すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

塞外

2023-06-10 09:39:50 | 詩集「黎明」

僕は出て行く
この崩れかけた城塞の向こうへ
僕は出て行く
ここから西は茫洋として何百里
道は無く 馬は嘶かず
ただ砂の嵐だけが終日
大地を空に吹き上げている
それこそ僕の望むところだ

幾日目かの終わりに
髭と髪にこわばった砂を払い落とし
古代の井戸で僕は飲むだろう
文明が滅んだあと 幻が消え去ったあとの
星に還った静寂を

嵐は止んで
うずくまった僕の影の上に
夜は軽々と覆い広げるだろう
聴く者もいない何万年もの夢を

この崩れかけた城塞のほとりまで来ても
まだ風は生暖かい
腐った都市のざわめきが流れてきては
ここで最後の澱みを作る
僕はもう
人間の音楽には心を惹かれなくなってしまった

今ちょうど望楼の矢狭間の向こうから
落日が一文字に僕の目を射抜いた
それが出発の合図だ
僕の渇きはもう
人間の唇では癒せない

コメント
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