山クジラの田舎暮らし

岩手県北の田舎に生息する「山クジラ」です。定年後の田舎暮らしや趣味の山行きのことなど、発信していきます。

『天河伝説殺人事件』下=内田康夫著

2013-02-17 07:17:32 | 読書

 内田康夫の『天河伝説殺人事件』の下巻を読んだ。能の水上流(すいじょうりゅう)の後継者と目されていた和鷹が「道成寺」の演目の早変わりの時に急死、その死因は「病死」とされた。それに続いて宗家・和憲が吉野で服毒死を遂げる。上巻では、大阪へ行くといっていたサラリーマン・川島が東京で何者かに殺害されている。川島が持っていた鈴が天河神社のお守り「五十鈴」であることが判明し、それが宗家・和憲のものであることが明らかになる。川上と水上ヶ家のかかわりや、和鷹の母親だった女性の登場、そして天河神社での大団円と謎解きが進んでいく。内田小説の面白いところは、「犯人逮捕」にはならず犯人が自ら消えていく形になるところだと思う。

 作者は「自作解説」の中で、「大峰山系の急峻な山肌を吹き降ろす『天の気』、あるいは天川谷から吹き上げる『地の気』が谷間で淀み、『神気』とでも呼ぶものに凝縮する。ある日この谷にまぎれこみ、天と地の『気』を感得した異能者がこの地を神域と定めた―。ここに佇み天川谷の歴史に遠く思いを馳せると、そんな光景が脳裏に思い描けそうな気がするばかりか、自身、疑似体験のような感覚にとらわれる」と書いている。天川が、南北朝の時代後南朝の朝廷が亡命政権を置いた場所でもあるとこの本の中でも書かれている。さすが往古、朝廷が置かれ激しい政治的なたたかいが繰り広げられてきた近畿圏の山間の村である。ますます、5月の山行きで天川村の民宿に泊まり天河神社に参拝することが楽しみになってきた。内田作品との関係では『飛鳥の皇女』の舞台となった、明日香村の石舞台古墳なども今回の旅の日程に入っているので楽しみである。