うたのすけの日常

日々の単なる日記等

娘の結婚

2015-04-03 13:17:07 | 娘の結婚のあれこれ

うたのすけの日常 娘の結婚 その一

2007-06-01 06:17:07 | 娘の結婚のあれこれ

         一人娘を嫁に出すということ

 娘が高校に進学したころからか、漠然とながら娘に養子をとり、商売を継がせるといったことを頭のどこかに描いていた。このことは商売を営むものにとって、生活の基盤を左右するものであるから当たり前のことと思う。
 

 娘が高校二年になった時点で、娘から大学に進学したいという話があった。高校を卒業して直ぐに社会生活に溶け込んでいく自信がないというのである。大学に入りもっと勉強を続けながら将来の方針を立てたいという。ついては希望する大学に行くのに偏差値に問題があり、苦手の数学を克服したいので、家庭教師を頼んでくれというのである。家庭教師ときいてあたしは瞬間、金持ちのお嬢様でもあるまいし何様のつもりでいるんだと、喉から出かかったが娘の余りに真剣な眼差しに、うむと言って腕を組まざるを得なかった。
 考えたら自分も理数系はとんとダメだったのである。ダメなんて生やさしいものではなかった。家内がそばであたしの出方を伺っている。「おかあさんどう思う」あたしは矛先をかみさんに向けてみた。ずるいのである。「勉強したいって言うんだからそれに越したことないじゃない、これからは商売するったって大学ぐらい出てなきゃ」話はそれで決まりである。
 「大学へ行ってもなんだな、勉強もいいが先ずは友達をうんと作ることだな、そしてうんと学び、うんと遊んで青春を楽しめ」なんて世間の父親と同じに、途端に物分りのいいとこ見せたりする始末であった。
 

 物分りが良すぎたのかどうか、入学して間もなくサッカーの同好会に入りマネージャーを務め、一年先輩の男と付き合うようになった。あたしはボーイフレンドぐらいに軽く考えていた筈である。家へも何回か連れて遊びに連れてきたりしていた。そんなある日、娘とこんな会話を交わしている。
 
 「○○さん、お父さんのこと言ってたわよ」
 「なんて?」
 「自分のお父さんと、お父さんを足して二で割ると丁度いい人になるって」
 「それってなにかい、お父さんが道楽もんで、自分の親父が堅物ってことかい。生言うんじょないよ、二つに割ったって丁度いい人間なんて出来やしないよ、お父さんの灰汁(あく)のが強くて」
 傍でかみさん笑って言ったものである。「世話ないね○子、お父さん自分で道楽もんだってこと認めているよ」

 そして月日のたつのは早いもので四年たったその日に、娘がかしこまってあたしたちに告げるのである、○○と結婚したいと。そして追い討ちをかけるように具体的に話を進めるのだ。彼は男兄弟二人で長男である、向こうの両親は是非あたしに嫁に来て欲しい、彼を養子に出すわけにはいかないと言っているというのである。

 ふん、あたしは白けてしまった。すっかりお膳立ては出来ていて、早い話が出来レースだ。二人で娘の卒業を待って結婚する算段でいたってわけである、相手の親も一緒になって。後はこっちの承諾を待つだけのシナリオが出来上がっているってわけだ。しかしあたしは目に泪を一杯にうかべ俯く娘に、間に入って随分と思い悩んでいたのかと思うと、これまた娘不憫さの気持が募ってくるのだ。あたしは物静かに娘に尋ねていた。お父さんが不承知ならどうすると。娘は消え入るような小さな声で、それでもはっきりと聞き取れる声で言った。「家を出ます」あたしはそんなこと尋ねる前に嫁に出す覚悟は固まっていたので、別段慌てふためくことはなかった。さかんにあたしに目交せしていたかみさんが一膝乗り出し、「そんなことさせないよ、お父さんは承知ですよ」と言う。全くいつも大事な話はこうして決まってしまう、わが家では。
 

 正直言って、そのときそんなに娘が嫁に行ってしまうことに関して、格別悲観はしていなかった。よく世間で言うではないか、男は結婚すると女房の実家のほうに引っ張られ勝ちになると。男のほうも結構女房の実家のほうが居心地が良かったりするのである。自然の成り行きを見ながらあたしは二人をこっちに引っ張るつもりでいた、相手のご両親にはすまないが。これはなにも養子縁組を望んでのことではない。由緒正しき家系でもなんでもないのだから。


ステーション物語 再録

2015-04-02 05:25:57 | 物語

うたのすけの日常 ステーション物語 終回

2007-07-17 05:40:19 | 物語

ステーション物語 七話

 

 下り最終電車が間もなく到着の時間です。駅の長い一日もようやく終わりの幕が降ろされるわけです。なんの事故も無く平穏裡のうちに。しかし好事魔多しとは世の習いといいます。一人の男が人混みの階段をふらつく足で降りて参ります。白髪の混じる頭が、がっくりと落とした肩の揺れが哀愁を漂わせております。しかしふらつく足元は危険は危険、駅員が一人今日最後のお勤め安全管理と、眦(まなじり)ぴしっと決めて駆けつけます。そして腕をかかえてホームに誘導しました。

「お客様、危険ですからあまりお歩きにならいようにお願い致します。ここで動かず最終電車をお待ち下さい」「おう、若いの、ご親切に。だが俺は酔ってなんかいないぞ、現にこうしてちゃんと立ってるぞ」客は足元をふらつかせながら言います。駅員は努めて穏やかに、にこやかに応対します。「酔ってるお客様は皆さんそうおっしゃいます。ご自分では酔ってないと言われても、その足付きはいけません。この場にちゃんと電車が来るまでおとなしくしていて下さい」客はふらつきながらも胸を張ります。「なあんだあ、ひとを子ども扱いすんな、おれは幼稚園の園児じゃないぞ」駅員もめげません。「いえ、そんなつもりでは、お客様の無事なお帰りをお家族の皆様は願っておりますよ」「おうっ、洒落た物言いするじゃないか、俺を拘束するのか、腕を放せ!」「違いますよ。お客様の安全を願ってのことです」「ほほほうっ、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。これもJRとしてのサービスの一環か」「いえ、これはサービス以前の問題でして、ヒューマニズムの発露です」今度は駅員が胸を張ります。「なにっ、やたら横文字並べるな。若いの、名前なんていうんだ?ううん?水戸…か、仰々しく名札ぶら下げて」「いけませんか?これはJRの社員としてひとりひとりが責任の所在を明らかにして、お客様に接するという証しであります」「またまた言う。それが気に入らん。JRになってからやたらみんな名前を名乗るが、その名札もそうよ。ハッキリ言ってどうも胡散臭い。こっちが名前を知りたくなるようなサービスしろってえの」「ごもっともです」

 駅員いささか持て余し気味です。「ごもっともです、なんてわかってんの、乗客にサービスするというなら検札なんか止めたらどうだ。あれは取り調べってもんだろう」「取調べなんて飛んでもありません。ご乗車して頂く代価をお客様に公平にご負担頂くのがモットーでして、他意はございません」乗客はなおも矛先を緩めません。どうも駅員とのやりとりを楽しんでいる気配もなくはないようです。「他意はございません。小難しいこと並べてマニアルに書いてあるのか」「そんなマニアルはありません。当然のことでして限りなきサービスの根源であります」「言ってくれるよなあ」乗客はいささか疲れてきたようです。「それからお客様、検札ではなく改札と申します」「わかった、わかった。分かりました。君は偉い!この酔っ払いにめげずに応対する。なかなか出来ないよ。親御さんのお顔を拝見したいもんだ」駅員は溜め息を吐きます「上げたり下げたり」

 

 「一件落着」

乗客は一言残して歩き出そうします。慌てて駅員は羽交い絞めするように元の位置にもどします。乗客は酔いも醒めたのか、それとも疲れたのか、今度は逆らわずにおとなしく顔に笑みさえ浮かべてます。しかしどこか寂しそうです。

「駅員さん、もうそろそろ電車来るね」「二分で参ります」乗客は言葉を繋ぎます。

「俺も六十の定年前にしてリストラで退職だ。サラリーマン最後の日にあんたのような若者に逢えたってことは、何事にも替えがたい貴重な経験だよ。天からの贈り物だ。繰り返して言わせて頂きますよ、貴重な夜でした」駅員ははにかみます「大袈裟なお客様、でも最前からのお言葉無駄には致しません。僕にとっても貴重な夜でした」「はははっ、嬉しいこと言ってくれるね」

 ひと際高く警笛を鳴らしながら最終電車が到着します。かの客は最後に車上の人となり、駅員に深々と頭を下げています。駅員はなにごとも無かったようにホームに気を配り、車掌に合図を送ります。発車のベルが今夜ばかりはなぜか物悲しさ中にも爽やかさを滲ませ、ホームの屋根を震わせながら、夜空にやさしく溶け込んでいきます。


ステーション物語 再録

2015-04-01 00:53:06 | 物語

2007-07-11 06:07:01 | 物語

ステーション物語 第六話

 

ホームに電車が到着しては発車していきます。そしてそのあと前と同じように、秩序正しい列が作られていき、そして一つの乗車口に中年の男性が二人並びます。朴訥な感じでどこかとなく素朴な地方の匂いが漂います。恐らく農村からの出稼ぎの人でしょう。男の一人が口火を切り、相手が答えて話が弾みます。

「おい、おっかあから便りあっか」「ああ、こないだあったわ」「なんて?」相手は嬉しそうに答えてます。「本家の跡取りにやっとこさ嫁が決まったとさ」「ほほうっ、そいつは目出てえな、どっからだ、フィリッピンじゃあんめえ」「うん、違う。村にも二人ばかフィリッピンの嫁っこいるが、よく働くもんな。でも違う。詳しいことは書いてなかった」伺うように男が聞きました「町のおなごじゃあんめい?」「そうじゃねえ」「倅に嫁が来ねえのは不憫なこったが、町からきた嫁さんに泣かされてる農家もあるって。だって農家の嫁が土で手が汚れるの嫌だと言うんじゃ、こりゃ泣かされるわな。そんな嫁なら来ねえ方がいいしな。でも倅が不憫なことには違えねえし…」相手は苛立ちます。「町からじゃねえってばさ」「わかってる、わかってるって。そいじゃ仕事じめえのめいに、一度帰えなんきゃあんめいな。おらとこと関わりあんだら、おらも式さ出なきゃなんねえし、一緒さ帰えっぺ」相手は手を振ります。「まだ式は先のことだっぺよ、また気の早え」「はははっ、んだな」「ところで」と相手は改まります。「おらさ、都会さ来ていつも思うだが」「なによ?」「いやなんだな、都会さ来て一番びっくりしたのは…」「だからなにさ」「ビルがいっぺぇあることじゃねえ、仰山の人いるでもねえ」「なによ?」「電車の数よ。今行ったと思ったら直ぐに来っぺ、これは驚きだな。田舎じゃ行っちゃったら呆れるぐれえ来ねえもんな。さすが都会だあ」と感嘆の声を上げるのでした。それに相手は反発します。「田舎とそんだらこと比べたってしょうあんめい、田舎には田舎の良さがあっぺよ。素朴だべさ田舎は、都会じゃまんず見られねえいいもんがいっぺいあっぺよ、な。田舎だあってホットすることあるべよ」「それもそうだ、だども嫁不足にはみな泣いてっぺ」「それよ、いま村にいるもんたら、嫁も来ねえでも頑張ってる長男の倅と、年寄りだけだもんな」「それよか、農家じていがよ、自分とこの娘っこ農家に嫁にやるの嫌がっててさ、それでて嫁が来ねえ嫁が来ねえってのはおかしな話だっぺよ」「違えねえ、それを矛盾してるっていうだべ」「今に農村は年寄り夫婦と、嫁もとれねえまま男やもめになっちまった長男だけになっちまう。おっそろしいなや」「そうよ、こないだタクシーの運ちゃん言ってたわ、客は病院通いと、ゲート場さ行く年寄りだけだと」「笑い事じゃねえよな全くのとこ、過疎じゃなくてこりゃ疲弊ってんだな。田舎にゃ若いもんの仕事がねえんだからしょうねえよなあ」

 

二人の愚痴話は延々と続き、思い過ごしか電車もそれに合わせるようにゆっくりと、警笛も寂しげに鳴らして入ってきました。

第六話終わり