読書感想321 夏に凍える舟
著者 : ヨハン・テオリン
生年 : 1963年
出身国 : スウェーデン
出版年 : 2013年
邦訳出版年 : 2016年
邦訳出版社 : (株)早川書房
訳者 : 三角和代
☆☆感想☆☆☆
エーランド島四部作の掉尾を飾る作品。今までの作品の中で登場してきた人々が事件に巻き込まれていくが、その中でも元船長のイェルロフ・ダーヴィッドソンがいくつかの章で語り部として物語を進行させている。同じく元船長で親友のヨン・ハーグマンや親戚の警察官ティルダ・ダーヴッドソンも登場する。二十世紀の最期の夏でイェルロフは八十四歳になっている。春から夏は海辺の自宅に帰り、秋から冬は島内の高齢者施設で生活している。六月の夏至祭に、いつもは閑散とした別荘地やリゾート地には観光客が溢れている。イェルロフの自宅にも本土から娘の家族がやってきてにぎやかになっている。イェルロフはその喧噪を避けて。海辺のボート小屋で寝ることにした。すると夜中にびしょ濡れの十二歳のヨーナスが助けを求めて現れる。ヨーナスは幽霊船の中で船員が殺されているのを見たと言う。ゴムボートで沖に出たヨーナスは大きい船に衝突して船の甲板によじ登ってその惨状と殺人者を見たのだ。ヨーナスはエーランド島リゾートを経営するクロス家の一族で夏休みにエーランド島に来たのだ。クロス家は広大な土地を所有し、今はそれを休暇村に変えた金持ち一族だ。70年前、イェルロフは十四歳のときに当時のクロス家の長男エドヴァルト・クロスの墓掘りに駆り出された。その時次男イルベルトも亡くなり、三男シーグフリッドがクロス家の土地をすべて相続した。一緒に墓掘りに駆り出された、もっと幼い少年アーロン・フレドは義理の父親と一緒に新しい国へ移民していった。そのころ、スウェーデンからアメリカに移民する人は多かった。
語り部はヨーナス、エーランド島リゾートのホテルで歌手として働くリサ、帰ってきた男と新しい国での体験を語るアーロンと多彩だ。
殺人は幽霊船以外でも続く。七十年前の因縁が連続殺人の背後にある。
ずしりと重い真実が暴かれていく。しかしイェルロフとヨーナスの七〇歳以上の年の差を越えた友情が重い物語の光明になっている。過去の因縁が殺人事件につながっているというのはエーランド島四部作すべてに貫かれている。バルト海の短い夏が六月七月で終わり、八月には寒くなり観光客も去るというのは、やはり北極圏に近いということがわかるし、日本とはずいぶん夏の感覚も違うと思う。