『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想309  村上海賊の娘

2022-05-04 21:40:37 | 小説(日本)

痛快爽快!瀬戸内海に実在した海賊をテーマにした【村上海賊の娘 ...

著者  :  和田竜

生年  :  1969年

出身地 :  大阪生まれ  広島育ち

出版年 :  2013年

出版社 : (株)新潮社

☆☆感想☆☆☆

 16世紀後半の一向宗大坂本願寺と織田信長の戦いに参加した、水軍同士の戦いを描いている。瀬戸内海を勢力下に抑える村上水軍と、堺など大阪南部、泉州を根拠地にした真鍋水軍が主力となって敵味方に分かれて戦う。本書では水軍とは呼ばず海賊と呼んでいる。村上海賊、真鍋海賊。村上海賊は能島の村上武吉の娘、景を中心に回り、真鍋海賊は真鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)が相対する構図になっている。男勝りの景は大坂本願寺に助勢に向かう安芸(広島県)の一向宗門徒20名を助けたことから、彼らを大坂本願寺まで送って行くことになる。海賊が同乗している船の通行は保証されるという海賊の定法を無視して、織田家の武将が一向宗門徒を捕縛しようとしたことから、景は織田家の武将を切ってしまう。その申し開きのために、大坂本願寺を囲む織田方の天王寺砦に行った景は、織田信長から咎めなしの保証を受ける。大坂本願寺と海を結ぶ木津砦に入った一向宗門徒は織田方の天王寺砦からの攻撃を受ける。陥落寸前に大坂本願寺から万を超す兵が繰り出され、鉄砲傭兵集団雑賀党とその首領鈴木孫市によって形勢は逆転する。その形勢を再度逆転させたのは織田信長の登場である。景は偶然鈴木孫市を助け、能島に帰る。村上海賊は能島、因島、来島に分かれているが、毛利家に従って大坂本願寺に10万石の兵糧を届けることになる。しかし毛利家の智将小早川隆景は、上杉謙信が立てば大坂本願寺に兵糧を届けるが、立たなければ撤収せよと命令を下す。景は飢えに苦しむ一向宗の門徒を見殺しにできないと決断する。

登場人物を漫画的に描いている。特に景は醜女で直情径行、七五三兵衛も全く同じような性格だ。しかし、景は人のために命を賭ける一向宗門徒に感銘を受けるが、後者や他の武士は家の存続のため、自分たちのために戦っている。

冷徹な計算を破る直情径行な一途さをグロテスクな闘いで描いている。映像では見たくない。本だから読めるけれど。

真鍋海賊は大阪弁で敬語を使わないし、会話が明るく面白い。

「まあ、しゃあないの。門徒ちゅうたかてしょうもない廻船やし、能島村上の上乗りつきじゃ。太田の阿呆が上乗りの定法破ったちゅうんやったら通すほかないやろ」

しかし、人の命を何だと思っているのかと思うほど、芋でも切るように敵も味方も切りまくる。


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読書感想305  砂の街路図

2021-12-18 22:28:15 | 小説(日本)

砂の街路図 に対する画像結果.サイズ: 120 x 170。ソース: www.hmv.co.jp

著者   : 佐々木譲

生年   : 1950年

出身地  : 北海道 札幌市

出版年  : 2015年

出版社  : (株)小学館

☆☆感想☆☆

石狩川とそれから続く運河で四方を囲まれた運河町の街路図が小説の始めに添えられている。主人公の岩崎俊也はその街路図をたよりに町を歩き回る。かつては水運で栄えた郡府の運河町。今は主要な産業もなく廃れている札幌のベットタウン。岩崎俊也は20年前この町で亡くなった父の面影と死の真相をたどるためにやってきた。さらに20年前、今から40年前にここの国立の法科大学を父と今は亡き母も卒業した。二人が青春を過ごした町でもある。父が亡くなったときに所持していたものを手掛かりに運河ホテル、硝子町酒房、そして法科大学へ足を運ぶ。出会う人たちの口は堅い。

古い旧市街の風景で古き良き時代に引き戻されるが、ミステリーは苦く、暗い良心の呵責がオカルト的に具現化し不気味な雰囲気も醸し出している。


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読書感想303  恋歌

2021-09-27 11:48:07 | 小説(日本)

恋歌

著者     : 朝井まかて

生年     : 1959年

出版年    : 2013年

出版社    : (株)講談社

本書の受賞歴 : 第150回直木賞    第3回本屋が選ぶ時代小説大賞

☆☆☆感想☆☆

樋口一葉の師匠にあたる萩の舎を主催していた中島歌子の生涯を、中島歌子が綴った自伝を弟子の三宅花圃と養女の中川澄が読んでいくという展開になっている。裕福な江戸の商家に生まれた中島歌子が水戸藩士に恋をして嫁いだのは、桜田門外の変の直後。夫は天狗党に属し、水戸藩は天狗党と諸生党の内紛が激烈な中、中島歌子の運命も翻弄されていく。前半は甘い恋物語で、後半は凄惨な内紛と復讐が描かれている。徳川慶喜を頼って京都に向かった天狗党を慶喜は見殺しにしたと言われているが、鳥羽伏見の敗戦後、江戸城に戻った慶喜は兄の水戸藩主を江戸城に留め置き、自ら水戸藩の諸生党の重臣を罷免した。それにより天狗党の生き残りは凱旋し諸生党への復讐を開始した。この一連の内紛によって2千人も水戸藩は死者を出している。水戸藩の内ゲバ状態は筆舌に尽くし難いほど過酷だ。イデオロギー論争はイスラム原理主義もそうだけれど、是と非しかない二元論に武器での決着が当然とされる時代の雰囲気の中では敵と認定したものには容赦しない。甘い恋物語かと思ったら重く苦しい時代小説だった。

諸生党の首魁、市川三左衛門の辞世の歌:君ゆゑに捨つる命は惜しまねど 忠が不忠になるぞ悲しき

天狗党の首魁、藤田小四郎の辞世の歌:かねてよりおもひそめにし真心を けふ大君につげてうれしき

中島歌子の和歌:君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ


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読書感想301  ベルリン飛行指令

2021-08-20 21:46:39 | 小説(日本)

ベルリン飛行指令 (新潮文庫)

著者  :  佐々木譲

生年  :  1950年

出身地 :  北海道

出版年 :  1988年

出版社 :  (株)新潮社

☆☆感想☆☆☆

著者の「第二次世界大戦3部作」の第一弾に当たる。第二弾が「エトロフ発緊急電」、第三弾が「ストックホルムの密使」だ。第二次世界大戦の確認できない秘話である。1940年の12月に零戦が日本からドイツのベルリンに飛んだという話である。ヨーロッパに駐在していた日本人が零戦をベルリンで見たという目撃証言を受けて独自に調査したものを著者が受け継いで小説という形にまとめたものである。三国同盟を結んだドイツから零戦の実物を検分して良ければライセンス生産したいので2機ベルリンまで送ってほしいという申し出があった。その飛行ルートはソ連の領空ではなく、南回りを指定されて、インドシナ、インド、イラク、トルコ、イタリアを通るルートに決まる。イギリスの支配下にあるインドやイラクを通らなければならない。給油と整備の飛行場が必要である。この難しい任務を託されたのは超一流の飛行機乗りの安藤大尉と部下の乾一空曹。現地で飛行場とガソリンの確保を依頼するのはイギリスからの独立を目指す有力者。イギリス側の情報員も暗躍している。空からインドの川の流れを見て秘密の飛行場を探し出すのは至難の業。無事にベルリンまでたどり着けるのか。

実に面白かった。


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読書感想300  制服捜査

2021-07-21 21:34:26 | 小説(日本)

著者     :     佐々木譲

生年     :     1950年

出身地    :     北海道

出版年    :     2006年

出版社    :     (株)新潮社

☆☆感想☆☆

 川久保巡査部長は、北海道警察本部の一つの地方10年いたら別の地方へ異動させるという新方針で、札幌から十勝地方の農村、志茂別町駐在所への異動を命じられた。25年の警察官人生の中で刑事課の捜査員として勤務していた川久保にとって駐在所勤務は初めてだった。高校生の娘2人と妻を札幌に残して単身赴任で志茂別町にやってきた川久保が遭遇した5つの事件の顛末である。隠ぺいされてきた闇が白日の下に曝されていく。

1つ目は「逸脱」。地元の防犯協会会長ら3名の有力者が赴任して4日目の川久保に挨拶に来ているところに、町営墓地で若い人が騒いでいるという一報が入る。有力者の助言に従って2報が入るまで待つことにしたが2報は入らなかった。翌日高校3年生の男の子が昨夜から行方不明との1報が入る。

2つ目は「遺恨」。犬が散弾銃で撃たれたと通報してきた酪農家。本土からエゾシカ撃ちに来たハンターか、近所の変質者か。

3つ目は「割れガラス」。バスの待合室で男の子がカツアゲされているという通報を受けて出向くと、一人の男が恐喝していた若い男を追い払って子供を助けたという。

4つ目は「感知器」。不審火が続いている。

5つ目は「仮想祭」。前任者から引継ぎをうけた事案の中で一番気になっていたのは13年前の少女誘拐事件だ。13年前と同じ仮想祭が今年復活する。失踪した少女の母親も事件当時の駐在勤務の退職した警官も集まってきた。

 川久保巡査部長の活躍するシリーズは「暴雪圏」がある。


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