望郷というのは、遠くしかも長期間離れている故郷を思うのだから、当然のことながら、移動を前提とする。移動は、罪を犯して故郷にいられなくなった、というような個人的事情によるものもあるが、多くの場合、社会現象でもある。
アメリカで言えば、西部開拓と、これに伴う大陸横断鉄道の建設とか、ゴールドラッシュとか。南北戦争後は、北部工業地帯への労働力の集中とか。
(南北戦争における重要な争点である奴隷解放は、ただ単にヒューマニズムではなく、北部での安価な大量の労働力の供給という面もあった。政治はしばしば、経済からの(資本からの)要請に応えるために、耳に心地よい言葉を発明する。「より自由なライフスタイルを選択する可能性」と現日本政府が言っている「働き方改革」というのもそれだ。お上の言うことには用心しなければいけない。)
そのあとは、開拓者たちが住み着いた土地からの、その子孫たちの東部や西部の都市への移住もある。
個人の仕事探しの旅も、罪を犯しての旅も、こうした社会現象の中で起こった出来事が多いだろう。
望郷の歌は、そのような社会現象の中で生まれ、歌い継がれる。
日本で言えば、明治維新後の大移動。また、明治時代には、学業や仕事のために長距離を移動することは多かった。江戸で生まれた夏目漱石は松山へ、次いで熊本へ赴任しているし、その熊本で生まれた犬童球渓は音楽教師として新潟に赴任し、望郷の思いから「旅愁」や「故郷の廃家」の美しい日本語訳を生み出した。
戦前の、大陸や南方への移動、戦後の大移動、それから、集団就職や出稼ぎ。(「金の卵」も「マイホーム」も、上に書いた、耳ざわりの良い言葉の中だ。)ここでも、そのような社会現象の中で歌が生まれ、歌い継がれる。
…と前置きをしたうえで、日本の望郷の歌の中でまず挙げるとすれば、「新相馬節」の一番だろうか。
一般に、民謡は地元の人々が、地元の良さを歌うもの(お国自慢)が圧倒的に多いので、普通は望郷の歌にはならない。また、各節がばらばらに作られて後でまとめられるケースが多いので、内容は一貫していない。 新相馬節もあとの方は恋の歌詞が多い。にもかかわらず一番先に挙げたのは、言うまでもなく、東日本大震災と福島第一の原発事故の後、この一番の歌詞が究極の胸せまる哀切の歌になってしまったからだ。
ハァーアー
遥か彼方は 相馬の空かョー
ナンダコーラヨート
(ハァ チョーイチョーイ)
相馬恋しや 懐かしや
ナンダコーラヨート
(ハァ チョーイチョーイ)
鈴木正夫の、また三橋美智也の美しい声が、その哀切を深める。でも、この二人だけでなく、この歌は誰が歌っても、相馬や福島を離れた人が歌ったらなおさら、そうでない人が歌ってもやはり、聴くものは、また、共に歌うものは、この歌に哀切と共感を覚えるだろう。
アメリカで言えば、西部開拓と、これに伴う大陸横断鉄道の建設とか、ゴールドラッシュとか。南北戦争後は、北部工業地帯への労働力の集中とか。
(南北戦争における重要な争点である奴隷解放は、ただ単にヒューマニズムではなく、北部での安価な大量の労働力の供給という面もあった。政治はしばしば、経済からの(資本からの)要請に応えるために、耳に心地よい言葉を発明する。「より自由なライフスタイルを選択する可能性」と現日本政府が言っている「働き方改革」というのもそれだ。お上の言うことには用心しなければいけない。)
そのあとは、開拓者たちが住み着いた土地からの、その子孫たちの東部や西部の都市への移住もある。
個人の仕事探しの旅も、罪を犯しての旅も、こうした社会現象の中で起こった出来事が多いだろう。
望郷の歌は、そのような社会現象の中で生まれ、歌い継がれる。
日本で言えば、明治維新後の大移動。また、明治時代には、学業や仕事のために長距離を移動することは多かった。江戸で生まれた夏目漱石は松山へ、次いで熊本へ赴任しているし、その熊本で生まれた犬童球渓は音楽教師として新潟に赴任し、望郷の思いから「旅愁」や「故郷の廃家」の美しい日本語訳を生み出した。
戦前の、大陸や南方への移動、戦後の大移動、それから、集団就職や出稼ぎ。(「金の卵」も「マイホーム」も、上に書いた、耳ざわりの良い言葉の中だ。)ここでも、そのような社会現象の中で歌が生まれ、歌い継がれる。
…と前置きをしたうえで、日本の望郷の歌の中でまず挙げるとすれば、「新相馬節」の一番だろうか。
一般に、民謡は地元の人々が、地元の良さを歌うもの(お国自慢)が圧倒的に多いので、普通は望郷の歌にはならない。また、各節がばらばらに作られて後でまとめられるケースが多いので、内容は一貫していない。 新相馬節もあとの方は恋の歌詞が多い。にもかかわらず一番先に挙げたのは、言うまでもなく、東日本大震災と福島第一の原発事故の後、この一番の歌詞が究極の胸せまる哀切の歌になってしまったからだ。
ハァーアー
遥か彼方は 相馬の空かョー
ナンダコーラヨート
(ハァ チョーイチョーイ)
相馬恋しや 懐かしや
ナンダコーラヨート
(ハァ チョーイチョーイ)
鈴木正夫の、また三橋美智也の美しい声が、その哀切を深める。でも、この二人だけでなく、この歌は誰が歌っても、相馬や福島を離れた人が歌ったらなおさら、そうでない人が歌ってもやはり、聴くものは、また、共に歌うものは、この歌に哀切と共感を覚えるだろう。