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気ままな読書記録と日々思うこと、備忘録

『「痴呆老人」は何を見ているか』大井玄

2009年12月07日 | 
「痴呆」とは何か?病なのか、老いの表現か?
社会医学と終末期医療の第一人者である著者は、
「認知症」ではなく、あえて「痴呆」という言葉を使い
死に近づいた痴呆老人への診療を通して、
根本的な疑問を解いていきます。

「痴呆」すなわち認知機能の低下は、
外界との ‘つながり’が失われていくことと分析しています。
痴呆老人の異常行動は、
この‘つながり’の喪失を自覚させられることにより
不安が表出したものであるということです。

興味深いのが
認知能力の違いが必ずしも異常行動と比例しない、ということ。
つまり、どんなに認知力が落ちていても
日々の生活をゆったり穏やかに過ごしているお年寄りも多いということです。

逆に、日々不安や恐怖や嫌な気持ちにさいなまれていると
少しの認知力の低下でも
うつ状態や(被害)妄想、攻撃的人格変化などいわゆる
異常行動をとるようになるという。

そしてこれらの情動的な行動は、
お年寄りに限らず、老若男女全ての人にあてはまるのではないか、
という問いかけ。

本当にその通りだと思いました。
人と人との‘つながり’の大切さ。
それを失ってしまった時、人の気持ちに宿る負の感情。
人はいかに気持ちに左右される生き物か
痛感し、また老いを見つめる眼差しや
老いの受け入れの心の準備の必要性を考えさせられた
とてもいい本だと思いました。。