題名 : 風の果て
作者 : 藤沢周平
生没年 : 1927年~1997年
出身地 : 山形県鶴岡市
出版年月 : 1985年1月
出版社 : 朝日新聞社
文藝春秋
定価(文春文庫) : 514円上・448円下(税別)
あらすじ$
首席家老となった桑山又左衛門のもとに、旧友の野瀬市之丞から果たし状が届く。理由のわからない桑山又左衛門は野瀬市之丞を探して事情を聴こうとする。しかし、野瀬市之丞は姿を隠し理由を質すことができない。桑山又左衛門は市之丞のことを昔に遡りながら考え始める。
野瀬市之丞は、まだ上村隼太と名乗っていた桑山又左衛門とは若き日に片貝道場で剣を競った仲間だった。その頃片貝道場に通っていた同期の5人は仲がよかった。下士の家の次男三男といった冷や飯食いの4人、上村隼太、野瀬市之丞、三矢庄六、寺田一蔵と、上士の家柄で数年前に失脚した首席家老の嫡子である杉山鹿之助の5人だった。しかし家中では上士と下士は同席せずという不文律があるほど身分の差は厳しい。いつまでも若者の付き合いが続くわけもなかった。
杉山鹿之助は家督を継ぎ、下士の4人との付き合いも自然消滅した。野瀬市之丞を除いて3人ともそれぞれ他家に養子に入り禄を食むようになったが、野瀬市之丞だけが無禄で実家の厄介叔父のままだった。寺田一蔵が妻の不倫相手を殺して脱藩した時に、藩命でその寺田一蔵を追って切腹させた野瀬市之丞には陰扶持を貰っているという噂が流れた。
一方、上村隼太は新田開墾の実績を持つ農政の第一人者である桑山孫助に見込まれて養子になり、藩内の農村の窮状をつぶさに見ていく。杉山忠兵衛(鹿之助)が政敵の家老小黒武兵衛に替わり、筆頭家老に任命された政変の夜、桑山又左衛門は護衛を頼まれる。その夜、小黒家の刺客と桑山又左衛門は戦うが、背後から来た野瀬市之丞に助けられる。その襲撃事件をきっかけに小黒家はお家断絶に追い込まれる。
杉山忠兵衛が藩の実権を握り、桑山又左衛門も郡奉行の要職に就くが、杉山忠兵衛の門閥意識の強さを意識せざるをえない。おのずと距離ができる。
領内の最後に残された未開の原野、太蔵が原の開墾は先代の家老、小黒武兵衛も失敗し舅の桑山孫助も反対していたが、桑山又左衛門の若き日からの夢だった。その夢を藩主が密かに応援し、藩内の豪商、羽太屋の資金で開墾を進めることになる。その功績で桑山又左衛門は執政の一員、中老になるが、それを快く思わない杉山忠兵衛との権力争いを生むことになる。
藩財政の立て直しを従来とおりの農民からの苛斂誅求で賄おうとする杉山忠兵衛を辞職に追い込み、桑山又左衛門は首席家老の職に就く。
その時旧友の野瀬市之丞からの果たし状が届く。野瀬の陰扶持を与えていたのは藩主ではなく、杉山忠兵衛だったのか。野瀬の背後には復権を画策する杉山忠兵衛がいるのか。片貝道場時代の友情は無に帰したのか。
$感想
舞台になっている藩は名前はないが作者の故郷の山形県鶴岡市にあった庄内藩とかぶってくる。藩内一の豪商羽太屋は、酒田の本間家を髣髴させる。
原野の開墾を請け負うことで、領内一の地主にのし上がり、藩主をしのぐほどの力を持つようになるのではないかと警戒された羽太屋が開墾に乗り出さなければできない事業である。新しい事業は資金の問題だけでなく、既存の身分制度でがちがちに固まっている官僚組織ではむずかしかったであろう。
藩というものが今日の常識では破産状態である。どうやっても根本的な解決はない。江戸時代の武士もその下の農民も心の休まる時がない。よく260年も続いたものだ。これはこの小説だけの話ではない。
しかし、太蔵が原の描写も月山山麓の高原の風景と二重写しになる。美しい情景である。
わがまま評価を5点満点でつけてみよう。
面白さ度 :
☆☆☆☆☆
爽やかさ度 : ☆☆☆
読みやすさ度 : ☆☆☆☆
人物造型度 : ☆☆☆
知識教育度 : ☆☆☆
荒唐無稽度 : ☆