ヤマトタケルの夢 

―三代目市川猿之助丈の創る世界との邂逅―
★歌舞伎・スーパー歌舞伎・その他の舞台★

松竹座のヤマトタケル1

2005-05-10 00:29:38 | ヤマトタケル
すでに98年(9~10月)松竹座上演からも7年ぶり・・・
95年(3~4月)演舞場での上演も、88年の再演から7年ぶりでした。
そうした数字の符号は、本当は何の意味も持たないただの偶然なのでしょうが
何かひとつの照合のように、つい感じてしまいます。

新緑の季節には相応しい、明るい日差しの中で迎えた初日の観劇でした。
多少、役者さん方も、演舞場楽以降リフレッシュ出来たのか、
(実際は、30日から劇場入りだったようで、
初日前も、両タケルでの舞台稽古で2回公演されたも同然ですが)
4日の舞台は、皆溌剌としたキレの良い舞台でした。
演舞場よりふた回りくらい劇場も小ぢんまりしているせいか
客席との親密感が更に増し、見入ってしまいますね。

熊襲の宴会も、ホント、楽しそう。
私たちも、幕間に外の店のたこ焼きを食べたり、
カニ弁当を購入するコもいたりと、自主的に気分を盛り上げました(^o^)/
立ち廻りでは、さすがの段ちゃんも、ドッヂボールタイプ(笑)ではなく、
きちんと放物線を描くように樽を投げたり蹴ったりしていました。
(演舞場では、右近さんはわりといつも放物線を描くようにしていたのですが
―たぶん、客席に落ちるのを防ぐ為―
段ちゃんは結構、勢いのあるストレートな投げ方だったんですよね~)
しかし、熊襲の新宮が屋台骨だけになり、沢山の紙垂のみが残るのを目撃し、
う~ん、大和のシステム(?)に馴染めないからと、戦いを挑むのではなく
自分たちの国を作り、自分たちの流儀で生きていこうとした彼らを
新宮の建立を、こうして楽しく祝っていたところを
突然乗り込まれ命を奪われるなんて・・・と、なんだか可哀相になってしまいました。

彼らは邪気なく生き楽しみ(この芝居上はそう見える)
タケルもまた、ただひとつ父の命に従い彼らを倒すという、
やはり邪気のない一途さで熊襲に出向いた。
それぞれの率直さが出会いぶつかる、激しくも、なんだか切ない場面でもあります。
この「正義」はどちらにあるのか不明といったあたりが、
その後のタケルの悲劇へ繋がっていくのかもしれません。

第一幕で、個人的に印象に残るのは喜久於さんの偽の弟橘姫と琉球の踊子。
シナの作りっぷりが際立っていて色っぽいです。
すっきりした美しさの笑也さん→笑野さん、
妖艶さのある春猿さん→喜久於さん、というラインは納得!
その他の熊襲の女たちの熊の毛皮や宝石への反応も、
それぞれ演技プランがある?ようで、眺めていて楽しいですが。

二幕では、倭姫の台詞が増えて(復活して?)いました。
弟姫とタケルを結び合わせようとする場面で、私は一人寂しく寝ることにしよう
昔抱かれた素敵な男の夢でも見ながらね・・・というようなものなのですが
初演頃のバージョンでは、こうした直截的な台詞も多かったんですよね。
テンポアップを計るとか、説明的な台詞(←スーパー歌舞伎では新作の度に
結構、指摘されますよね。梅原さんや横内さん(+猿之助さん!)の思想や
想いなどが過剰に投影されるからでしょうか)を極力減らすということで
かなり、台詞や場面の刈り込みが行われてきましたが、
ここまで削ぎ落とされてしまうと、逆に、
もっと色々詰め込まれていた「ヤマトタケル」を、観たいです。

走水の場は、間口が狭いせいか、弟姫があっという間に沈んでしまいました。
弟姫の見せ場だし、のちに続くタケルの別離への想い入れのためにも、
これはちょっと残念。。。

三幕は尾張の国造夫妻から開けますが、
延夫さんの声がクリアになっていて良かったです。
夫と共謀する?姿が明るく弾んでいて、溌剌としたみやずの気質は
この母から受け継がれたんだろうな~と思うような。
二人とも、なにかに、えっ?!と反応する時、黒目が丸くなる感じも母娘!
きっとお母さんも、娘時代はお転婆だったと思いますよ(笑)

ところで、松竹座では暗転のとき真の暗闇にはならず、
暗転幕が下りない転換では、役者さんや道具が刷ける姿が、
丸分かりなのです~。←リピーターにとっては嬉しい(?)オマケですが。
(演舞場でも、場面によっては、ぼんやり分かる時がありましたが)
この三幕冒頭、特大!御簾の裏で待機するタケル一行はかなり見えるので
段治郎タケルは動かないように~(笑)
芝居が進行している間はかえって、松竹座の黒(袖のあたりとか舞台面の)は
とても深い綺麗な黒なので、照明も凄く映えるのですが、

白猪も短い休暇の間エネルギー充電したのか、はたまた演舞場楽での大喝采が
パワーアップの素となったのか、ノリの良さ全開で、はっきり云って
大きく動きすぎるせいか、開けた口から中の京劇員の方の顔が、頻繁に
見えてしまうのですが~(爆)もうちょっと閉じててもよろしいかと(~_~;A
でも、やる気満々!な気が飛んでくるのは、嬉しいことですけどね!!

前述の通り、舞台面の黒が綺麗に出るので
雹が舞うのが非常に綺麗でした。演舞場より雹の滞空時間が長い?ように見え
(って重力は東京と大阪も変わらないでしょうけど)
いつまでもキラキラと雹というよりは雪のように舞っています。
雹に打たれたあと、タケルは更に大和へと歩みを進めますが、この場面で
盆廻しが使えず、花道七三(といっても松竹座は九:一くらい)での芝居
があり、そして、本舞台へと進んでいきます。
この場の月もとても大きく明るく見えるんですよねー。
松竹座の舞台面は額縁の中に絵画をはめ込んだ様な、
独特の色彩の美しさが堪能できます。

(今、ちょっとレミゼにもハマっていて、レミゼの舞台面はロマン主義の
絵画のようだな~なんて感じたりしているのですが、
歌舞伎は日本のバロック!とも思ったりするので、
この、ちょうど枠にはめ込まれたような舞台を前にして、
猿之助さんが創った、ひとつひとつの場面が、バロック画の持つ躍動感や
壮大さを内包しつつ、目の前に展示されているような気分にもなりました。

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