読書感想151 静かな大地
著者 池澤夏樹
生年月日 1945年7月7日
出身地 北海道帯広市
出版年 2003年
出版社 朝日新聞社
★感想★★
「徳島の侍が襲ってきた時の騒動の思い出を、父は幼い由良に何度も話した。」という書き出しから始まる。そして成人した由良は今は亡き父から聞いた話の中の欠落している部分を調べ、一冊の本にまとめようと決意する。それは父と父の兄、三郎の物語であった。
徳島の蜂須賀家とその家老職にあった淡路島の稲田家は仲が悪く、明治維新においてその方針の違いから亀裂は決定的になった。蜂須賀家中が稲田家中を襲撃する稲田騒動という事件が起きた。その稲田騒動をきっかけに、稲田家中は淡路島を離れ北海道日高の静内に入植することになった。その中に宗形家の6歳の志郎と8歳の三郎の兄弟もいた。二人は美しく雄大な北海道の自然に魅了され、厳しい開拓の日々を過ごすうち、アイヌの少年との運命的な出会いをすることになる。木刀を持った侍の子供達がアイヌの子供達と喧嘩して負けるという屈辱を味わう。それから親しくなった少年達は互いの言葉を覚え生涯にわたって篤い友情を育んでいく。
明治期のアイヌは、本土から押し寄せる和人によって狩猟民族としての生存条件を狭められ、遡上してくる鮭も横取りされ、エゾシカも乱獲され、食べ物すら手に入らない境遇にまで追い込まれた。生存のためにアイヌは和人達の牧場や農場で下働きをするようになっていったのだろうか。本書の中ではアイヌの動物の扱い方はうまく牛や馬の飼育能力は高かったと言っている。野菜やじゃがいもなどの栽培技術はアイヌにはなかったと思われる。それは和人から教えられたものだっただろう。本書の中ではアイヌとの共存の場を近代的な牧場や農場の中に求めている。歴史上の夢、ファンタジーとして開拓者とアイヌの共存が語られているようである。
「悪い和人のなかにもいい和人もいましたが、最後は悪い和人が勝ち、アイヌはアイヌの言葉と名前を捨て和人になりました」とつぶやく声が聞こえそうな結末だった。