僕は出て行く
この崩れかけた城塞の向こうへ
僕は出て行く
ここから西は茫洋として何百里
道は無く 馬は嘶かず
ただ砂の嵐だけが終日
大地を空に吹き上げている
それこそ僕の望むところだ
幾日目かの終わりに
髭と髪にこわばった砂を払い落とし
古代の井戸で僕は飲むだろう
文明が滅んだあと 幻が消え去ったあとの
星に還った静寂を
嵐は止んで
うずくまった僕の影の上に
夜は軽々と覆い広げるだろう
聴く者もいない何万年もの夢を
この崩れかけた城塞のほとりまで来ても
まだ風は生暖かい
腐った都市のざわめきが流れてきては
ここで最後の澱みを作る
僕はもう
人間の音楽には心を惹かれなくなってしまった
今ちょうど望楼の矢狭間の向こうから
落日が一文字に僕の目を射抜いた
それが出発の合図だ
僕の渇きはもう
人間の唇では癒せない