

と僕が言うと、二人とも少し緊張した面持ちです。

「私たち、連れて行ってもらえるかしら?」

と佳乃さんは心配顔です。

「まあ、○○さんのことですもの、大丈夫ですよ」

と、まったく心配していないのは、我らが由美ちゃんです。

「うん。まあ、大丈夫だと思うよ。まあ、成り行きを静かに見守っていてください」

と、僕が言うと、満足顔の由美ちゃんです。

「ね。言ったとおりでしょう」

と、自分のことのように、自慢する由美ちゃんです。

「うん。わかったわ。大船に乗ったつもりでいましょう」

と、佳乃さんも安心顔です。

そこへ、水島社長が、顔を出します。

「そろそろ、例の記者が来る頃だ。準備は大丈夫かね?」

と、水島社長は、少しうろたえています。

「ああ。いつでも、大丈夫です。もう、準備は万端ですから」

と、僕が言うと、水島社長は、

「うん。大丈夫そうだな。彼が来たら、こちらへ通すから」

と、言い、鷹揚な態度で、部屋を出ていきます。

「なんだか、緊張しちゃう」

と言っているのは、由美ちゃんです。

「○○くんは、全然へーきそうね。こういうの」

と佳乃さんが不思議そうに質問します。

「うーん、ま、だいたい事態は見えていますからね。それより、どんなことになるかの方が、楽しみですよ」

と、僕はにこやかな笑顔を見せて、言います。

「頼もしいわね。やはり、男性は、そうでなくては、いけないわ」

と、佳乃さんは、僕のももの上に手を置きながら、話しています。

「がんばってね」

と、佳乃さんは、若干頬を染めながら僕に言います。

「はい。大丈夫ですよ」

と、僕はにこやかに笑うと、静かに時を待ちます。


「記者の方が、おみえになりました」

とお手伝いさんが、伝えてくれたので、僕らは居住まいを正して、彼を待ちます。

「どうも!少し遅れました!」

と元気よく入ってくるのは御幸記者です。

彼はひとり女性が増えていることに少しびっくりしますが、表情にはださずに、ソファーに座ります。

「さて、今日は水島社長に会わせてくれるんですよね!」

と、元気に言う御幸記者です。

「あなたは、水島社長があの場に現れた理由が知りたかったんですよね」

と、僕が言うと、彼はすぐに反応し、

「ええ。まあ、それがわかれば、別に水島社長に会う必要はありませんけどね」

と言います。

「昨日、僕が水島社長から、そのことについて、直接、お聞きしました」

と、僕が言うと、御幸記者は、前のめりになって、

「で、どういう理由でした?」

と聞いてきます。

「それを話す前に、ひとつ約束してほしいことがあるんです」

と僕が切り出すと彼は少し構えます。

「な、何ですか?今度はあなたが、取引を要求ですか?」

と、彼は言うと、少し不審そうな顔をします。

「そんな構えないでください。いや、ちょっとこの御方が、新聞記者という人間に興味を持っていまして・・・」

と、僕が佳乃さんをだしに使うと、御幸記者は、目をむきます。

「え、僕に興味がある、と?」

と勝手に都合のいい解釈をする御幸記者です。

「彼女は、地域密着型ラジオのアナウンサーで、それで、取材活動に興味があるようで・・・それで」

と、僕が言うと、佳乃さんもうまく合わせて、

「佳乃と申します。新聞記者さんの取材方法って、どのようなものか、非常に興味がありまして、私も同行させて頂きたいのですが・・お頼みできないでしょうか?」

と、にこやかな笑顔を振りまきながら、御幸記者に頼みます。

「ああ、アナウンサーさんでいらっしゃる・・・どうりで、綺麗な方だと思いました。ああ、いいですよ。同行取材くらい、慣れていますから」

と、美人には鷹揚なところを見せる御幸記者です。

「あの、このお二人にも同行して頂きたいんですけど、よろしいですわよね」

と佳乃さんは、さらりと頼むと、御幸記者は、

「ああ。お二人も付いてくるんですか・・・まあ、いいでしょう」

と、二人きりで、行くことを期待していた御幸記者は、少し残念そうに、話します。

「よかった!楽しい時間が過ごせそうですわ!」

と、佳乃さんがほほえむと、御幸記者もつられて、

「いや、美人な方に、そうやって、喜んでもらうと、僕もうれしいです」

と、なにか勘違いしている御幸記者です。

「あいつ、何か、カン違いしているようだぜ」

と、僕が小声で由美ちゃんに言うと、

「でも、うまくいったわね」

と、笑う由美ちゃんです。

「さて、それじゃ、水島社長が、彼とどういう関係だったか、話してくれませんか」

と、改めて居住まいを正した御幸記者が、僕に聞いてきます。

僕は鷹揚に構えると、一気に説明します。

「その便利屋の人間とは、飲み屋で出会ったそうです。そして、意気投合して、彼がお金に困っているようだったので、援助してあげた、と」

その言葉を聞くと、彼は少し考え込みます。

そして、顔を上げると、言葉を出します。

「そうですか。まあ、つじつまは合いますが、糸が切れちゃった感じですね」

と、ちょっと残念そうな表情をします。

「でも、その話、本当かどうか、確認する必要があるんじゃないですか?」

と、由美ちゃんが聞くと御幸記者は、当然とばかりに話します。

「ええ、もちろん、例の便利屋に会って、裏を取る必要があります」

と御幸記者が言うと、佳乃さんがにこにこして、

「じゃ、私たちも一緒に、ね」

と言います。御幸記者は、先程の約束があるので、不承不承、

「わかりました。くれぐれも、邪魔だけはしないでくださいね」

と、彼なりの防御線を張っています。

「よし、話は決まった。じゃ、今から、その便利屋とやらに、会おうじゃないか」

と、僕が言うと、御幸記者は、

「なんだか、うまく乗せられたような気がするなあ・・・」

と、つぶやきながら、僕らと一緒に水島邸を辞去するのでした。


「チンクエチェントって、かわいい車なのね」

と、御幸記者の車に同乗しながら、由美ちゃんが言います。

「まあ、これでも、イタ車ですからね。小回りもきいて、いい車なんですよ」

と、自分の車に愛情たっぷりの御幸記者です。

由美ちゃんと僕は後部座席に座り、御幸記者が運転し、その横に佳乃さんが座っています。

「御幸さんって、玉木宏さんに似ていますね」

と佳乃さんが、言うと、少し照れる御幸記者です。

「いやあ、たまに言われるんですが、あんなにカッコよくありませんよ」

と、そう言うわりには、まんざらでもなさそうな、御幸記者です。

「ああ。そうだ、これ名刺です。何かあったら、いつでもご連絡ください」

と、どうやら佳乃さんに興味がありそうな御幸記者です。

「御幸真一さん。なかなか、いいお名前ね」

と、佳乃さんは、どうやら、持ち上げ大作戦で、取材を楽しもうとしているようです。

「そうですか?いやあ、そんなこと言われたの、初めてだなあ!」

と、御幸記者も、おだてられて天にも登るような気持ちのようです。

「佳乃さんって、おだてるのが上手なのよ。もう、男性のこころなんて、軽くころがしてしまうんだから」

と、由美ちゃんが僕に小さな声で、佳乃さんのすごいところを話しています。

「何、あれは、いつものことなの?」

と、僕がびっくりしたように由美ちゃんに聞くと、

「まあ、ね。だって、アイドルですもの。男性のこころの中なんて、すべてお見通しなんだから!」

と、彼女のすごさを知っている由美ちゃんです。

「いやいや、女性は、こわいね」

と、僕も白旗をあげながら、佳乃さんと御幸記者の二人を見守っています。

「なんだか、今日はものすごく、楽しいなあ!」

と、うれしそうにチンクエチェントを運転する御幸記者でした。


(つづく)


最新の画像もっと見る