「ア~ッ」つれいあの素っ頓狂な声。
「どうした?」
「誕生日オメデトウ!」と言うのを忘れてた。
娘の誕生日に何度も繰りかえされる会話。
その日、熊本は小雪がちらつく寒い日だった。長女の初孫の出産は妻の両親も固唾を飲んでその時を待った…
私と母は小さな炬燵でそのときを待っていた。
午後11時20分生まれと「へその緒」を入れた桐の小箱に書いてある。
身長50㎝、体重3300gとある。
病院に駆け付けた。赤ん坊は泣いていた。真っ赤になって大声で泣いた。
武者震いに似た緊張が私の全身を貫いた。
あれから56年むかしのこと。