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うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 ステーション物語3

2007-07-10 05:23:37 | 物語

ステーション物語 第三話<o:p></o:p>

 

夜も大分更けてきたプラットホーム。ラッシュ時の喧騒の余韻がいまだ後を引いております。駅舎全体を揺さぶるような騒めきは、夜の静寂(しじま)にほど遠く、ホームを照らす天井の灯りが眩しく流れます。流れる灯りはレールを鈍く、濡れたように光らせています。そんな中に声高に喚くように話に興じる若者が二人、ホームの端に陣取っています。ニッカーボッカーズにふわっとした作業着をまとっています。今風のとび職の扮装(いでたち)でしょうか。赤と黄色のタオルをそれぞれ無造作に額に巻き、勿論茶髪。腕にブレスレットが絡み、太いネックレスが首に踊って、金と銀のメッキの光が周りの空気を恫喝するようです。

 若者の一人が感に堪えぬように喋ります。

「俺さ、田舎から出てきて何がびっくりしたって満員電車だよ。だってさ、あんなに堂々と男と女がピッタリくっつけるなんて考えられないぜ田舎じゃ。田舎もんには毒だがよ、人が一杯いるってことはいいことだよな」「なに考えてんだお前、変態か」相手が言います。「違うって、助兵心があるだけ、助兵心は誰にだってあるぜ。変態と違う。助平心は健全なる精神と肉体に宿る」「ふーん、尤もらしいこと言ったりして。それより痴漢てさ」相手は話題を変えます、「痴漢てさ、男だけなんだろうか」そんな相手に若者の言葉は弾みました。「そりゃあそうだよ。でもさ、女の痴漢に遭っても誰も届けないよな、第一悲鳴なんかあげない。少なくとも俺はされるままにじっと我慢してる、ただひたすら耐える」「バカ、そんなに力入れんな。それよりさ、俺こないだ面白え話聞いたんだ」「女の痴漢か」若者は相手の若者の話に乗りました。「いや、痴漢てわけじゃないんだ。満員電車でその人さ、女と向かい合ってぴったりくっついていたんだって。夏のことでその女の人汗かいて化粧も流れ落ちそうだったんだって」「バカに話がこまかいな」相手は黙って聞けと怒りました。そして話を続けます。「その人痴漢に間違えられないように、両手を上げたままはいいが身動き一つ出来ない混み様だったそうだ。そんとき女の人汗拭きたくて、身動きできないながらバッグからハンカチ出そうと必死だったらしい。ところがバッグのチャックを懸命に開けようとしたのはいいんだが、間違えその人のパンツのチャック降ろしちゃったんだって」「嘘、うそウソ、ウッソー」若者は相手の若者を小突きました。小突かれた若者はなお続けます。「ほんとだって、そして手を入れてシャツの裾と一緒にアレ摘み出したんだって、その人びっくりしたのしないのって、なんたって手は上げっぱなしで下ろせないんだから」「それで女の人は?」「そこまでいきゃあ気づくさ、真っ赤になって必死に乗客かき分けて離れて行ったってさ」「恥ずかしかったろうな、それから」相手の若者がまじめに話を促します。「それより気の毒なのはその人だよ。しまわないで行かれたもんだから剥きだしのまんま。手下ろしてチャック閉めることも出来ず往生したってさ」「間違い無しの露出狂ってわけだ。それって立派な犯罪だぜ、猥褻物陳列罪。ははははっ」彼は笑って決め付けるように言いました「ウソ」。

相手も間髪入れずに言いました「ウソ、あっはははっ」。

               第三話終わり


うたのすけの日常 ステーション物語2

2007-07-09 04:44:58 | 物語

ステーション物語 第二話<o:p></o:p>

 

年は同じぐらいでしょう。若いサラリーマンの二人が電車を待っております。仮にAとBとしました。ホームにアナウンスが流れます。『間もなくン番線に電車が参ります。どなた様も危険ですから白線の後ろまでおさがり下さい。ご乗車は降りる人が済んでからお乗り下さい』さっそくAがアナウンスに反応しました。「俺の田舎じゃ落ちた人が死んでからお乗り下さいってなるんだぜ」「またあ、古いギャグ言うよな」「はははっ、そうだよな。ところで俺いつも思ってるんだけど」急に調子を変えるAにBは言いました「何だよ」「ホームのアナウンスだよ」「それがどうかしたのかよ、古い話はすんなよな」Bは釘をさします。「ここはJRのホームだよな、今電車待ってるんだよな」「決まってるじゃないか、なに言い出すんだよ」Bが呆れ声で言いました。Aは答えます「間もなくう、ン番線に電車が参りますって言うよな、これっておかしくないか、おかしいよな」Bは「どこが?どうして?」「どこがどうしてって、いいか、ここはJRのホームだぜ、電車が来るの当たり前じゃないか。飛行機が来たり船が入ってきたりしたら大変だよ。誰も飛行機や船待っているんじゃないよ。なにも電車が来るなんてわざわざ断ることないと思うんだけど…、俺ってヘンか」「うーん」Bは絶句します「ヘンかって、お前いつもそんなこと考えてるの?そんなことどうだっていいじゃないか」「そうだけど、どうも気になるんだよな、ほかに言い様がないかって」Bは相手にしてられないといった調子で「何て言えばいいの」Aは大まじめに答えます。「間もなくン番線に何時何分発、何々行きが参ります。どなた様も…と言うなら素直に聞けるんだけど、どうを?」Bはため息を吐きました。「素直だかどうだか。あのな、お前会社でも時々そんな調子で仕事に関係あんだかないんだか、わけわかんない事言い出すだろう、外でもそんな事に頭使ってるのか。課長が、胃が痛え胃が痛えって薬はなさないの分かるよ。お前のせいだぞ。俺は知らない、ほら、電車が来るぞ。あっ、そうか、船は来ないよな。ああ、わけわかんなくなっちゃった」Aはわが意を得たようににっこり笑って言いました。「そうだろう、なっなっ、どうしたっておかしいよ」

 Bは呆れて言いました「ウルセ」。

                                  第二話終わり


うたのすけの日常 ステーション物語1

2007-07-08 05:49:34 | 物語

ステーション物語<o:p></o:p>

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 駅の階段ホームには朝夕のラッシュ時に限らず、外界とは違った緊張が漲ります。ホームに到着した電車は乗客を吐き出し、次なる乗客を投網で掬うように呑みこんでは発車していきます。そこに男と女そしてあらゆる年齢層や階層の人たちがひしめき合い、黙々と人生模様を繰り広げているのではないでしょうか。駅を劇場に例えれば、観客不在で喜劇悲劇とあらゆるドラマが演じられているはずです。あたしは今一人の観客となって、演じられているはずのお芝居に、見たり聞いたりそして読んだことを元に想像をめぐらして、いくつかの物語を書いてみようと思います。先ずは第一話とまいります。<o:p></o:p>

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第一話<o:p></o:p>

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今ホームに立つ二人連れのサラリーマン、一見上司とその部下と見てとれますが、いささか酒気を帯びているようです。上司が部下に語りかけます。「定時に終わったときぐらい真っ直ぐ家へ帰ればいいのに、今日も途中下車してしまったな」「でもこの時間に帰れれば御の字ですよ」「そうだな」部下の答えに自嘲気味に上司は言葉を繋ぎます。「帰っテ、風呂入っテ、茶漬け食っテ、テレビ見テ、そしテ…テテテテテテで明日はまた二時間通勤か、我ながらよく持っているもんだ。…ところで君な」「何でしょう?」急に改まる上司に部下はいささか緊張します。「私はいつもこうして電車を待っているとき思うんだよ」「何をですか」「人生ってのは電車に乗り遅れるようなことがあるっていうことだよ…直ぐ後から来るのに乗ればいいのだが、絶対に前には追いつけないし、勿論追い越すことも出来ない。乗ったのが終電車ってこともあるわけだ」「ははあ…?」部下は今ひとつ理解できずにいます。上司は赤くした酔いの目も虚ろに慨嘆します。「…ついてる奴だけ乗ってる電車もあるんだろうなあ」「はあっ」「まあいい、そろそろだな」「何がです?」いささか腹立たし気に上司は言いました。「電車だよ」「そうですね、空いてるといいですね」部下の言葉の語尾は進入して来る電車の騒音に消されていきました。

第一話おわり<o:p></o:p>